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45.魔の森から帰ったら私の国はカルト基地

前回のあらすじ:昔NHKで放送していた古い名画。教養の面からもああやって接する機会は大切でした。今はネットで見られますけどね。

 姫一行は幾日か城内を見学した。ある時は驚愕し、ある時は掘り下げる様に質問し、興味が尽きぬ様であった。

 その間に、こちらは提供する予定の作物の備蓄を輸送する手続きを整え、別れの日を迎えた。


「やだあ~!帰りだぐなあい~!」

「姫様!子供じゃないんだから駄々こねないでください!」

 という微笑ましいやり取りが二之丸御殿にまで聞こえて来たけど優しく無視しよう。


 泣きはらした姫を先頭に、輝く鎧に身を包んだ一行を鉄道駅まで見送る。

「姫、テイソさん。そして騎士団の皆さん。後は手筈通りに。くれぐれも慎重に、そして大胆に」と囁いた。姫はキっと表情を固め、声を張り上げた。

「この度の歓待、この世のものとは思えぬほど甘美で華麗であった。生涯忘れえぬ良き思い出を頂いた事、心より感謝する。

 この返礼は、約束を果たす事で、必ずや返す事を誓う!

 そしてまた必ずやここに来る。また…

 その時も、歓迎してもらえるだろうか?」

 ステラが恭しく礼し言う。

「再度の来訪を、心よりお待ち申し上げます」

 続いて、好奇心旺盛な一行を案内して回ったアンビーも、苦手そうに言う。

「次回は~。え~、一層心を込めてお迎え申しあげちゃろ…ます!」

 新たな知己を得た事を喜んだ二人の妻が、笑顔を向ける。


 また瞳に涙を溜めながらも姫は笑顔で凛々しく、

「必ずや来る。そして、いつの日か魔導士タイム殿と、奥方たち、この城の子供達を王都にお迎えしよう!

 飢餓の恐れも、戦の憂いも消し去ったその時に必ず!総員、敬礼!」

 女騎士達は一糸乱れず剣を捧げた。


 出発の鐘を合図に一同は客車に乗り込み、ムジカ達の奏でる再会行進曲ともに、子供達の振る王家の紋章の旗に見送られ、去っていった。


「とても心の清く優しい方で、本当に良かったですね」とステラが言った。

「あの姫、ええ娘じゃった、眼ェ澄んでたよ」と、意外に高評価なアンビー。


******


 姫一行帰還の先触れは王城内に動揺を齎した。


 勿論、その先触れが姫率いる女騎士だったら、すぐに握り潰されてしまっただろう。

 王女たちには念のため辺境伯領を訪問して貰い、辺境伯から使者を出して貰った。

 王国とは一触即発の関係にある辺境伯の使者を捻り殺したら王国は分断、内戦となる。無論そんな暴挙も出来る訳がなく、先触れは無事王都に届き、王城を揺るがした。


 食料を奪い逃げ去った将の何人かは「姫討ち死に」と嘘を城へ報告してしまっている。先触れの報告から姫の帰路を特定した将達は人里離れたところで姫一行に刺客を差し向け、彼女らを刺殺…できなかった。

 私が「未来の映像」だけを姫一行に先行させ、実体はその遥か後方を、庶民に偽装し分散させて南下させたのだ。


 複数の将による姫襲撃は各地で散見され、付近の街々に

「なんか兵隊達がやたら戦っておるが、音もせんし怪我人も出ん」と、意味不明な報告が挙げられた。

 国王は各軍団の将に説明を求めるも「戦争を前に演習しているだけ」と意にも介さず答える。

 王国に忠誠を誓い、侵略に反対した良識ある貴族は王城から距離を取り、王城で我が物顔でのさばるのは忠義もなく、あわよくば王の権威を奪ってやろうという連中ばかりだ。王もそれ以上追求する事も出来ず、己が無能を悔いるばかりであった。


 しかし荒廃した王都では

「魔の森で死んだ筈の姫が帰って来る」

「魔の森から幻の麦を持ち帰り飢饉を救って下さる」

 という噂が飛び交っていた。

 平民にとって前者はどうでもよい事だった。問題は後者だ。

 魔の森遠征をきっかけに、王の膝元である王都でも、王を無視した有力貴族によって食料の徴発が濫発される様になっていた。強力な貴族への恨み声の替りに、市民たちは夢物語に縋る様になっていた。

 この噂に、裏切り者の将とその背後にいる貴族は躍起になって真相を探った。しかし、酒の席の戯言という以上の情報は掴めなかった。


*******


 帰還の予定を遥かに過ぎ、有力貴族達が「あの馬鹿娘もくたばり果てたか」と安堵していたある日の夜明けに…


「開門!ダキンドン王国王女、魔の森征伐隊指揮官、オーテンバー姫の帰還である!」と王城前の広場に叫ぶ声、そして喇叭の音。

 どこから現れたのか、騎乗した姫と、テイソ以下六十名程の美しい女騎士達が王城の中心部、王宮の正門前に整列し、その周辺では軽装の商人らしき者達が、或いは大鍋に湯を沸かし、或いは焚火を用意して動いていた。そして彼女らの廻りには多くの荷馬車があった。外郭の門をいつ通過したのか。

 

 姫は王宮に背を向け、何事かと集まった市民に向け叫んでいた。

「王都の民よ!私は魔の森から帰って来た!

 そして、痩せた土地、荒れ野ですら実り、わずか3月で実を結ぶ糧を手に入れて帰って来た!

 飢えた者はこれらの作物を食すが良い!

 我らは魔物と戦い、これらの糧を得て生還したのだ!安全は私が保証する!」


 女騎士達の半数は伍隊を解き、荷車の幌を外すと…緑の葉に包まれ、その先端から髭の様なものが生えた棒状の作物が山積みにされていた。女騎士達が葉を毟ると、そこには金色に光る小さい粒がビッシリと並んで輝いていた。

 そう、この大陸にはまだ存在しない筈の、トウモロコシである。


 鍋を用意していた女騎士達は次々とトウモロコシを茹でた。また、他の女騎士達は身を芯から外し、香ばしいバターを溶かした鍋に投げ入れ塩を入れ、蓋をした。

 空腹を抱えていた市民達は続々と広場に集まり、茹でられたトウモロコシに視線を集める。

 女騎士達が叫ぶ。「我らを救った金の実を、姫様は皆に分け与える!食さんと思う物は身分を問わぬ、存分に食すがよい!」と茹で上がったトウモロコシに塩を振り大皿に盛る。

 ソースを塗って焼いたトウモロコシから、なんとも食欲をそそる匂いが流れて来る。


 わらわらと集まる市民が姫を見ると、そこには慈母の如き麗しく優しさに満ちた姫の笑顔があった。そして、食事を求めて来る子供達に女騎士が「お腹がすいたでしょ?食べてね!」と優しい言葉をかけ、トウモロコシを手渡す。

 見たことも無い作物から漂う甘い香りに、何人かが噛り付く。

「う、美味い…」齧った男が涙を流し「これは…美味い!美味いぞー!」


 忽ち姫一行の周囲に市民が躍り出て、茹でトウモロコシに群がる。整列していた鎧姿の女騎士が整然と市民を誘導す。

「トウモロコシは山とある!奪う必要はない!むしろ分け合え!子供達を先にして、分けるのだ!」と呼びかける。鎧騎士の誘導に市民は従い、混乱は次第に整理されていった。

「美味しい!」「美味い!」「こんなの食べたことが無い!」「こら美味い!美味いですよこれは!」と市民達は口々に叫ぶ。


 更に暫くすると、実を炒めていた鍋から、無数の炸裂音が響き始めた。バターの甘い香りが強く漂い、「実を焼いた料理も出来たぞ!こっちも食べてみるがよい!」と誘導する声が響く。皿替りの大きな葉に盛られたポップコーンの出来上がりだ。茹でて塩を振ったものと全く異なる味わいに、市民の間に笑顔が広がっていく。

 その笑顔の輪が広がっていく姿に、姫もまた笑顔になるのであった。隣のテイソさんの緊張した表情に気も付かずに。


******


 姫の帰還を早めに偽って知らせた先触れも、姫一行の幻を見せた空間魔術も、一行の半数を庶民に偽装させ分散させ密かに城内に潜入させたのも、商人に協力を求め荷馬車にトウモロコシや鍋、バターを用意させたのも、抵抗勢力による暗殺や妨害を予測しての対策だった。


 姫一行の送別の前に、


・途中暗殺者が必ず来る

・王宮内だけで帰還の式典を行うと、有力貴族によって城からの提案諸共「無かった事」にされる危険がある

・提供した穀物に恐れをなした有力貴族が穀物を焼き払う危険がある


 という、有力貴族による徹底した破壊工作が予想される事を伝えた。

 それらへの対抗手段も伝えた。

 時空魔法や商人ネットワークを使用して、王城眼下での炊き出しを行い、市民を大勢集める。

 市民が多数集まった状況で、城からの提案を公言する。

 この状態では、姫の発言を「無かった事」に出来ない、「無かった事」にしてしまったら、王都の情勢は益々悪化し、王国が分裂しかねない。

 王城の鼻っ面で堂々と宣言してやる事にしたのだ。


*******


 予定外の姫帰還の報せと、突然の王城外での騒ぎのため王城内は当然大騒ぎとなった。

 愛娘生還の知らせを受けた国王は何年か振りに喜びに包まれた。新年の市民への訓示等で使うバルコニーに出て王城前を見ると…何たることか、場外には市民がひしめき、その中央から湯気や煙と香ばしい香りと、更には愛娘とその友人たちが市民に炊き出しを行っているではないか?!


「オーテンバーよ!よくぞ…よくぞ?」親としての喜びで叫んだものの、言葉が続かない。感極まったわけではなく、あまりの状況に言葉が出ないのだ。

 こんなんでよく国王なんて席についていられるなあ。言動一つ一つで政局を操作しなければならないと言うのに。

 ああ、こんなんだから政局を操作できていないのか。


「父上!私は…」「ゴホン」感極まって叫び出した姫をテイソさんが押し止め、親書を手渡す。

「あ、そうだった」と威厳を但し、良く通った声を張り上げる。

「国王陛下へご報告申し上げます!

 王女オーテンバーは、魔の森を訪れた結果、その地に住み、これら豊かな穀物を大量に栽培する城に住む、魔導士タイムと名乗る者と出会いました!

 そして、我が国の民の飢餓を救うための親書を受け取りました!!

 それをお届けするために、行軍を中断し、恥ずかしながら帰ってまいりました!」

 おお、よく出来ました。


 ベランダの王の後ろに、侵略を画策する有力貴族達がようやく集まって来た。

「王よ、直ちにあの者らを解散させ、取り押さえる様命じよ!王都が大混乱に陥る!」もう王に対し敬語も使わず命令してる。

「あれは余の娘、王国の姫であるぞ。それを罪人の如く捕らえよとは、何様になったつもりか?!」

「姫は死んだ!あれは偽物である。王たる者が魔物に惑わされる様では、この先が思いやられる。王子様にご指示を仰ぐが宜しいか?」あのアホになっちゃった王子を担いで好き放題する気を、最早隠そうともしない。

「姫を始めとする騎士達の鎧に記された紋章も偽りと申すか?それであれば余の王冠もまた偽物と申すか?口が過ぎるぞ!!」王が怒った。

 普段弱気で言いなりの王の権幕に貴族達が「しまった!」と慌てる。王はベランダから叫ぶ。狼狽えながら貴族達が王に続いてベランダに出る


「姫よ!よく無事に戻った!そなたの帰還こそ無上の喜びである!」

 姫は感極まって「父上…」と感涙しつつある。そこに「姫様、奴等もおります。今です!」ナイスだテイソさん!

「は…そうだった。ここに国を、ここで苦しむ民、みんなを!破滅から救う助言を奏上いたします!」

 市民が「「「おお!」」と姫の言葉を熱い視線を浴びせて待つ。手には熱いトウモロコシを握って。

「この食物を託してくれた、魔の森の城からの言葉を伝えます!」

「「「おおー!!」」市民が呼応する。

「一つ、王国軍が魔の森に侵入した場合…」と戦争についての二か条を読み上げる。市民はあまり反応しない。

「一つ、城は王国の食糧難を鑑み、他国への出兵による飢餓を避けるため、中止を勧告した!」すると

「そうだ!」

「「「戦争している場合か!!」」」

「「「俺たちは飢えているんだ!!」」」

 と、市民が王城に向かって暴言を吐き出し始めた。バルコニーの王達は驚愕する。


+ 姫は民衆に向き直り、手を挙げる。暫くし、怒号は収まる。

「皆が叫び出した時、こうやって鎮めるんだ」と別れ際に教えた通り、姫は上手くできた。やればできる子だ。鎮まった後に続ける。

「一つ、王国が侵略を中止し食糧増産の協力を求めた場合、城は可能な限り穀物の苗の提供し、育て方も教える!!

 このトウモロコシもその一つ。他にも、多くの穀類や果実の支援を持ち帰っている!」

 周囲の荷馬車が幌を上げ、大量のトウモロコシが現れた。


「「「うおおおお!!!!!」」」怒号から一転して王城前が歓喜の声に包まれる。

騎士達は民衆が押し寄せる前に整列し、民衆へトウモロコシの配布を開始した。


 皆、トウモロコシを振りかざして

「「「姫ー!」」」

「「「オーテンバー様~!!」」」

「「「救いの女神様ー!!!」」」と、熱狂的に叫ぶ。

「「「オーティ!オーティ!オーティ!」」」

 今まで色々やらかした姫を揶揄した綽名が、今や熱い尊敬が込められた愛称として天地を轟かしている。気づけば、城内の守衛の兵達も歓声を上げている。

「入城する頃合いです」とテイソさんが姫を先導すると

「ああ、全部魔導士殿…あの方の仰った通りだ。あの方は、私をお導き頂く、神様だ…」

 と、紅潮した顔で遠い目をする。止めろ。面倒臭い。


******


 ここから先は話が早かった。


 姫は城からの親書を改めて王宮内で読み上げた。

 狂った様に反対する貴族達を後目に、城からの建白書は「あそこまで市民の歓迎を受けた進言を退けたら、王国は王都から崩れる」との王の硬い決意で認められた。

「こんな愚かな茶番劇に負けた愚かしさを悔いるが良い!」と有力貴族達は王子を担いで城を退出した。

 彼らは創世教会のダキンドン王国枢機卿デマゴギー13世の住む、贅を尽くした館に集結した。その館は、まるで自分が天の代理人だと言わんばかりに尖塔が聳え、周囲を威圧している。

 デマゴギーは命じた。

「神の教えに背き、悪魔の穀物の虜となった王と姫を異端とする!奴等の扇動に乗った市民を捉え、審問を省略し火あぶりにせよ!」


 枢機卿館から多数の教会騎士が出動…する事はなく、半数は「地元に用事が」「父が危篤で」「死んだ婆ちゃんが蘇ったんで」と理由をつけていなくなった。

 彼らと入れ替わるかの様に、有力貴族の子弟を中心とした親の七光り連中が枢機卿館に集まり、にわか教会兵となった。

 そして、無理やり市民達を手当たり次第に逮捕した。それも力の弱い女子供ばかりを。

 更に酷いことに、枢機卿やその取り巻き共が奴隷として暴行した少女達の内、妊娠してしまった者まで「聖職者が妊娠させた事が明らかになったらマズいのでついでに」と枢機卿館から連れ出され、無辜の人々が館前広場の火刑台に縛り上げられた。


******


 この報せを受けた姫は激怒し、手勢を率い騎馬で枢機卿館を包囲する様命じた。

「ちょっと待て」とお着換え中の姫を私は止めた。アンダーウェア姿もナイスボディだ。

「キャーッ!」「着替えるなら礼拝用の正装をして行け」「ま、魔導士様!貴方様であればこんな時でなくともいつでもこの体を…」

「いいから礼拝服に着替えろ!テイソさんたち全員もだ!そして火刑台の前で祈りを始めるんだ。後は任せろ、いいな?」と消える。「ああん、残念!」そんな事言ってる場合か。そんな事より、


さあ、戦いだ!(政○一成)

息つく暇もなく、第二ラウンド開始、市民の皆様は中日球場へ避難して下さい。


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「このネタっぽいのがわからん」

「日本の空想世界は、悪の教会に満ちている」

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