62.五大帝王 地球最大の結集
前回のあらすじ:珍しく東宝ネタ。シリーズ完結作と言えば、「続・社長紳士録」のラスト、東宝俳優総進撃のシーンも誠に壮観、でした。どっちも完結しなかったってオチも一緒。
大陸暦1510年、穣の月(5月)。各地で長い冬が終り、豊作の祈りを込めた農作業も一旦落ち着いた頃。
護児城を出発したシン・スーパートレイン(軽便鉄道)がミデティリア帝国の皇都マンナの郊外に到着した。
人々は歓声を以て大きくなった鉄道を歓迎した。
皇帝キオミルニ31世と第一皇妃、そして宰相とその妻達が人々の歓声に応えて古代神殿風の巨大な駅舎に向かい、次なる乗客を待つ。
その後に、教皇ディグニ49世が、枢機卿団を伴って教皇の前に来、皇帝達の跪礼に答える。枢機卿団の中には、この平和の日を実現した影のファクター、コンクラベ師もいた。
その時、笛が鳴った。マンナ駅の南方より、別の列車が来る。
帝国を南下し、グランディア大陸の海岸線を経て西方のフロンタ王国の首都まで延長した軽便鉄道に乗り、フロンタの王族宰相が到着した。
駅舎にフロンタの旗が掲げられ、フロンタの国歌が奏でられた。
フロンタ国王夫妻が下車し、教皇に跪き、皇帝と握手する。国民の歓声が沸く。
その間に機関車は連結を解き、フロンタからの客車は先の列車に連結された。機関車も先頭に重連された。
一同は客車に乗り込む。鐘の音と、続いて笛の音が鳴り、ドアが閉まる。
列車はゆっくりと加速し、駅舎を離れ、人々は歓声で見送る。
帝国の軍楽隊は典礼の歌「天つみ使いの護り」、王都の修学旅行の最後に子供達が歌った、新たな道へ向かう者を祝う歌を奏で、帝都の市民は合唱した。
さながらその様子は礼拝の様であった。
皇帝、国王、教皇達は車窓から手を振り応じた。群衆の中には跪いて感涙する者もいた。護衛騎士の老人達は直立不動の姿勢で線路を守っていた。
列車は帝都を抜け、高地に差し掛かると…かつて帝国とダキンドン王国の会談と、そしてディグニ49世帰還の場となった、白く輝く「御座所」が見えて来る。
乗客一同は驚きの声を上げた。帝国首脳だけは、しげしげと眺めるだけだった。この御在所、帝都ではすっかり観光名所となり、護児城が帝国に貴族保養施設として管理を委託するホテルにもなっていた。
巨大な対面所までの表向きや各櫓は一般市民にも開放され、奥御殿や大浴場は貴族用のホテルとなり、護児城の外貨の一部になっている。因みに天守は1日御一組限定のスイートルームで、宿泊費も超高額。特定日だけ休業し一般公開されている。
千畳敷は会議場、宴会場、演劇場として貸切られる事もあるそうだ。
入場する人々は、誰しも狩野派の障壁画、見たことの無い黒漆と金の織りなす装飾に目を奪われているそうな。
うん。作った意義あったな。
この時、フロンタ国王は第一王妃にこの城と同じ物を自国に立てる様、激しくねだられたそうな。
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列車は北東へと一直線に進む。運転するのは城の少年達だけではない。フロンタ王国からも、帝国からも鉄道の運営に参加すべく、半年の研修を受けた大人達も交代で運転に当たった。
途中で停車する信号所では、この世界の頂点に君臨する人々へ軽食や酒が提供された。なお、各客車にはトイレも設置されているので安心だ。
各国の元首と宰相達は供されるヴァン・ムスを楽しみ、酒肴を味わいつつ、流れる景色を楽しんだ。試験的に仕込み、出来は上々であったため供出された、薄紅色のヴァン・ムス、シャトー・ティーグロゼだ。御婦人方に大好評であった。
最高時速120km、マンナから1時間弱でダキンドン王都シャトー・ダキンドンが見えて来た。
「噂には聞いていたが、隣国の王都までこんな気楽に来れるとは…戦争なんかになったらこの鉄道はまさに脅威だ!」帝国と王国の宰相達が唖然としていた。
この鉄道は、食料や酒、消費財や鉱物資源だけを運ぶものではない。時に情報を、新聞・印刷物という恐ろしい武器を、敵地に向けて運ぶ。勿論、多数の軍隊も運ぶことができる。そうなって欲しくないが、避けて通れない歴史の必然だ。
そして、シャトー・ダキンドン駅に到着する。そこにも既に列車が待機し、聖女にして女王オーテンバー・ダキンドンが国民の歓声を受けて列車を迎えた。皇帝夫妻、教皇、フロンタ国王夫妻が下車し、オーテンバー王女と挨拶を交わす。
国民の熱狂の中、オーテンバー王女と、護衛武官となり陞爵したテイソ・タオヤーク伯爵、そして王国宰相達が列車に乗る。その中には総本山クーデター鎮圧の立役者として帝国の協力を取り付けたリベラ卿もオレンジャー卿もいた。
3カ国に総本山を加えた、大陸の重鎮4集団が、各20人程度の近習と共に、北へ一直線、600kmを進んだ。
途中の信号所に宮殿の様な駅舎を設け昼食を摂り、日の高い内に魔の森の地下へ進んだ。
この時代の人達は地下を穢れと見ていた。
しかし、そんな事気にしてたら鉄道なんて敷設出来ないので、各国で鉄道を延伸させる時、工事計画を説明し、自国のトンネル完成式典には元首を招き、数日を要する難所を一瞬で通過する快感を存分に味わってもらった。なので、今更慌てる物はいない。
見附城の地下を通過し、森へ出ると。
青空の下、線路の先右手に林檎の花が満開で、線路の左右一面には菜の花が鮮やかな黄色に輝いている。
乗客は歓声を上げ、密かに魔の森を恐れていた者もその心配を忘れた。
列車は南之院の脇を通過し、巨大な東西の双塔と、本堂の大屋根に再度歓声が上がる。
そして、緑豊かな農地を越えたその先には、我等が護児城が聳え、乗客は三度の歓声を上げた。
皇都郊外の御座所をより巨大に、立体的に組み上げた様な、白い壁が重なる、二重三重の櫓が並び立つ光景。今までその都で巨大な建築を見て来た王も皇帝も、只々見入っていた。
列車は三之丸に入り、そこには巨大な偽洋風の駅舎が立っていた。
鉄道唱歌が演奏され、子供、若者を中心とする城の住民が国々の旗を手に振って歓迎している。
事前に学校で、世界の王様が集まる事を教えていたのだ。
そして。
城の北側からも、別のホームに列車がやって来た。
それと同時に、鉄を打ち付ける音が響いた。城内に住むドワーフ達が王を迎えるのだ。その音の意味に、フロンタ王も皇帝も気付いた。
列車からドワーフの王、ハンマーとその妻ベロー、そして宰相に当たる、匠のドワーフ達が降りて、南から来た王達の下へ来た。
王であり義父であるハンマーは…小柄ながらもたくましい筋肉の上に黒光りする皮の鎧、しかもその隅々は虹色に光るミスリルで装飾された、誰もが解る高級品を身に纏い、王者の威厳を示していた。
王妃もドレスではなく、皮の鎧を、王同様に黒い漆で塗り、随所にミスリルや宝石で飾り、更に高級な皮を惜しみなく使ったマントをたなびかせて王に従って来た。
続く重鎮の匠達も、余程の手練れでも貫けない皮の鎧兼礼服を纏っている。
フロンタ国王夫妻、ダキンドン女王オーテンバー・ダキンドン、ミデティリア帝国皇帝ミオミルニ31世夫妻、そして創世教会教皇ディグニ49世とドワーフの王ハンマー夫妻、5人の大陸の王が、帝が、教皇が、護児城の三之丸大手駅に集結した。
私は、10人の妻達と、来賓に頭を下げ、歓迎した。
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各国の紋章が織り込まれた五つの旗が駅前広場に翻った。各国から指定された、暫定的に決められた『国歌』と共に掲揚され、城の子供達も頭を下げ礼を捧げた。そして各国の元首は互いに握手を交わした。
元首とその妻は馬車で、随伴する貴族はそのまま汽車で二之丸の宿泊所へ向け出発した。
もう城での歓迎パレードは何回目になるだろうか。最初は友レンドリーを、二度目は闖入者オーティを。その間に私とステラ、アンビーの結婚式、50組の夫婦、ウェーステ達の結婚式。
今回はムジカ率いる楽団だけでなく、各国の最上級の楽団が事前に集結し練習し、5大帝王のパレードを誘導している。
唯残念なのは、城の子供達にとっては。
「世界中の王様がこのお城にやってくるよ!」と教えても
「その王様達が、私達に何をしてくれたの?」
「御屋形様より立派な人なの?」
「御屋形様が助けに行った、馬鹿な人達じゃないの?」
「威張ってるだけで何もできない人なんていない方がいいんじゃないの?」
と、かなり辛辣なご意見を思う存分吐き出した事だった。
「君達は、王様や貴族がいる世の中から捨てられた。
君達は、王様、貴族、代官から守って貰えなくて、殺される所だった」
子供達はステラやプリン、オイーダ達にトラウマを癒されたとは言え、やはり一生捨てられたという原点からは離れられない。
「しかし、今。この魔の森の南のダキンドン王国は、オーテンバー女王と、リベラ辺境伯達が、村の子供達を護っている。
ここに来る王様達は、自分の国に、この城みたいに、子供達が死ななくていい様なお城を作ろうと、勉強しに来るんだ」
「王様も勉強するの?」
「そうだよ。私だって、みんなと一緒に暮らして、勉強してる。人は生きている限り、ず~っと、勉強するんだ。それを止めたら、人じゃなくなるんだ」
子供達は、なんだかわからないながらも、考えている。
そして今。子供達は、その先輩達は、来客に対して片手に城の旗、片手に各国の旗を持って歓迎している。帝王たちに、期待を込め、それが裏切られる事が無い様に、熱い視線を込めて。
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本丸御殿唐門を通過し、歓迎の儀礼を行い、一同は大広間へ向かった。
そこで、各国への敬意表明を行い、改めて公式に会談した事を記録した。
何せ、大陸で初めての、国家が順列を決めず、創世教会総本山の立ち合いの下、会議を行う試みだ。各国の記録に齟齬は無いかも、後にチェックされる。
会議の趣旨を確認し、各国の主張を聞き、合意できていない問題の洗い出しを行った。初日はそれで完了し、各国元首は宿泊所に向かった。
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各国の宿泊所として案内されたのは…
三ケ国は二之丸の防衛部、農務部、法務部の庁舎。
そして総本山は三之丸駅の付近に新設された大聖堂の司教館。
かつて故郷日本で「敵国を救うための正義」と称して、同じ神を信じる老若男女を数千度の熱で焼き殺した『ジェノサイド』の痕跡。
戦勝後、自分達の犯した罪を無かった事にしようとした勝者によって、その痕跡を破壊しつくされた、赤い煉瓦と白い花崗岩で建設した双塔の大聖堂を建てた。
義父母は三之丸製鉄所。随行した重鎮と、城で学んだ気鋭とで、相当盛り上がった。提供した若い3年物のウィスキーも殆ど飲みつくされてしまった。
流石にアンビーが怒りの鉄拳を喰らわしてお開きになった様だ。
どーにもドワーフだけ大学の宴会みたいなフランクな感じで調子が狂う。
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翌日、実質的な会議が開始された。それは波乱の幕開けだった。
総本山の主張は、可能な限りの直轄領の復帰と支援。
大陸擾乱の元凶が何言ってんだタコってな主張だ。事前に却下したのにまだ可能性を探っている様だ。
フロンタは擾乱による通商機会の損失補填。
鉄道延伸によるメリットを数的に提示したら、早々に撤回した。
帝国は、事前に「総本山擾乱に協力した事への恩賞として、紙と印刷機、そして城の子供達を献上する様」と打診して来た。
私は「帝国の土地を地上から消滅させるから市民を載せる船を用意しろ」と回答した。その結果、この会議では不戦条約締結だけを条件として提案した。紙と印刷機は、有償でなら提供しよう。
ダキンドン王国からの要求は…
「知的財産の管理を各国で共有化し、違反者への罰則も共有化する」
「刑法を明文化し、犯人の国籍に係わらず、犯罪が行われた国で裁判される様協定を結ぶ」
「人身売買には死刑を前提に、取締りと罰則強化を明文化する」
等々。この会議の発起人だけあって、事前に計画した提案を女王は淡々と説明した。
各国とも、ダキンドンの提案にはあまり良い顔をしなかった。しかし
「警報です。角熊が西方に現れました」との伝令に、一同愕然とした。
「余興とお考え下さい。皆様、あちらへ」と、坤櫓に続く多門櫓へ会衆を案内した。
鐙窓の隙間、遥か先に、身長7~8mの角熊が…惣構えの櫓が放った超弩弓に葬られていた。
角熊3体が白金門前で解体され、良い肉の部位が本丸台所へ運ばれ、巨大な毛皮がクレーンで吊るされ、皮脂が子供達の手で削がれた。
各国の武官は青い顔で帝王達に何かを語り、帝王達も顔色を失って行った。
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その夜。各国王家の生え抜きの料理人、輸送された酒を動員しての本丸御殿の饗宴。
城からの参加者は私と妻達。城の子供達は参加していない。
城の物資で持て成せと言われずに済んだ。
これはダキンドン王国が「極力魔の森の負担にならぬ様、物資饗宴は自国持ち寄りで」と働きかけてくれたお陰でもあるし、「訳の分からない平民の、しかも子供など他国と覇を競う場での饗宴に参加させられるか」という各国の思惑の結果でもある。
ただ、皆が暮らした本丸御殿での祭典に、この城の主である子供達がいない事に、やはり違和感は覚える。
それでも子供達は私に言ってくれた。
「国中のみんなが幸せになれば、私達みたいに捨てられる子がいなくなる。お母さん達と離れずにずっと暮らせるんだ」
「これからこの城で増える子供は、俺たちが結婚して生まれる子供達だ!いつか俺たちも子供達も城の外に出る。だから外の世の中が平和なのが一番だ!」
各国の王、皇帝、教皇。この城の子供達の祈りに、応えてくれ。
楽団の演奏が止み、一の間を魔道具の照明が照らす。教皇が壇上に登る。
「この夜は、この大陸の主な国の皇帝と国王が集まり、人々の平和な暮らしを守るために集まった、歴史に残る日です」教皇の宣言に、会衆は割れんばかりの拍手を贈った。
中には「お前の不甲斐なさでその平和も地獄の地獄になりそうだったがな」と皮肉を込めた眼差しを送る者もいた。
「この城は、平和な暮らしを送る事を許されなかった、我が家を追放され、魔物に食い殺されそうなところを、魔導士タイム様に救われた子供達の城です。
その子供達が、大陸の平和を願い、私達に糧を齎してくれ、大陸の平和を守ったのです。私は無力でした」
会衆はどよめいた。権威の象徴である教皇が、得体の知れぬ平民の子供より自分を格下と宣言した。
下手をすればこれを言質にまたクーデターが起きそうな爆弾発言だった。
「私は、改めて子供達と平和のために祈りたい。神に向き合い、平和への願いを歌いたい。どうか、各国の帝も王も、宰相も、共に歌って欲しい。信じる神が異なる方も、祈りに込めた思いを、静かに聞いて頂きたい」
創世教を信じないドワーフの王と王妃も、その真摯な願いに頭を下げ、近習達もそれに従った。
一の間の前に、城の子供達の合唱団が整列し、会衆に向かう。
楽隊のいる能舞台の下にも、ムジカやテンポラ達音楽隊が、各国の楽団とともに準備している。もう10歳になったミッシも、合唱の制服を着て参加している。整列した合唱隊は、天使の様だ。
「聖なる神に栄光・・」と教皇が先唱する。
「聖なる神に栄光、地に平和」子供達が合唱し、楽団が力強く命の礼拝の序曲を演奏する。
これに応じるかの様に、三之丸から、新築された大聖堂の鐘が打ち鳴らされた。
教皇は、各国の王に目配せをする。皇帝も、王達も、声を合わせる。
「我等信ず、世を救い魂を救う神。神の招き給う天の国は死に打ち勝つ」
あまり面識もないフロンタ王は、真剣に礼拝の歌を歌う。その第一王妃は涙を浮かべつつ歌っていた。
キオミルニ皇帝は、周囲を観察しつつ歌っていた。
オーテンバー女王は…涙を堪えつつ、というかボロ泣きで子供達に熱い視線を送り、熱唱していた。
ドワーフ王の義父母は、悪くない、と言った顔で礼を捧げつつ、会衆の合唱を聞いていた。
会議は踊る、されど進まず…と言われた、我が故郷初の国際会議。しかしこの世界初の国際会議はそうはならなかった。きわめて合理的に進んだ。
それは、この教皇の、私達の子供を上手く使ったパフォーマンスのお蔭かも知れない。半分は。
翌日からの協議は、各国が自国の利益を最大限に獲得する争いの場から、最大公約数で妥協する協調の場に替わった。
各国とも、どこで妥協するかの線引きは考えていた様だが、教皇自らが城の子供を率いての聖典合唱を行い、大陸の平和を前面に打ち出したため、と言うのが半分。
そして、その翌日の演劇を鑑賞したためが半分であった。
このところPVが徐々に減っており、やっぱり「対軍団」というタイトルの所為で、読者の皆様に壮大な戦闘シーンを期待させてしまったかなあ、と反省していますが第二部と言えば「対〇〇軍団シリーズ」は外せない。悩ましい。
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