54.オーティ レリジャスウォーズ
前回のあらすじ:次々生み出される石堂節に、何なんだよコレはと悶々としていたあの頃。
色々と落ち着けて、王国勢と私達は、王女の部屋で作戦会議に臨んだ。周囲を警戒し、惰弱な王も、日和見な貴族も達隔絶している。オレンジャー卿も来た。
「奴等は冬の礼拝で存在感を示し、冬の内に総本山を把握し、雪解けの頃には体制を固めるつもりだろう」
「冬の間か。他国の動きが鈍る中とは考えたな。切り崩すには短期決戦が望ましいがどうしたものか…」
「まあ大体俺と城主様で台本は出来ているけどな」
オレンジャー達は項垂れた。「辺境伯に美味しいとこ持ってかれたか」そう思うよなあ。
「いやいや、今度ばかりは全大陸に影響力を及ぼす創世教会との戦いだ。そして総本山は帝国にある。帝国を味方につけ総本山を短期で突くには、一人でも多くの貴族、一人でも多くの人々に味方して貰わなければならない。失敗すれば数百年前の異端戦争の再来だ。」リベラ卿が激を飛ばす。
「それだけじゃない。かの腐り果てた隣国ボーコックで得た情報だと、東の果ての砂漠に異変が起きている。今はこの大陸が盤石でなければ、これから起きるであろうことに備えられない」
「エクスペクト、アンエクスペクテッド(予期せぬ事を予測せよ)、と言われましてもなあ」
「それこそ、できるかな、じゃなくて、やるんだよ、だ」
一同、今後の難問に頭を悩ませる。
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翌日。私達は総本山から脱出した枢機卿たちと面談した。曰く。
帝国貴族出身の枢機卿が、突如教皇ディグニ49世に対し汚職を糾弾。数多の証拠を掲げ教皇を裁くと禁固した。
クーデター派の枢機卿は部下を率い、見るからに頭も性格も悪そうな鼻たれ幼児を新教皇イノセント4世と称して就任式を5分で終えたそうな。
で、その証拠とやらは全て自分達の悪行を全部ディグニ49世の名に書き換えた偽物。
そして、帝国は総本山を独立国扱いとし内政に関与しない条約を結んでいるため不干渉。この大陸の権威の源としては非常に脆いものである。
問題は。
「帝国内の有力貴族の中で、芋や米の酒、特にスパークリングワインを独占したい奴等がいて、クーデター派は『一旦異端認定するが、その後協力した貴族に限り栽培を許す』とそそのかしたらしい。どうだ?城主様もこの騒動の一因だろ?」悪い笑顔だなリベラ卿?
「違かろ」アンビーが割り込んだ。
「誰がどんな物作り出しても、作り主なぞお構いなしに下衆共は利用しおりょうがあ。悪ぃのは作りてでのうて下衆共じゃ」面識浅いリベラ卿にお構いなしに毅然と答える。
「はあ。牽制失敗か、城主様は明晰な奥様を娶られたなあ」ちょっと嬉しい。
「それに一度異端認定したら、人々に忌避感が植え付けられる。簡単に広まるとは思えない。悪手だ」私も吐き捨てる様に答えた。
「で、敵に乗って来てる帝国貴族は?」
「いない。一同様子見で傍観しているだけだ。だが、それを逆賊は脈ありと感じてこの暴挙に出た様だな」
「色々追い詰められた上に、見たい事だけ見て希望に縋る愚か者が爆発した、といったところか」
「後、早速ボーコックがダキンドンを逆賊とする非難声明を発した」
「「「ああ~」」」
最悪のタイミングで、最悪の選択をするボーコック伝説がまた一ページ。
「フロンタは無視しています。沈静化を待つ状態だ。結局、帝国が静観すればダキンドン対総本山の一騎打ちになってしまい、あまり有利とは言えないかと」
苦々しそうに枢機卿が答えた。
「帝国がクーデター派に要求してる物は?」
「クーデター派から持ち掛けられている芋、米、それに加えて酒、です」
「わっかりやすいなあ」
「ダキンドン程ではありませんが、帝国も例年に比べ収穫が落ちています。皇帝も貴族も、王国を救った芋や米、そして大人気の酒に注目しています。だからこそあの逆賊共の暴挙を、どう転ぶかと静観しているのでしょう」
「欲ばりな奴等だのう。まあ、芋は我が公爵領内でも供給できる目途が立っとる。米は秋を待っての提供で妥協させよう」
「公爵、心強い限りです」枢機卿は公爵に深く頭を下げた。
「酒ばかりは、城主殿に頼らざるを得んな」
「子供達が一生懸命育てた葡萄や米を使って、子供達が発酵中の温度や泡立ちを細かく見つめて醸した酒だ。傍観者如きにみすみす渡してなるものか。キッチリ対価を払わせてやる!」
それはさて置き。
「教皇様は無事か?」
「はい、王国南方の古城を補強して、我等枢機卿団配下の騎士団にて警護しています」
「王都まで連れてこなかったのは、王国にとっては有難い事だった。薄情かもしれないが、理解願いたい」リベラ卿の意見は正しい。もし王都に来れば、王国諸共異端認定され、正面切っての戦いになるところだった。
「で、どうする?城主殿」
「考えは辺境伯も同じだろ?」
「ふ、若者らしい考えだな、王女を総本山に送って糾弾し、不正を暴く、といったところだろう?」公爵が言う。半分正解だ。
「公爵のご指摘は正しい。しかし、折角聖女と慕われるオーティだ。もっと活躍して欲しい」
「へ?私?」
「折角王国を飢饉と絶望のドン底から、歌と料理で救った実績があるんだ。帝国でもやるぞー」
「えー?!」嫌そうな顔しないでよ。OTAKEBIオーティソング、大人気じゃん。
「じゃが城主殿。帝国だと王国内と違って、他国の、しかも王女程度じゃあそんな響かんだろう?」
「そこで我が城の子供達の出番です」
「待って!私は戦いになるかも知れないところに、子供達を出すのは反対よ!」
ステラの懸念は尤もだ。私もそんな危険に晒すつもりは無い。
「私が子供達を護りますう!襲う奴は塵も残さず木っ端みじんにゅむむ!」
「他国で荒事すんなマギカ!」口を塞いで黙らせた。こら手の平舐めるな。
「御屋形様の事じゃあ、策はあろう?」
「子供達を絶対狙えない様な道と要塞を建ててやる!」
「「あ”ー…」」どしたのステラ、アンビー。
「道?要塞?」
「いえね、もし王国が動き出したら、どうせ向こうの皇帝から依頼があるんじゃないかな~と」
「そうであろう。魔の森の城の話は聖女の噂とセットで帝国貴族の耳に入っておるそうだ。城主殿は良く先を読むのう。で、道とは?」
「それは後のお楽しみで」トボけた。
次は帝国との下打ち合わせか。
「後、コンクラベ様は?」私の問いに、弟子の枢機卿が答える。
「私達にクーデター対策を指示された後、また孤児院巡りにお立ちになられました」
「多分、教会の中でしか見えない事の対策を、よしなになされているのであろう」と公爵。「もっと我らに頼って頂ければ…」それは、コンクラベ師を心の底から案じているかの様だった。
「オレンジャー卿はコンクラベ師を御存じだったのですか?」
「教会における師、我が父じゃ」コンクラベ様の方が年下でしょう?
「何年も前、あまりに不甲斐ない王国を我が力で統べてやろうかと思った時じゃった。
巡回して来たコンクラベ様が、我が領にいる人々を、子らを救う事に心を注ぐ様、諭して下さった。人の命の力を、教えて下さったのじゃ。そのお蔭で我が領は凶作を免れたのじゃ。
リベラ卿も一度お話を聞かれるが良い」
いや、今サラっと問題発言しなかった?
「そ、そんな危機が、王家に迫っていたとは!」テイソさんが顔面蒼白だ。
「へ?」オーティェ…
「はっはっは、今は王女と共に、豊かな未来が待っておる王国に尽くしますぞ!」
サラっと流したな?
「それよりもじゃ。王女、というのは如何なものか?」
「へ?」
「何事にも頃合い、というものがある。ましてや総本山、そして帝国との外交戦じゃ」
一同の視線がオーティに集まる。
「へ?」
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南西へ100km、早馬を飛ばし、何度も馬を替え、先触れが帝国を訪れたのは10の月5日。そして決まった面会の日取りは17日。先触れの帰還を待たずに、私は空間転移を使い帝国の要求を知った。
かつてこの大陸、グランディア大陸の西半分、今のフロンタ王国、ミデティリア帝国、ダキンドン王国、ボーコック王国を含む広範囲を500年間治めた古代大帝国ミディア。
今のミデティリア帝国は、ミディア帝国の首都マンナを含む、かつての大帝国の版図の中央を占めている。
1500年前に頂点を極めたものの、版図の拡大、人口の増加、奢侈の加熱、資源の乱獲のため生活水準が維持できず分裂し滅亡し…って故郷のローマ帝国のまんまだな。
その末裔というか別民族が南下して旧帝都周辺を版図にしたのが今のミデティリア帝国だ。その旧都マンナの一角に、創世教会の総本山がある。
創世教会は大帝国時代から大陸全体に広まり、各国の王も教会の権威の元に、神の代理人として統治している。教皇の存在は大陸の精神的紐帯になっているのだ。
王国からの先触れに対し、帝国は「事情は聞くが、帝国領内での戦いには手を貸さない。理不尽でなければ通す」との、消極的静観、見方によっては黙認するという条件で、会談が決まった。
但し。
「会談の場所は王国が作れ。相応しい物を」だそうだ。また、
「通してほしければ相応の物をよこせ」と来たもんだ。
「ほほ、城主様の言った通りだな!」公爵も、辺境伯もニヤニヤ笑う。
「何を笑ってるのよ!魔導士様のお城は、私の国に欲しかったのに~!」
「姫様、今は外交戦です!後でお願いしましょう」決定事項かよ?
「しかし数日で両国首脳会談に相応しい場所を作れとは、常識的に考えて無謀だなあ」
「もしかしたら城主殿の存在もある程度掴んでいるのでは?」多分その通りだ。帝国の目も侮れないな。
「御屋形様の城は高くつくんで~」鍛冶屋というよりすっかり商人だなアンビー!
「はあ。帝国皇帝も、珍しい物見たがり屋なんだなあ。いっそ、聖女駐留の聖地と、王国物資提供の兵站基地にしてやろうか!」
「聖女の聖地として人が集まるのは向こうも読んでおろう。総本山に近いとは言え
何もない荒地を会談の場所に指定して来ておる。しかし兵站とするのは簡単には行くまい」
「あ!まさか」「当たりだリベラ卿」「何じゃ?」
「そこまで言うなら思い切りやってやろうか」
「…御屋形様、材料はキッチリ外から出させなされよ?」
「何じゃ?何をするつもりか?」私は仔細を説明し、協力者の選定、配分をリベラ卿とオレンジャー卿、テイソさんと亡命枢機卿団とで詰めていった。
そしてオーティーは「神輿は黙って担がれとりゃええんじゃ」と言われたわけではないが、始終頭に「?」を浮かべていた。
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斯くて、僅か十数日で総本山のクーデターを一掃する作戦が決まった。
あまりに無謀にも見える、しかし確実に遂行できる目途が立った計画書を前に、オレンジャー卿が語った。
「つまり、こういう事ですか。これから態々敵である総本山に乗り込み、方法はまだまだ分からないですけど首謀者の罪状を暴露し、それからディグニ49世様の手で、冬の礼拝を挙式させる、と。」
「イェス!」オーティが力強く答える。ド〇・フライかな?
オレンジャー卿が、皆が意を決した。「了解!」
この世界にM塩基は無いよね?
「先ずは総本山の雑魚どもを一掃しよう!」私の問いかけにオーティが応えた。
「アォーペレーション!レーリジョス、ウォァーズ(宗教戦争)!ですわ!」
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「王女、オーテンバー・ダキンドン殿下に置かれましては、この巡礼の御威光により、教会総本山を乗っ取らんとする異端に天の裁きが下り、創世教会と大陸に広く秩序が取り戻されんことを、祈念申し上げ奉る!」
多数の枢機卿、司教が、王城の内庭で王女に跪く。白く輝く巡礼服に身を包んだオーティと麾下の近衛騎士令嬢ーかつての女騎士達が爵位を得て近衛となったーが礼を返す。
そして。
ダキンドン教会管区の枢機卿、孤児院訪問の時に会った、コンクラベ選皇枢機卿のお弟子さんがオーティの前に出た。
枢機卿は祝詞を唱え、王冠を高く掲げた。
そう。昨晩、あの役立たずの愚王、マツエルス・ダキンドン4世に、オーティへの王位継承を迫り、王位継承の儀式を行ったのだ。
総本山や、南方沿岸を支配するミデティリア帝国を相手に外交戦を行うには、王女の名ではあまりに弱い。王国のあらゆる儀典を簡略化し、「即位直後に巡礼に出立する」という名目の下、祝賀や外交行事を後回しにして強行した。
彼女に王が務まるかといえばそれもアレだ。だが、信頼できる腹心が居り、彼らの意見を聞き、決断し、それを外部に向けて威厳を持って公言する力は、父であるマツエルス4世等より遥かに強い。
それに今は聖女オーティは大ブームだ。乗るしかない!このビッグウェーブに!
楽団の奏でる聖典の歌の中、オーティは王冠を授かり、女王オーテンバー・ダキンドンとして即位した。
流石にこの場には、萎れた野菜みたいな顔をした威厳の欠片も無い前王であっても出席させた。自らを恥じてか、末席に立ってる。
だが律儀にオーティは父の下に跪き、その手を取って口づけを捧げた。この、親への愛を素直に表した光景に、不満があった貴族も拍手せざるを得なかった様だ。
あなたのその優しさは、きっと多くの人を救うんだ、オ-ティ。
テイソさんがオーティに耳打ちし、オーティは壇上で宣言する。
「我、女王オーテンバー・ダキンドンは、イノセント4世なる者を教皇と称し、教皇ディグニ49世の監禁を企んだ枢機卿団に疑いを持っている。更にそこには我が国の罪なき子女を拐かし、無残にも殺害したかの罪人デマゴギーも名を連ねている。
如何に教皇ディグニ49世を罪に問い、罪人デマゴギーを許したか。その真偽が明すべく、総本山へ、向かう。
神は、必ずや裁きを下し、大陸に秩序と団結を与えられるであろう!
これは戦ではない!我らは神の裁きを希うため、巡礼の旅に出る!
我と志を一にする者は続け!祈り、歩み、総本山へ行こう!」
大聖堂の鐘が鳴り響いた。
楽団と合唱隊が奏でる典礼の歌に見送られ、王国の騎士団が騎馬で先導し、随伴する王国の聖職者、そしてオーティ以下近衛騎士団が純白の服を纏って続く。
オレンジャー公爵、リベラ卿、北方の元貴族連盟の盟主達は直ちに散会し、作戦の実行の為動いた。亡命枢機卿達は既に王国を発った。私も持ち場に飛んだ。
王都の貴族や市民は、熱狂を持って見送った。
大陸暦1508年10の月10日、ダキンドン王国オーティ王女は即位したその足で創世教会総本山への巡礼を開始した。城への第一報の僅か10日後の事であった。
最終ラウンド、やっぱりオーティが主役です。次回、久々に天守が上がります。タイトル詐欺回避、30数話ぶりに回避!
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「このネタっぽいのがわからん」
「オレンジャー卿骨折してしまうん?」
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