50.王都に愛の鐘が鳴る
前回のあらすじ:宇宙刑事と第二期ウルトラのサブタイが羅列してると、何だか頭がおかしくなりそうです。
今回は発酵少女モネラ無双です。
「貴方達は、来年には死に、王都は滅亡する!」
「「「何だってー!!!」」」
CM開けたかな?
「ここは汚い。トイレがとても臭い。小さい子がいる。冬になれば病人が増えて、10歳を過ぎた子でも死ぬかもしれないし、小さい子はみんな死ぬ」
「何だよ!本当の事言われたから俺たちを呪う気かよ!」
「あなた、今日何回トイレに行ったの?」
「え?知るかよ!」
「さっきから、お腹から変な音がしてるし、肌が荒れている、多分下痢で体から水が足りなくなってる。このまま風邪になったら、すぐに弱まる」
「う、うるせえよ!うっ」
少年はトイレに行った。
「あんな立派な大聖堂のすぐ裏なのに、トイレが汚い。これじゃ天の門じゃなくて地獄の門の近道」
「な、何を言う!」今度は院長が狼狽えた。
「大聖堂でもこんな状態、王城もあんな状態なら、人が増えてきている王都全体が疫病にやられる。折角復興して来ているのに、疫病で王都は滅亡する」
泣いていた子が言い出した。「掃除しようよ」
昨日の夜、この子と何ができるかを話していた子が言った。
「私達は、せめてここで出来る事をやらなければいけないの!」
「掃除道具はありませんか?」
「みんな、口と鼻を覆って、髪も覆って。夕食まで4時間。トイレを中心に綺麗にしましょう」
「そ!そんな!聖女様のお客様にトイレ掃除などさせる訳には!」慌てる院長。
「ちょっと待てモネラ。私は浄水槽を、それから井戸から下水までの道を作る。
トイレ掃除はそれが出来てからだ。それまで、食堂や寝室を見て、酷い所をやっつけてくれないか?」
「わかりました。貴方達、自分の家の掃除を他人だけにやらせるの?」
「あ、お?あれ?」
「やらせるの?」モネラは少し微笑んだ。
「ああ。悪かった。案内するよ、うっ!」
「ごめんね、あなたは何か悪いものを食べたかもしれない。寝ていて」
「私が様子を見る!」ステラが少年を介抱する。
「他に具合が悪い子いない?あたしの所に来て!」オイーダもあからさまに様子の悪い子の世話をし始めた。
「院長、具合の悪い子をここではなく司祭館で介抱したい。いいですか?」
「司祭館は平民の孤児などが入るところではない」
「私は創世教徒ではないが、教会は預言者の率いる子孫全ての家とお聞きする。教会の孤児院で預かる子はその外にいると宣言なさるか?」
院長は暫く考えた。考えるのかよ。そして。
「コンクラベ様は、子供達が一番天の門に近いと仰せになりました。私の見識が拙かった!申し訳ありません!」
「一緒に子供達を護りましょう。具合の悪い子達を早く!」
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壮麗な大聖堂も、そこに起居し参拝する人数に比べ下水周りのインフラは果てしなく足りていなかった。
「空間切断、チェース!」と一時的に下水道を掘り、川の水を組み上げる水車を作り、浄水槽を作った。これで川から司祭館、大聖堂、孤児院、修道院へ、そして住民数の最大三倍の汚水を浄化する浄水槽、そして綺麗になった水を川へ戻す下水が出来た。最初の揚水がこの大聖堂に努める者の、一番大切なお仕事になるなあ。
トイレ掃除は明日…と言う訳にいくまい。食堂掃除を切りの良い所で止めてもらい、城の子孤児院の子、全員完全武装の白装束で、大掃除を始めた。
最初に魔法が使える子に放火放水の術を重ねて貰い、ケ○ヒャー式高圧蒸気洗浄。そして傷んだ床材壁材を剥がして魔の森の木に張り替えた。
水洗トイレや、ウォシュレットを造る事も考えたが、そりゃ過剰サービスかと迷った。だが、モネラが言っていた冬の話も気になる…やらぬ善よりやる偽善だ。水洗用の給水槽と、手動式ウォシュレットも足した。壊れたら自分で直してほしい。製造者責任無しで。
風呂は…風呂も悩んだ。だが、孤児院にだけ造る事とし、司祭館には作らない。簡単な金属製風呂釜を孤児院に設け、冬でも風邪をひかずに入れる風呂を作った。 司祭の皆さん、風呂に入りたければ、孤児院の様子を見てからにしてくれ。
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具合が悪い子供は、食中毒だった。根が生えた芋が原因だ。
芽が生えたジャガイモは毒だ、そう箱にも袋にも書いたが、目の前の食糧に飛びつく民衆の前には無意味だった。胃腸を落ち着かせるため、プリンの乳を飲んでもらった。あの生意気な少年は真っ赤になっていた。栄養が足りていない子も呼んだ。
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「おい!そのベットどかせ!下に埃が溜まると風邪ひきやすくなるんだぞ!」
「そんなところまで掃除しなくていいだろ?」
「馬鹿野郎!風邪をひくのはお前じゃねえ!もっと小っちゃい子だ!兄貴分なんだったら手を抜くな!」
「な、生意気だぞお前!」
「俺の兄貴なんて何か教える前に拳骨がぶっ飛んでくるんだぞ!生意気で済んでる分有難く思え!やるぞ!」
「お、おう…」
男子も頑張っていた。院の子に檄を飛ばし、埃塗れ雑菌塗れの寝室を掃除し、布団代わりの藁を干し、シーツ代わりの麻布を洗って干した。
「お前マスクから鼻出てるぞ!」
「いいじゃねえか苦しいんだよ」
「鼻と口は頭の奥で繋がってんだ!夏でも風邪ひくぞ!」
「え?そうなのか?」
なんだかんだ、協力しつつある。
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元気な子は出来たばかりの風呂を楽しみ、清潔にした。夏である今は問題ないが、冬になった時に湯冷めしない様、余剰気味の魔狼の毛皮を創世教会に…ご購入頂こう。
「いやよあんた達と風呂なんて!」
「駄目。あなた、頭にシラミがいる」
「そんなの普通よ!」
「駄目。頭だけじゃない。股にもいるでしょ?」
「うっ!」
「さっきからもじもじしてた。ほおっておくと、赤ちゃん産めなくなる」
「嘘よ!」
「そういう人、私を捨てた村にいた。焼き殺されたよ。もうそんな人見たくないよ」
「わかったよ!やめてよ怖い話!」
「モネラちゃんって、怖いね。お城でもああなの?」
「そうかな?優しいと思うよ」
「あんた達も怖いかも」
「次、あなたは水虫」
「「「やっぱり怖いー!」」」
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子供の介抱を終えたステラとオイーダ、プリンに風呂に入ってもらい、夕食を用意した。城の子も孤児院の子も皿を洗ったり並べたり、一緒になって手伝った。
料理をしたのはもっぱら城の女子だ。
「ちゃんとみんな手を洗って!」
「手は神様から頂いた尊いものなんだ!洗っちゃ駄目だ!」
「洗って。どんな尊いものでも、細かい汚れがついて、口の中に入って来る」
「お前神様を信じないのか?!」
「じゃあその信じる力で、上で寝てるあの子達を治して。早く」
モネラは小さい子達の手を取って手洗い、うがいを教えた。
「あんた達さっきまで大掃除してたのよ!口の中は埃や汚れだらけ!汚い男はモテないわよ!」
「城から来た怖い女なんかにモテたくないよ」
「おやつあげないわよ!」
「ヒィ!」これはステラの教育の賜物か?そっぽ向かないでステラ。
そして。
「「「天に在します創造の神よ、我らを祝し、御恵みによりて…」」」
40人の子供達と、院長の代理の若い修道士、そして私とステラ、オイーダが食卓を囲む。院長は司祭館で…豪華な夕食だ。
来客ほったらかして駄目じゃん!そういう所、まだまだコンクラベ様の門下も修行が必要かも知れない。
「うめー!」「なんだこれ!!」「うおー!」
「これは、ぬめぬめと、ぷりぷりと!」「うほ!」
「こら美味いですよ!美味いですよこれは!」
あまり時間がなかったので、刻み魔物肉と、小麦を捏ねてパスタにしたペペロンチーニを振る舞ったところ、孤児院の子供達に大好評だった。
彼らの胃袋は掴んだな、少女達!「美味しいよ!」
フォークを知らない子達に使い方を教えつつ、存分に食べてもらった。
そして、メープルシロップを使った焼き菓子を女子達が作った。プリンがミルクを持ってくると、それを生地にしたり、泡立てたり。
焼けたクッキーにクリームを塗って食べると。
「ん~!」「おいし~」「あま~い!」大好評だ。
そこから、城の女の子と孤児院の女の子の間で、スイーツ談義が始まった。
甘味の原料を栽培すれば焼き菓子やミルクを使った菓子が出来る事、それを売れば高級品になる事。
男子達も、城の魔物退治の話や鉄道の話で盛り上がる。孤児院交流会は、大人が手を下すまでもなく、ほぼ子供達だけの力で成功した。
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お腹を下した子達は、三階の寝室で休んでいた。ミナトナの乳のお蔭で腹痛は収まったが、階下の賑わう声を聴き、漠然としていた。
「腹減ったなあ。俺もお菓子食べたかったなあ」
すると、階段を登って来る足音。寝室に来たのはモネラと二人の少女。
手にしているのは、盆に乗った、小さめの碗と、いい匂いのスープ。
「少しでも栄養を口にして。胃を動かして。このスープなら大丈夫」
「い、いいのか?」「食べて。その前に手を拭いて」と、洗面器と石鹸で手を洗わせる。
神妙にモネラに手を差し出す少年。重ねられた手は丹念に洗われ、拭われた。そしてやっと、米の浮いたスープを口にした。
「美味え。う、美味えよ…」少年は泣いていた。
「大丈夫。ゆっくり、お腹を治して。後、根が生えた芋は食べちゃ駄目。芽の周りを大き目に切って畑に埋めれば、3ケ月で新しい芋が出来る」
「解ったよ」
「今日はよく寝て。ゆっくりお腹を休めて」
「解ったよ」
モネラと少女達は、他の子の手を洗い、スープを飲ませ、部屋を出ようとした。
「待ってくれ」少年の呼び止めにモネラ達は足を止めた。
「俺にとって、聖女はあんただ。ありがとう、あ、ありがと…」
臭かった寝床、臭かった下着、風も通らない部屋、痛かった腹痛。
全てが嫌だった少年にとって、たった半日で、全てが変わった。
全てを恨んでいた少年にとって、ありがとうと言いたい存在が現れた。
「私は聖女じゃない、でも」モネラは頬を染めて
「うれしい。ありがとう」とほほ笑んだ。
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翌朝。病人も出た孤児院に長居する事は躊躇われる。
大聖堂を預かる枢機卿から会食の申し出もあったが辞退した。
唯、「孤児院の指導者は、孤児の心を治癒できる様に訓練し、派遣して欲しい。孤児院の衛生環境を是正して欲しい」と伝えた。
枢機卿は落胆したが、「思い至らぬ点が多く、大変迷惑をお掛けしました。全て『上』へ報告します」と約束してくれた。
「トイレと風呂、そして下水も、綺麗にしましたので、他の孤児院でもそれを参考にして下さい」と頼むと。
「ト…トイレ?下水?!」孤児院長が「あ、忘れてた!」みたいな顔をしてたが、知らんがな。
衛生は大事な事だと、骨身にしみて感じて欲しい。
動揺を抑えつつ、孤児達と城の子で礼拝に授かった。テンポラは貴族に呼ばれたので不在だが、同じ音楽組の子が指揮をし、聖典の歌を古語で合唱した。
「神は遍く世の子らを愛で 神の愛の零すところなし
その理は人識るに能わず 世々に満ち世々に溢るる」
その声と和音は美しく、正に天使の歌声だった。
枢機卿や司祭達、孤児院の子も、昨日腹痛に悩み、今日回復した子も、古語で美しいハーモニーを奏でる城の子に驚き、聞き入っていた。
「もう帰っちゃうの?」
「次は私達の妹達が来るよ!」
「また来てよおー」「一緒にお菓子つくろうよー!」
昨日の険悪な空気が嘘みたいだ。
私は約束した。
「私達護児城の生徒は、また来ます。それまで皆元気に、手を洗って、うがいをして、お部屋を綺麗に掃除して、病気をしない様にね?!」
「次はもっと美味しい料理を作るからね!」
昨夜、鳴き声を聞いて三階に夜泣きをあやしに行ったオイーダが、小さい子を抱き上げて言う。その子はとてもいい笑顔をした。同じ様にあやしに行ったステラもプリンも、あやした子達を抱きしめて別れを惜しんだ。
「俺は、あなたを聖女と信じる!」
「「「なんだってー!」」」
昨日腹痛で寝込んだ少年が真剣に言い放った。
「だから、俺は、ここを守る。働いて、みんなを守れる男になる。
力だけじゃなく、知恵も、優しさも鍛える!」
優しさって鍛えるものなのだろうか?ん~、違うとも言えないな。強い奴程笑顔は優しいって言うからな!
「その時にまた会おう!また来てくれ!」
「がんばって。私も頑張る」と手を差し出すモネラ。その手を取り、跪いて手にキスする少年。
流石の予期せぬ返礼に、モネラは真っ赤になった。
「「「キャ~ッツ!!!」」」少女達がものすごく良い笑顔で声を上げた。
お互いに礼を交わし、私達は「再会の歌」を合唱しつつ、王都の孤児院を後にした。孤児院の子供達は、私達が見えなくなるまで、手を振って見送ってくれた。
その時、昼を告げる大聖堂の鐘が、少年少女を見送るかの様に、王都の空に鳴り響いた。
実際の所都市衛生という概念が出来たのは産業革命時のロンドンだったそうで、テムズ川とか酷かったそうです。思わずフ〇ルマ先生に助けを求めたくなります。
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