56.逆転!教皇只今参上
前回のあらすじ:一度でも見たかった、あの実物大セット。
ちゃんと天守を上げました。脱、タイトル詐欺。
「女王様!あれは!」
「へ?あれ?私達、魔の森へ来ちゃった…訳はないわよね」
「確かに違いますが、あれは魔導士様が建てた物に違いありません!」
女王オーテンバー一行を載せたスーパートレイン(庭園鉄道)の行く手に、白亜に輝く壁を連ねた、軒瓦が金に輝き、屋根の瓦は緑青に染まり、しかし魔の森で見た城より小規模な城が築かれていた。
「恐らく、これが帝国との会談の場なのでしょうが…形容し難い建物だ。
ただ、この周囲に何もない荒野に聳え、立ち並ぶ姿は。美しい!」
初めて城を見るオレンジャー卿が歓声を上げた。
そうでしょうそうでしょう。なんたってかの天下人が日本の中心、京の都に威を示し、時の天皇を招いた祝典の城、その縮小版なのだから。
名付けて、「御座所」。
いっそ「子〇の城」にしようと思ったが、芸術が爆発する人に怖い顔で怒られそうなので止めた。関東地方で最初に天守が上がった小田原御座所、私の生きていた時代で言う石垣山一夜城にあやかって名付けた。
形は聚楽第、名前は小田原御座所、それに本拠地となる護児城の天守は名護屋城で、出城の見附城のモデルは伏見城の出城、向嶋城。やはり太閤の城は男の浪漫だ、と櫻〇重廣先生も言っていた。言ってないけど。
新たな城に、オーティーと、そして城から派遣した子供達を迎えた。
子供達が「御屋形様!」と走って来てくれる。嬉しい。
「みんな!よく頑張った!有難う!後は大人の戦いだ。ゆっくり休んでくれ!」一人一人、手を握って感謝した。
「お城の畑仕事に比べたら楽ちんだぜ!」「お城の畑仕事も、村…外に比べりゃ楽だけどね!」みんな、強情っ張りだな。頼もしい。
「皆が歌ってくれた歌が、きっとこの世界を良くしてくれるんだ。本当に、有難う!」
「たった3日の間にこの城を、あの鉄道を帝国まで…魔導士様って本当に」オーティにも呆れられたか~
「本当にステキ!憧れちゃう!」そう来たか。女王で聖女なアンタがオッサンに色目を使うな!ちょっとかなり嬉しいけど。
と、後続の列車がやって来た。
ナンターナの村ではオレンジャー公爵家の物資が、帝国との面会では兵站を受け持つ将軍の侯爵家が王国から芋や穀物を運んできた。蒙昧な侵略を新女王が撤回したので、王都に戻って来たらしい。自領で増産した作物を可能な限り提供してくれた。やはり優秀な人だった。
やったねオーティ味方がふえたよ!
後の会議は王女と近衛騎士団、同行してきた司教団に任せ、私は次の地へ向かった。
「ええ~っ!行~かないで~、行かないで~、お願~い!」三〇のり平かな?
御免、この騒動が片付いたら皆で一緒に勝利を祝おう。どうせ明後日位には帰って来るし。
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ダキンドン王国南方の辺境、かつて帝国や西のフロンタ王国との攻防があった古城。大帝国時代の無骨な造りで、あちこち崩れている。しかし木の柵で補強されている。
「お待ちしておりました。こんな風にお迎えするのも随分久しいですな」
「お邪魔します、枢機卿様。子供達が礼拝を楽しみにしていたのを思い出します」
「よい思い出です。そのお蔭で、今私は、成すべき事と向き合え、務める事が出来たと思います。貴方の…」
「私じゃありません、子供達のお蔭です」
「そうですな。子供達の。ではもっと子供達のために頑張らねば」
と、私を本館の奥に招いた。
かつては有力貴族が起居し敵国を警戒した古城も今では国境警備の駐屯地だ。しかしある程度整備され、機能は保たれていた。貴族の居館に、教皇ディグニ49世が居た。
「準備は整いました。御還り頂く時かと存じます」と一礼した。
教皇は「貴方に従います」とだけ返し、周囲に出立を指示した。
私は何も説明しなかったが、恐らくはコンクラベ枢機卿から話を聞き、私を全面的に信用してくれたのだろう。
大陸を揺るがす決断を、私に委ねた…訳ではない、私の賭けを信じてくれたのだ。対価は、自らの命。
これから私は、真の教皇の行列を、ダキンドン王国とミデティリア帝国との会談までの『5日間』の旅を、無事守り切らねばならない。
城を余計なちょっかいから守るためとは言え、城の余剰作物を買って貰えたとは言え、つくづく余計な事をしたもんだと今更ながらに思う。
「御屋形様は、お節介焼きなのよ」ステラ様の言う通りだ。
「それがなけりゃあ、あたし等も魔物の糞になっとったがぁ」ありがとうアンビー。
もう一頑張りだ。
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御座所に驚いたのはオーティ一行だけではなかった。
突然帝都郊外に現れた白と金に輝く砦?館?が忽然と現れ、鉄の道を馬の無い馬車が列をなして往来しているのだ。
「あんな暴挙を許してよいのか!」
「まて、会談の場を作れと命じる様入れ知恵したのは貴公であろう!」
「あんな鉄の道など聞いておらん!」
「どうするもこうするも、あんなもの作る力を持つ者を敵に回して、勝てるのか?勝ったとして被害はどうなのか?味方に付けて得られる利益とどちらが多いのか?
論ずるべきはそこであろう!」
王国との会談直前に忽然と姿を現した御座所。
帝国は精々ハリボテの天幕程度が出来れば馬鹿にしつつ許してやろう、そして様々な物資を譲る約束を取りつけて総本山までの通行を許可してやろう、その程度に思っていた。
だが、噂に違わぬ巨城が一夜で現れ、おまけに鉄の道が果てしなく続いている様を見た伝からの報を受け「凄いぞ!魔の森の城は本当にあったんだ!」と、今更ながらに路線変更を強いられていた。
頻りに一同紛糾した後、黙視していた皇帝へと視線が集中する。
「面白い。こりゃ面白い」とニヤリと笑う皇帝、キオミルニ31世。31世って凄いな。徳川15代の倍以上だ。しかもコイツもイケメンだな。腹立つな。
だが、時空魔法を使えなければ唯の中年オヤジの私なんかと違って、知恵も回るし威厳もある。敵対したくない人物だ。
「相手は噂では角狼や角熊、角竜までも倒す軍団と聞く。ホントかウソか分からんが。ただ、あの城や鉄の道を見るに、侮れないし利用価値もありそうだ。
色々やらかしながら今や聖女などと言われているダキンドンの小娘共々、明日は値踏みするとしよう」
妥当な判断だ。落としどころは、精々見ケ〆料を釣り上げて、総本山まで護衛してやる、て所かな?
我が渾身の御座所の様子を聞いても、自信満々やり遂げるつもりなところが気に食わない。だがその尊大さは大したもんだ。
コイツに対峙するには、やはり奥の手を出す必要がある。
そして、恐らく彼はクーデター派に関与している貴族達を切り捨てるつもりだろう。会談の成否を問わず。問題は既に王国からどれだけ酒と糧を巻き上げられるか、という段階に来ている。
その次に狙うのはクーデター派の粛正と総本山の把握、そして帝国を中心とした大陸の支配システム、か。このイケメン、まだ東から迫る危機を知らない。
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翌朝の御座所。オーティは強行軍の疲れを城内の温泉で癒し、沈む様に寝ていた。お疲れ様。
そんな彼女の眠りを伝令が破った。「女王様!敵襲です!」
皇都郊外の丘を、僅か十数騎が槍を掲げて迫って来た。
オーティは数人の近衛騎士を連れ、城を出て礼拝服で彼らに対峙した。騎士達は彼女等に迫り馬を止め、馬上から口上を述べた。
「我等はぁ!創世教会総本山を守りゅ教皇守護騎士ぃ!」
あれ?あまり活舌が宜しくない。
「皇都を威圧しぃ不義を行う、貴様ら神の敵を討ち果たしゅ所存である!覚悟しぇい!」
オーティは彼らを敬い深く礼を捧げ、返した。
「私達は、巡礼のため参りました。この館も、道を通して頂くため、帝国の求めに応じて建てたもので、総本山を威圧するものではありません。帝国皇室にご確認いただければお判りいただけると存じます」
「ええい魔女奴ぇ!教皇に害をなしゃんとしゅる奸賊を打ち滅ぼさん!」
頭の固い奴等だ。
そこに、城から来た子供達が駆け付けた。
「駄目よ貴方達、お城に戻りなさい!」
女王の制止を無視して、子供達は両者の間に割り込んだ。そして、祈り始めた。
騎士達は動きを止めた。
「子供達よ、そこをどきなしゃい。これは儂等、大人の戦いじゃ。お主等は、何が正しいかを、その目で見て、伝えなさい。どきなしゃい!」
しかし、城の子達は怯まずに、騎士団と対峙した。
女王は、子供達を抱きかかえ、騎士に言った。
「この子達は、私達と巡礼の旅を共にした、仲間です!たとえ私が魔物でも何でも、この子達が祈り歌った典礼の歌は、聖なるものです!」
騎士達は、馬を降り、兜を脱いだ。
「子供達には害を成しゃぬ。皆、安心しなしゃい」と、優しく子供達に声を掛けた、その騎士達は…老人だった。
子供達は、老人の優し気な顔を見て、安心した。
「ダキンドン王国の王女、オーテンバー・ダキンドン陛下。汝りゃが総本山に仇成さぬと、どうして誓えるのか?神に誓って見せよ」
「神には誓えません!」
「己が嘘を認めるのか?」
「人は不確かなものです。絶対と言う事は有り得ません。人である私は神に誓う事は出来ません」
老人達は、互いに視線を交わした。そして、
「今、総本山は動いておる。陛下の仔細は知らぬが、子供達を連れて総本山に立ち入る事は許しぇぬ。例え皇帝が許しょうとも、儂等は子供を危険な目に遭わせられぬ。立ち去って貰えんか?」
オーティは一瞬激高し、しかし、落ち着いて、返した。
「今、大陸では多くの子供が飢えています。それもようやく、落ち着きを取り戻しつつあります。そんな中、総本山では良くない噂が立っています。
私は、何が本当で、何をすべきか、それを尋ねに行きたいのです。
かつて、私を導いて下さった尊敬すべき魔導士様が、総本山の選皇枢機卿様を訪ねた時の様に!どうか、私達をお通し下さい!」
オーティは、それに続いて近衛騎士達は、老人達に頭を下げた。
変な話である。この老人達、部下も手勢もなく、僅か10数人の老いぼれが勝手に名乗ってやって来ただけの話だ。だが、オーティは最大限の敬意を示し、一国の女王として、老人達に頭を下げた。
老人達は小声で話た。「選皇枢機卿?」「まさかコンクラベ様の…」
「偉い司教様が、私達に冬の礼拝と命の礼拝を授けて下さったのです!」子供達が笑顔で応えた。
老人達は一転、女王達に跪礼を捧げた。
「女王陛下!この度は、我らの非礼、心からお詫び申し上げます!我等はいかなる処罰をも受ける所存に御座います。ただ、どうか、どうかその子供達を危険から遠ざけて頂けます様、お願い申し上げます!」呂律がすごく廻る様になった!
オーティに耳打ちするテイソさん。オーティは優しく返す。
「総本山を案じ、子供達を案じて下さり、本当にありがとうございます。しかし私は行きます!そして子供達を止める資格は、私にはありません。
私は、貴方達に、私が見た事を、嘘偽りなくお話する事を約束します。
どうか、私達の行く道を、見守って下さい」
「どうか、女王陛下と子供達に、神の祝福が在らん事を!」
老人達は、再度、深く頭を下げ、馬と共に去った。
緊張が解けたオーティは、その場に崩れた。驚き集まった騎士団は…
オーティの寝顔を見て、何か諦めた様な、悟った様な顔をしていた。
城の子が言う。「お姫様可愛いね」こら、もう女王様になったんだぞ?
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そして数時間後にやって来たミデティリアン帝国皇帝一行。だが。
馬を進める一行は全員茫然と城…もとい御座所を見上げていた。
南の馬出を曲がり大手に入り、唐門を経て車寄せへ。それは護児城本丸と同じ様な、厳重にして華美な光景だった。
建築の規模は帝国や王国の石造建築の方が巨大だ。しかし透かし彫りや色彩、細部の技巧が違う。
一行は床張りの「千畳敷」に招かれ、既に着座していたダキンドン王国「巡礼団」と対面で座る。柳橋図が金泥で描かれた上の間は空席だ。あくまで両者対等での会談だ。
両者は作法に則り挨拶を交わし、皇帝が
「麗しき聖女と呼ばれる女王様。噂に違わぬ美貌と御威光」等と心にもない事を言う。彼にはオーティが作られた偶像である事は見抜かれている。まあ、彼女の真価はそれだけじゃないんだけどね。
オーティはそこそこの挨拶で済ませ、席に着く…
や否や、切り出す。
「事前に要望頂いた食料について、5千食を上限として用意する」
帝国人口一千数百万に対して、遥かに少ない数だ。
「それは帝国への貢物として御受けしよう。帝国への支援は?」
「我が王国は帝国に貢ぐ理由などありません。それが支援です」と言い放つオーティ。
「それは我が帝国を見下し過ぎていませんか?100人に1人を救える食料と、帝国貴族に行き渡る美酒、とまでは申しませぬが。
我が帝国は貴国の国力を過大に見過ぎていた様だ」
嗚呼。こりゃマウント取ろう作戦だな。まさか初歩的なプラン1で来るとは。
「それほどまでに帝国が飢えているなら、我が王国に亡命する者が多数いる筈だが、一向にお見受け致しませぬ」うん。オーティ、よく耐えている。後ろでテイソさんが目を閉じて満足そうにしている。ナイス仕込みだテイソさん。
「我が王国の作物は、既に帝国内でも栽培され、中には芋やトウモロコシで酒を醸して売っている物までいると聞き及びます。
その上で、我が王国が血を流し、飢餓救済の名の元に帝国に酒の原料を送る意味を見出せません」
「それにしても、5千とは、失礼ながら帝国に対し執るべき礼と言う物を御存じかな?」
「礼、というのであれば、そもそも北方の冷えた大地の我らが、南方の豊かな帝国に何かを恵んで『下賜』する事自体礼を欠く行為。
あくまで友好の挨拶としてお受け取り願いたい」
お、オーティも笑顔の向こうに青筋立ててるな。煽る煽る。
皇帝、ちょっと歪んだ笑顔で本音を隠すが、隠しきれていない。こりゃビデオに撮って山〇二郎の声マネアナウンスを後でつけてやりたいな。
次は皇帝の反撃!オーティどう耐えるか!オーティ怒りの言論キック!音楽は地底超特急驀進の曲で。
本来、総本山までの道を通してもらうため、提供する物資を決める会談が、帝国と王国の格付け、帝国内の飢餓事情の探り合いという全く別の話題に乱入している。
帝国は、オーティ達を黙って通しても何も損は無いが、出来る限り得られる利益を釣り上げたい。特に、貴族ご要望の酒、布、化粧品。
それ、全部城の物だ。オーティに積極的に便宜を図ってくれるなら兎に角、それ以上のものを、誰が金持ち帝国にくれてやるものか。
そして、オーティも今後ミデティリアン帝国に舐められないため、ダキンドン王国の影響力を誇示するため、引く事は出来ない。
これは千日戦争、ワンサウザントナントカか!?と思った矢先に…
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「人の捨て去りし木切れ 今天の門の鍵たらん」
遥か彼方から、聖典の歌が聞こえて来た。
「何事か!」「さては王国の謀略か?」「最初からそのつもりか」帝国貴族が騒ぎ立てる。
「黙れ!ここで余の首を掻いたところで女王一行が無事で帰れる訳は無かろう。
あの歌声の正体を探れ」
オーティは慌てる様子もなく
「皇帝陛下。あちらの櫓で、歌声のする西方を眺める事が出来ます」と勧め、一行は櫓を登った。
黒漆で塗った銅板張りの突上げ戸を上げ、格子窓の向こうを見れば。
「其は神の御業、人の知恵を越えたもの」
群衆が聖典の歌を歌いながら向かっている。その中央には…神の啓示を書いた二つの石板の上に双胴の燭台を描いた、教皇の旗が翻る。
輿の上には「捕縛された」と喧伝されながら、『5日前に』ダキンドンから帝国領内に侵入し、各地で礼拝を行い、それを慕った大勢の帝国民を率いたディグニ49世がいた。
教皇が来た。総本山にオーティを連れ出すため、教皇が今来た!
私の脳裏にウ〇トラセブンのうた2の間奏部が鳴り響いた!
一行を先導するのは鎧に身を固めた数百の騎士団。
その先頭は…今朝御座所を襲った老人達だ。夫々に石板と燭台と、各家の個性を描き記した旗を掲げ、教皇を先導している。
あの爺さんたち、本気で城を責めれば結構な戦力を率いる事も出来た筈なのだが、先ず自らの体一つで、事の実態を確かめたかった様だ。それは充分満足のいく結果だったらしい。
向こう見ずな爺さんたちだな全く。
この時、イケメン皇帝様は、「あ~あ」という顔をしていた。まさかダキンドン王国南端の辺境に潜伏していた教皇が、このタイミングで、帝国領内で帝国市民を率いて凱旋、とは普通考えない。ダキンドン王国軍が北から率いてきたら、難癖のつけようもあったのだろうが。そんな事はさせませんて。
「帝国の警備は、既に付けて頂いた様子で、深く感謝申し上げます。御礼も、先ほどの内容にてお届けいたします」と、オーティは深く皇帝に礼を捧げた。
「あの~、酒の話まだしてないんですけど」と皇帝。
強請り交渉第二ラウンド、あったらいいね。
タイトル詐欺と言えば、王国の軍団出て来ねえ!戦ってもいねえ!やっぱりタイトル詐欺か?いえいえ、女王が率いる女騎士達が出てます。外交戦も立派な戦いです。
騎馬戦や攻城戦は次章です。プロット出来てないけど。
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