58.山から毛むくじゃら小僧がやって来た
前回のあらすじ:青天井番組。サンヨースゲェ。まさかあんな結果に終わろうとは無念。
平和の国、ダキンドン王国。だが、その平和は、一瞬にして破られた!小〇清志!
「せせせ聖女ーーー!!!」
あの夜の苦悶はどこへやら、いつもの面白い女に戻ったオーティ。聖女認定の報にアッと驚くタ〇ゴロー。
この報せは混乱を乗り越え飢饉を乗り越えた国民にとって、大きな喜びを持って迎えられた。人々は春もまだ来ぬ中、大いに飲んで騒いで歌って…
「禁止ー!あの歌禁止ー!!」「「「ブロロロー!」」」「「「ズババパーン!」」」「ヤメテーッ!」聖女の負け。
王都に、有力貴族の領都に、笑顔と歌(絶叫)と酒が飛び交った。
「なので酒を売って貰えませんか?」と春を前に雪道を越えて商人のマテオさんが来た。
「無茶でしょあんた!遭難したらどうすんだ!」
「乗るしかないんですよ、このビッグウェーブに!!」
「悪運と踊っちまうでしょが!!」
ここまでして来て貰っても、城の酒は「アォーペレーション!レーリジョス、ウォァーズ!」で余剰分を売り払ったしなあ。
城の最高会議「寄合」で、熟成中のウィスキー「マダム・アンビー」を売るかという話も出たが、アンビーが泣いて止めた。
「御屋形様の計画の結果じゃろー!あんたがなんとかしないなー!」
「アンビー、ちょっとかわいそうね。御屋形様、なんとかなんないの?」
という訳で、今年仕込んだ酒を空間複写し時間魔法チェースッ!で熟成させ、多少のシャトーティーグと、3年物のマダムアンビーを売った。稼いだ金は、皆で有難く分けよう。
鉄道の雪を空間転移チェースっ!で除去し、鉄道で領都へ、彼らと酒樽、ボトルの山を王都へ送ってやった。反則技の大盤振る舞いだ。
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これが騒ぎのタネだった。
ここ数年激減した魔の森の捨て子であったが、久々に叫び声が聞こえた。しかも珍しい事に北から。
叫び声の場所に着いたら、冬の間閉鎖されている筈の鉱山、そこに付帯された温泉に…
毛むくじゃら軍団が酒飲んで浸かっていた。今度は私が叫んだ。
「風呂入る前に体洗えや!」
私が着いた頃には、彼ら毛むくじゃらな小僧、に見えたドワーフ3人は、角狼に驚いて叫んだものの、反撃し辛くも勝利して焼き肉パーティを始めて酒を飲み、見つけた建物の中の温泉で寛いでいやがった。こんなパターンは初めてだ。ドワーフ強ぇ。だが傷だらけじゃないか。
「この温泉なら傷に効くってもんじゃろ?」うわあ。もうお湯張り替えないと。
男には厳しく、少女には優しく、粋でナイスでスマートに。手当なんかせず線路を歩かせて彼らを城に迎えた。
三之丸に入った彼らは、天守や櫓を見上げて茫然としていた。
そして、線路沿いに建つ製鉄所に招いた。
「まさかこんな所であんたらに会おうとはなあ」憮然とするアンビー。
「おお!まさにアンビー。すっかり女らしゅうなりょうて!」
「気持ち悪いわ!散々あたしを馬鹿者扱いしようた癖に今更何しに来た!」
城内に招かず、製鉄所で応じたのは、彼らと同郷のアンビーの希望だった。
「済まない!儂等が阿呆じゃった!この通りじゃ!」
一斉に頭を下げたドワーフ達。普段ものおじしないアンビーが「うげっ!」と驚いた。
「あ、あんた等何があった?!無駄にプライド高ぇあんた等、何で頭下げとんじゃ」
「酒をくれ!マダム・アンビーを!」更に頭を下げ、地面に摺り付けた。
それからアンビーは…困った様な、悲しい様な、嬉しい様な、ド〇ロン閻魔くんのエンディングみたいな百面相を繰り返した。可愛い。そして。
「御屋形様の責任じゃ」と冷ややかな視線を向けて来た。
「私か?」何で?
「どうせ王都の仲間から城のウィスキーの話を聞きつけて来たんじゃろ?全く迷惑な話じゃ」
そうでした。私が犯人でした。やべー。
「あたし等ドワーフは酒が絡むと怖いで。ましてやあのウィスキー、血の雨が降るで」後ろで頷くドワーフ達。
「仕方がない。アンビー、ちょっと早いが故郷に錦を飾りに凱旋帰省と洒落込むか?」
「ふう。この城とお里が全面戦争になったら目も当てられん。じゃがあたしは未だ故郷に飾る錦なんぞ持っとらんで?」
「持ってるよ。蒸留器と、鉄道だ」
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アンビーの故郷、ドワーフの里は、ダキンドン王国の北辺、イニロトナス山から更に100km、急峻な山脈を跨いだ北方にある。グランディア大陸の北辺だ。
そのあたりは強大な王国が無く、様々な種族が自治独立している。敢えて言えば、その中で最も強大なのが、大陸南部にも技術者を輩出し、各国に影響力を持っているドワーフの国?というか集団だ。
「チェースッ!」山脈をブチ抜く鉄道一直線なトンネルを築き上げる。
そして鉄道を、従来の15インチ庭園鉄道とは違う、倍の軌条、と言っても2フィート6インチ=762ミリ幅、所謂軽便鉄道サイズのレールを鉱山線から分岐させる。元々軌条を広げる予定で鉄道を作っていたので、より太く大きく、強く鍛えた倍のサイズのレールを、既存の線路を跨いで敷設する事で足りる。
軌条拡張のテストを兼ねた、護児鉄道ドワーフ線の出来上がりだ。
「ぬうう。温泉から城へ来る道も凄い技を感じたが、この道はそれ以上じゃなあ」
「見たか。これがあたしの愛しい旦那様の力じゃ」
「アンビーが作った訳じゃあなかろうが?」
「鉱山線のレールはあたしが作ったんでぇ!」
「何と!」「じゃあ何で今あんなに魔力で生み出しておるんじゃ?」
「あん人はなあ、私らにやり方を学ばせてくりょるんじゃ…」ドワーフ達は考える。
「自分が居らんなった時の為ゆうて口癖みたいにな。今頑張っちょるのは急がんといけん何かがあるんじゃろ」
「そうか。自分が居らんなった時か…」チェースッ!
「儂等が技を磨くのも、まさにそのためじゃ」チェースッ!
「命は失せるが技は失せぬ。儂等ドワーフの心を同じゅうするヒト。アンビーはええ男を捕まえたもんじゃなあ」チェースッ!チェースッ!チェースッ!
「「「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」」」
「う~ん」悩むなアンビー。
線路出来たよー。
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製造途中の魔導機関車の設計を見直し、アンビーと三人のドワーフ、そして城の魔道具組は、真のスーパートレインを作り上げていった。アンビー程の天才ではないにしろ、堅実な技を持つドワーフ3人は元の設計図を書き直し、恐ろしいスピードで新型特急を作り上げていった。なお、取手が外れるサウナは無い。
「何ちゅう素材の多さじゃ」「あんたらが風呂入っとったとこが鉱山で」
「「「何だってー」」」
「あんたら目が節穴か?この山の北側は宝の山なんじゃで」
「ア、アンビーが言うとった事は」
「事実じゃよ」「あの線路は鉱山から鉄や銅を運ぶためのものなんですよ」と城の少年が補足する。
「あの酒に、あの鉄道…」「儂等は恐ろしい宝物を手放してしもうたんか…」
「故郷に錦を飾る言うたろ!御屋形様はあたしを独り占めにしたりせん!体は独り占めじゃがな」「「「ぐぬぬ」」」
アンビーはドワーフ目線でやっぱりムフフな女なのかな?
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「アンビーちゃん国に帰っちゃうの?」
「一遍戻って威張り散らしちゃるだけじゃて。すぐ帰るで」
「威張り散らすって…うふふ、思いっきり威張ってきたら良いですわ!」
護児鉄道ドワーフ線の試運転を前に、妻達が話し合っている。
「ドワーフの里ってどんなところ?」
「煤けて鉄の焼ける匂いだけじゃよ。ここみたいな、花も色も無ぇ街じゃあ…何も無ぇ…」
「どうしたの?やっぱり恋しいの?」
「喧嘩別れした里じゃけぇの。まあ親父もまだまだ元気じゃろうし」
「アンビーちゃんのお母さんって、やっぱりアンビーちゃんみたいにかわいいの?」
「可愛いって…うれしいのうモエやあ」じゃれるアンビーとモエ。尊い。
「母様はもっと美人じゃよ?あたしとは違うんで」そうなのか。
シン・スーパートレイン完成とアンビーの帰郷を祝って、ドワーフ3人を招いて二之丸御殿でみんな一緒に宴会だ。
「で、城から提供できる『マダム・アンビー』はこの程度だ。それ以上は熟成に回すため今出荷する事は出来ない」
「そんじゃあ王は納得せん。その3倍は要るんじゃ」
「客に売るため蔵が店じまいしたら本末転倒だ!」
「頼む!何とかならんかの?」
「今は無理だ。だが、ドワーフは人間より長寿だろう?ならば時間されあれば、『マダム・アンビー』は貴方達自身の手で生み出す事が出来る」
「出来らあ!」
「よし、アンビー謹製のブリュワリーをくれてやる。そいつでウィスキーを、自ら醸すんだ!」
「何?儂等の手で『マダム・アンビー』を?」あれ?ページ逆にしちゃったかな?
「それなら王も大歓迎じゃろうて!明日の出立が待ち遠しいのう!」
よし。これでアンビーも故郷に錦を飾れるだろう。
「あとこちらの米の酒も」
「それは要らん」「ええ~」
ドワーフはアルコール度数優先だ。
「そんならこの芋の酒!」と焼酎を出した。
「こっこれは!こら美味いですよこれは!」ドワーフは度数優先だ。
「なお造るのはいいが売ったら利益の一部は発案者に還元する事」
「当たり前じゃあ!技はタダじゃねえ!」
よかった。特許に理解があって話が早い。オレンジャー卿と結び、後に王国にも認めさせた特許制度を説明したところ
「15年とは何じゃあ!技は永代、匠の物じゃろ!」
「10年も経てば、技は世界に広まり、次の技が生まれるでしょうが!」「ぬう」
理解させた。
その後も、多くの経験と技術を積んだドワーフ達と飲んで話して夜は更けた。
「アンビーは結構無茶しようて鍛冶場を何回爆発させたかのう」意外だな。アンビーも爆弾娘であったか。
まあそれがあって、今の慎重かつ失敗リスクを考えて行動する、大人なアンビーになったんだな。
「黙りゃあ~!20年前の話じゃがあ~!」
「アンビーちゃん私のお仲間ねえ!」「一緒にすな爆弾娘ぇ!」「ヒドイ~」
マギカも相手が子供や赤ちゃんなので充分慎重にやってくれてるぞ?
「この城にはそんな爆弾娘がまだ居るのか」「妻です」
「よう生きとんのう」「僕は愛してます」国民的長寿アニメの婿養子みたいな事言ってしまった。
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そっして今、そのすっがったを表すブァッカス(納〇五郎)…じゃないシン・スーパートレイン。
「広ーい!」といっても軽便鉄道の規格だよ?
「ちょっと寂しいね」「僕もそう思うよ」ムジカとコマッツェの廻りの独身男女が氷の様な視線を向けている。君達も早く結婚しなさい。あ、ムジカとコマッツェもまだだったか!
「あたしもそう思うかもなぁ」とくっついてくるアンビー。魔導機関車第一号の試運転を思い出すな。あ、氷の視線がコッチへ向いた。
「じゃあ、ちょっくらアンビーの里帰りに行って来るか」
「行ってきま~す」今度は前回王都行の際留守番を頼んだクッコ、モエ、ドレス、イーナム、イナム、ニップと一緒だ。ロング、メカク、チャビーのミナトナ3人は「北にはあんまりいきたくないなあ」と留守を望んだ。
「ニップは嫌な思いはないのか?」
「あ~、最初ドワーフの里にでも逃げようかなーって、あたしは思ってたんスよ?」「何で?」
「色々自分で作って、オトコに頼らないで生きるって、カッコイイじゃないっスか!」
「ああ。カッコイイな」「アンビーさん、正にカッコイイじゃないッスか!」
「照れるのう」
「ほう!こりゃ座り心地の良い椅子じゃ!」
「これなら4~5日の旅でも疲れずに済むのう!」
「え?今日中に着くで?」
「「「え?」」」「あ、そうじゃった!」「造る方に必死で速さを忘れておったわ!」
そう、この軽便鉄道、時速60kmは軽く出せる。今回は試運転なので40kmだ。それでも二時間半後には着く。
「くっ、早い!」「そうですね~、途中泊ったり御馳走作ったり出来ないの、寂しいですね」
「ああ~思い出すねえ御屋形様との旅を」姐さん組を外に連れて行くのもオイーダ以外は初めてだった。
「外で食べる御馳走があんな美味しかったの、初めてだった!」「窓の外の景色が変わるのも楽しかったね!」「もちろん、夜もねえ」「「ねー」」
姐さん組は一々艶っぽい事を言うのがアレだ。
「ま、あまり羽目を外さないで、皆を無事に連れ帰ってね」判ったよステラ。お城の留守をお願いします。
かくて、城の皆に見送られつつシン・スーパートレインは出発した。軽便鉄道だけど。
前回迄と一転、ドワーフが来ました。酒が大好きで万能工場、そしていつもユーモラス。作劇上も便利な存在です。初期段階では存在していなかったのが我ながら嘘の様です。因みにアンビーになる前の第二夫人はツンデレロリツインテの予定でした。
軽便鉄道って直線主体だと意外と早いものです。設計上100km越える機関車まであったとか。
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