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55.魔動力超特急スーパートレイン

前回のあらすじ:アレは超豪華なチャンピオン祭り。

 聖女が女王戴冠を受け、総本山糾弾のため『巡礼』に出た報は、大陸に響き渡った。というか渡らせた。

 戴冠式に同席させたコマッツェが版画を彫り、城で新聞を刷り、まだ冬が本格化しない内に、ダキンドンに、ミデティリアに、はたまたフロンタに向かう商人に持たせた。そこに描かれた絵は、簡略化されたものだが、枢機卿達聖職者を背にし、戴冠したオーティが光を放ち、老いた前王マツエルスの手を取るという、…。…。あれだ。

 ナポレオンが冠を受けて頭を下げる絵ではなくて、ナポレオンが皇妃に戴冠しその後ろで聖職者が祝別するという、本当に偉いのは誰なんだか分からなくしてナポレオンだけヨイショしたあの絵と同じだ。どこでそんな技法学んだんだコマッツェェ…。


******


 遡る事数ケ月。

「お芋の歌ですか!楽しそうですね!」「おいもー!楽しいじゃなくて、おいしーだよ!」「そ、そうねヤミーちゃん…」ムジカとヤミーとテンポラ達を集め、料理の歌を作る事にした。

「コロコロおいもー、じゃがじゃがおいも。ぽっぽぽふかして、ほっくほくー。

 ぷすぷす串が通ったらー、もう大丈夫、お塩を掛けて、あっつあつー」

「コロコロおいもー、トントンうすくー、切ったら油で揚げましょジュジュジュっ。

カリッカリーにお塩をかけて、ハーブもタイムもいい香りー」

「こんな感じかな?」

「おいしそーな歌ー!大好きー!」おお、ヤミーが食いつくな。料理の歌だけに。

「御屋形様の世界って。こんな面白い歌もあったんですか?」

「ああ。食べ物を料理して袋に閉じたものがお店に一杯あってな、それを作った商人が、美味しいぞって知らせるために色んな歌を作ったんだ」

「おいしい歌ー!すてきー!」「ヤミーちゃんてば。でも、効果覿面ね!」


「これから王国の南に、帝国に、芋や米にトウモロコシ、色んな城の作物を食べてもらうんだ。どうやって料理して、どんな風に美味しそうか、料理仕方を間違えない様に気を付けてもらう、そんな歌を歌って、聞いてもらいながら食べて貰うんだ。どうかな?」


「ヤミーがんばるー!切る時はね、トントントンって音を入れて、煮る時はポコポコポコって音を入れると解り易いよ?」「解んないよ~」

 ご機嫌で料理の歌をスラスラ考えるヤミーと、それをどう歌にするか悩むムジカ。

「いや、ヤミーすごいぞ!トントン、は硬い物を叩く音、ポコポコはもうちょっとゆるい皮の、太鼓を弱く叩く感じかな?

「…すごい。そんなお料理の音まで音楽に出来るの?」「音楽は、何でも表現できるよ?楽しいでしょ?」

 故郷で料理番組のテーマ曲を作曲した天才が、まな板で刻む音や鍋が煮立つ音をイメージした事を考えつつ言った。更に考え込むムジカ。

「じゃあ、食べながら考えよー!」ナイスアイデアだ、ヤミー。

 こうして、駄洒落を入れたり、笑いを入れたりした、新しい作物の歌を考えた。

 笑顔の中で色々な歌を作りつつ、私は心の中でお礼を述べた。戦後昭和の生活を明るく彩った数多くのCMソングをありがとうございます、ト〇ロー先生!


******


「空間圧力、チェースッ!」と広大な荒野に、行く手を塞ぐ林に森に、私はひたすら一直線に並ぶ様に点々と地を固め、固めた地盤の上に石の柱を積み上げ、その上にアーチを築き、高架線を完成させた。道の両脇に水路を設け、枕木を並べ、石礫で枕木を固め、硬く鍛えた鋼鉄の線路を固定した。時間との勝負だ。複写魔法による質量保存の法則を無視してひたすら鉄道を伸ばす。

 途中の通行を妨げない様、誤って人が線路に侵入して悲しい事故を起こさない様、川や動物の往来も妨げない様、全線高架という面倒な手段を選んだ。

 運用技術も未熟だ。思わぬ事故で計画が頓挫するより余程マシ、最良の手段と判断しての事だ。

 遥か北方、魔の森の入口地下から延々700kmの高架鉄道を敷設した。

 途中の大河を跨ぐ大鉄橋も、丘を貫くトンネルも、途中信号所を置いて、ひたすら一直線に貫いた。


 この遠大な路線を維持するのは困難だが、王国の協力を得て要所に兵を配し、当面の保線を図れる事とした。

 馬車であれば山越え谷越え最短で2ケ月はかかる。体力的な問題、移動中の物資補給を考えれば3ケ月だ。横転や盗難、遭難のリスクもある。

 それを、平均時速ほぼ40km、城から帝国まで約20時間、途中の休憩を考慮しても僅か2日半で物資や人員を輸送する、この世界の常識を無視した大動脈を計画したのだ。


 城では米、芋、トウモロコシ、大豆、多くの果実が出荷を待っている。人口増加を見込んで増産しながらも、森に捨てられる子が激減したため、輸出用に割り当てる事が出来た作物だ。大部分は乾燥させ、ある程度日持ちする様にしてある。

 そして、アンビーが泣きながら見送らんとしている酒。可愛そうなんで一番のお気に入りのウィスキー、マダムアンビーは取って置く事とした。あとこっそり空間複写魔法で増やしておいた。後で一緒に飲もうな。

 ミナトナ達お気に入りのスパークリングワインもある程度確保したものの、やっぱり凄く怒られた。御免なあ。


 冬の間休止する鉱山線の車両を南向に振り当てる。

 線路は魔の森入口の地下駅から地上へ出る様延長した。

 そしてそのまま100km南の領都ガーディオンの脇を通過し、一気に500kmを南へ一直線、王都シャトー・ダキンドンへ向かい、南西へ曲がって更に100km、総本山の地である帝国首都マンナの手前、北方の荒野を終点とする。

 700kmの一大流通路がわずか1日で出来上がった。というか作った。


 速度も輸送量もさることながら、完成までの期間も常識外れの、異世界スーパートレインだ。列車自体は15インチ軌条だけど。庭園鉄道だけど。

 この一件が落ち着いたら、せめて倍の、それでも軽便鉄道程度には拡張しなければ。そうすればギリギリ寝台車も出来るかな?食堂車も欲しいなあ。やっぱりドアノブが取れちゃうサウナは御免だ。

 夢と欲は広がるが、今は次に進まねば。


******


 大陸の歴史を400年加速させる様な大工事を、私と鉄道組、農業組に鉱山組、そして警備を担当する王国兵とで準備している最中、我らが聖女にして女王オーティも南下していた。

 帝国との約束は僅か7日。最初の宿は王国南端の農村、ナンターナとした。その後ろには、巡礼装の近衛騎士、王国の司教団、城の子供達が続いていた。

 食料等を運ぶ輜重隊は、公爵家の手配で、王女の宿泊地を合流点として進んでいた。


 ナンターナ村手前で、少年少女達が楽器を携え、女王より前に出た。

 女王は楽団に向かい「よろしくね、天使様」とにこやかに微笑み、「「「はい!」」」と笑顔で応えた彼らを先頭に行進を再開した。村が見えて来るあたりで楽団は演奏を始めた。


「天つみ使い護らせ賜え 彼らの行く道示し賜え」

 少年少女の歌声が、村の空に響く。

 国境の長閑な村には…長閑な日常とは打って変わり、大勢の人々が集まっていた。聖女の姿を一目見ようと、周辺の村から大挙集まって来たのだ。


「正しき心に神宿りませ 寿ぎ歌わん御心の歌」

 少年少女を先頭に、王女、いや今や女王となったオーティ、そして礼拝服の美しき近衛騎士の娘達、更に枢機卿達、馬の群れが行進し、村の中心へ進む。


 行列を先導する聖典の歌に、学も無く字も読めない村人たちも、幼い頃から聞いて育った歌を諳んじる。

「慈しみ以て守り賜え」


 広大な風景に、大合唱が響き渡った。

 楽器の準備をしていた吟遊支持達も、慌てて聖典の歌に合わせて演奏した。どこか残念そうに、どこか安心したかの様に。ヨカタネー。


******


 聖女一行は村の礼拝堂で地元の司祭による礼拝を受けた。女王に随行して来た高位聖職者が助祭に着く。

 事前に根回しはしたそうだが、田舎の司祭にしてみれば光栄を通り越して災難だ。それでも会堂の外にあふれた民衆の熱気の中、無事礼拝は終わった。


 会衆は会堂から出、騎士団に続いて女王は礼拝堂の前に出る。皆が女王、聖女の言葉を待つ。

「皆さん、初めての旅路を心細く進む私達を温かく迎えて下さった事、深く感謝します」と頭を下げた。

 途端、一同は激しく動揺した「「「おお!」」」「「「恐れ多い!」」」「「「女王が我ら農民に頭を下げる等!」」」

 暫くし、オーティは手を挙げ、会衆の動揺を鎮めた。

「今、私は皆と同じ、神の前に建つ一人の人として、巡礼しています。心を一つにしましょう」

 この一言で、会衆は跪き、王女に向け手を合わせた。

「今、大陸は大変な困難に直面しています。しかし、正しい心、強い心、祈る心があれば、私達は困難を乗り越え、日々の暮らしに戻り、家族と共に安心して過ごせる様になる、そう私は信じます。皆さんも祈って下さい」

 会衆の多くの人は、聖女、そして女王の慈悲に打ち震えていた。


 そこに公爵配下の輜重隊がやって来た。ジャストタイミングだ。狙ってたけど。

 輜重隊長が叫ぶ。

「我等、オレンジャー公爵家派遣の輜重隊、聖女にして王女オーテンバー様に合流します!何なりとご指示を!」芝居もバッチリだ。

「この地は未だ新しい作物が行き届いていません!ここに集まる人々に、芋を、トウモロコシを齎しましょう。どの様に料理するか、どの様に植え、育てるかを、教え、広めましょう!」

「「「おおー!」」」「「「聖女様ー!」」」会衆が熱狂した!

 これに合わせ、輜重隊が調理車両(アンビー発案で公爵領に作らせた。パテントもシッカリ取った)で芋を蒸かし、或いは薄く切って脂で揚げ、トウモロコシの実をバターで炒め、茹で、と調理を始めた。

 会衆は敬虔な祈りもそぞろに、食欲をそそる匂いに夢中になった。


 芋が蒸かされ、上げられる。トウモロコシも茹で上がる。皆はほおばり口々に美味しさを讃える。「聖女様のお恵みだ!」「おいしい、これのどこが呪われてるの?」

「ありがたい!ありがたい!」

 オーティーは少年少女合唱団に笑顔で頷くと、演奏が始まる。先ほどまでの敬虔な聖典の歌と一変して、ポンポンポポン、チンチンチン、と軽やかな演奏だ。

「コロコロおいもー、じゃがじゃがおいも。ぽっぽぽふかして、ほっくほくー。

 ぷすぷす串が通ったらー、もう大丈夫、お塩を掛けて、あっつあつー」

 子供っぽい、可愛らしい歌に、あちこちで笑いが起きる。

「おー手手を洗ってきれいきれい~、汚れがお口に入ったら~お腹イタイよー!

 だからお手手をきれいきれい~、石鹸ゴシゴシ洗いましょ!」

「お手手で食べたらアチチのチ!冷めたらショボ~ン、ホカホカがいい!

 フォークで刺して、ホックホクー」

 子供達は歌で食べ方を教え、会衆も慣れないながら、試していた。


 半分の人達は必死に噛り付き、どこから出たのか酒も飲んで盛り上がっている。お一方、かつて禁忌とされた作物に抵抗を感じる人達もいる。

「お前何聖女様の前で酒飲んでるんだよ!」「お、おう、ちょっとコッソリ、な」

 なんてやってるところへ、オーティがやって来る。まさかの聖女様との対面に男の酔いは醒めてしまった。「こ!これは!大変失礼を…」

「礼拝は終わりました、今は皆で楽しく食べ、飲む時です。この一時を楽しんで頂けたら、私も嬉しく思います」と、自らワインを、エールを、村の男たちに注ごうとした。

 オーティは、男だったら誰でも惚れそうな、輝く笑顔を男たちに向けた。

 男たちは蹲って、オーティに「それは見事な土下座」を決めた。


 そこからは、大宴会となった!

 城の楽団の歌う聖典の歌や、農作業の歌、子供の為の楽しい歌が歌われた。かつて聖女と讃えられた光景が、より親しく、楽しく、歌や酒と共に笑顔に包まれていった。


******


 勿論、宴会だけのためにここに来た訳ではない。この一日だけの炊き出しをやった訳でもない。宴の翌日、各村から来た代表者を呼び出し、オーティと近衛騎士団は短い会議を開いた。


・芋、米、大豆、トウモロコシの栽培法

・荒廃した土地への肥料の使用法

・各作物の調理法

・各地の創世教会の状況の聴取


 これを告知し、または聞き取り、

「これからも応援物資は来ます。冬になっても、雪が降っても、作物は育ちます。どうか幼い子供や赤ちゃんを捨てる事なく、どうしても駄目だったら教会を頼って、冬を乗り切って下さい」と、女王は一同に一礼した。

 国家元首が頭を下げた一大事に、一同は恐縮し、跪いた。


 野営地で一泊し、朝を迎えた大衆に手を振りつつ、少年少女の合唱を伴い、オーティは最初の村を後にした。その笑顔は、威厳に満ちた物…じゃないな。何か安心し切った顔をしてる。

「あのヘンな歌なくてよかったー!」

 甘いぞオーティ、君が旅の疲れを癒すため早々に寝た後。

「「「ズバババーン!」」」

「「「ディンダダーン!」」」

「「「ドヒャドヒャバシーン!」」」

 って歌声が天地に轟いてたんだよ~。最後の何だよドボチョン。


 オーティがいる間『だけ』は、私謹製のアレが歌われない様にと、合唱団を随伴させただけなのだ。何せ彼女の振舞いに大陸西側の運命が懸っているのだ。


******


『だけ』だ、と言ったな。アレは嘘だ。

「お父ちゃん、おうち帰ったら、おててゴシゴシだよ!」

「体洗う時も、石鹸ゴシゴシできたらいいねえ、売ってないかねえ」

 子供達の歌ったコマーシャルソングは、王国南部に、そして隣接する帝国北部に広まっていった。

 その愛嬌ある歌い口は、子供達を中心に口真似され、多くの人々の生活習慣に刺激を与えていった。


******


 その一方で、護児城と帝国南部を結ぶ鉄道一直線が完成した。疲れた。

 だが明日は聖女が会談の場に到着する。

 この苦労の対価はキッチリ帝国とオーティに払ってもらおう。

「空間複写チェースッ!」


 岩と荒地が広がる高地が岩を弾き出した。高地の一角は方形の平地に切り拓かれ、その周囲は堀となった。

 方形の空間=集会場の四方は、弾き出された岩を適度に切った不整形の石に包まれ、外に面する面だけやや平らに削った、護児城の布積みの石垣に比べて荒々しい石垣となった。大きさが揃わないので、隅の算木積みがやや不整形だ。打ち込みハギ、または穴太積と言われる、慶長末期の石垣だ。

 そして艮、乾、坤には二層の大櫓に望楼を載せた三層櫓を、乾に四層の望楼式、それも二層の大櫓の東に偏った場所に二層の望楼を載せ、一層目と二層目は大きな窓を開き格子で囲い、防御面では弱いが通気性の良い、住宅として使える小柄な天守を上げた。


 そう。故郷の地球で豊臣秀吉が築いた、京の統治拠点、聚楽第の縮小版だ!

 南の馬出を入って、左手に唐門が華麗な極彩色の透かし彫りを煌めかせ、来訪者を迎える。その奥に更に豪華な車寄せを備えた巨大な対面所、「千畳敷」で来客を歓待する。一の間上座には、柳の下、川に架かる橋の障壁画。ここはその名に反して畳敷きではなく、護児城の本丸御殿同様、硬い床を鏡の様に磨き上げたものだ。


 なお、表向き御殿の北側には二階建ての中御殿を立て、来客の宿泊に備えた。護児城関係者は居住性の良い天守とその周辺の奥御殿に泊まる。これらは畳敷きで土足禁止だ。


******


 クーデター派の刺客が待ち構える帝国国境手前で、オーティ達巡礼団とスーパートレイン(庭園鉄道)は合流した。唖然として高架線を眺める一行を皇都マンナまで数十kmを突進した。一夜にして出現した高架線の下で、刺客達は魔物排除の空間障壁に阻まれ、城の子供にも、女王達にも何の手出しも出来ずに転落し首の骨を折って行った。


 帝国領内をクーデター派の予想より遥かに高速で南下し、聖女の巡礼団は刺客のいない村を数か所訪れた。ナンターナ村同様、歌と料理と礼拝で帝国の平民と交流し、別れ、鉄道で高速移動を続け、面会予定前日には一行を載せた鉄道が御座所に向かって走っていた。


 聖女の噂と、噂に違わぬ美貌と優雅な振舞い、そして齎される食料と歌。帝国北部の村々に芋と米は広まっていった。


 そして一行の進む先に、帝国と王国の戦いの場所は、堂々と完成していた。

 出城以来久々の築城でした。次の築城はいつになるやら。


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