44.異世界の歌謡から ダスギブツ ニヒト ヌアアインマル
前回のあらすじ:絵~にも描けない~ 面白さ、お楽しみに
昨日から工作係の子達が女騎士達の甲冑を応急修理し、綺麗に磨いてくれた。王家始め騎士達各家の紋章も鉱山で採取した顔料を油で溶かした塗料で綺麗に修復した。
歓迎式と会議の跡に行われる宴会のため本丸御殿では庭園も立食会場にしたて200人規模の宴会の準備を行った。彼女らが宿泊する本丸御殿の奥向きには、城の女性陣が何やら大量に持ち込んでいる。
避難施設に汽車が着き、修理され輝きを取り戻した鎧に身を包んだ姫以下100人の女騎士が、整列する。
既に避難施設前にムジカ軍楽隊と防衛隊が待ち構え、ダンの号令と共に栄誉礼を(「祖〇」ではなく、個人の趣味で古い「栄〇」の方)演奏、ダキンドン王国の紋章を刺繍した国旗と、護児城の旗を掲げ、敬礼を捧げる。
姫達は紋章の旗に驚きつつも敬礼を捧げ、列車に乗り込む。苦労して刺繍して貰った甲斐があった。
楽隊を無蓋の先頭客車に載せ、駅員の鐘を合図にゆっくり出発し、楽隊が行進曲〇の声を演奏する。月へ行くのかな?
出発と共に、楽隊が行進曲を演奏する。三之丸の商店街大通りに入った列車を、道の両側の子供達が王国旗と城の旗を掲げ、万歳三唱で迎える。
「これよ!これだわ!私が受けたかった夢のお城の歓迎よ!」
と気色満面でオーテンバー姫が顔を真っ赤に染めて喜ぶ。主の喜ぶ姿に笑顔になりつつ、王女としてどうよと思う疑問でテイソさんは歪な笑顔で返す。
それにしても、魔の森の、しかも子供を中心としたとは思えない華やかな歓迎振りについ笑顔になる。そして…
「音楽、行軍。魔物を物ともしない戦力。貴族でも騎士でもないのに、これまでに訓練された平民の、しかも子供ばかりの街。この子達が本気で王国と戦ったら…」と考えた途端、笑顔がひきつった。
過ぎ去る商店の異国情緒な造り。二之丸馬出門に向かう交差点の両脇に立つ商店の櫓、その奥に構える重厚な門。二之丸の学校、各役所…目まぐるく変わる景色にひたすら興奮する姫。
その反対に、周囲を囲まれた逃げ場のない馬出の空間、居並ぶ三層櫓の美観と迫力に脅威を感じ顔面蒼白のテイソさん…気を強く持つんだ、テイソさん。
行進は、本丸白金門前で終了する。列車を降り桝形を潜った姫一行は、豪華絢爛な唐門に目を奪われる。私とステラ、アンビーと、先導してきた防衛隊が整列し王女一行を迎える。
「ダキンドン王国国王、マツエルス・ダキンドン4世の第一王女、オーテンバー姫に置かれましては、来訪の栄誉をを賜り、心より歓迎の意を捧げ奉ります。
魔の森、護児城の城主、魔導士タイムの名において、心より楽しき一時をお過ごし頂ける様誠心誠意尽くす所存に御座います」
と、こんな口上で宜しいか?大陸の対等な王国間ではもっと刺々しい内容を美辞麗句で交わすのだけど、それも嫌だし。ウェーステも作法に詳しいモエも笑顔なのでまあ及第点だろう。
私の口上に続き、防衛隊がビシっと敬礼する。
これにオーテンバー王女が応え…え?
「ダキンドン王国王女、オーテンバー、この良き日の歓待を快く受け入れます。この一時が魔導士タイム殿にとっても幸福な時間となる事を望みます」
おお!昨日までのヘナチョコっぷりが嘘の様な、王女らしき美しき振る舞いだ。
テイソさんたちも女騎士百名もビシっと一礼頂いた。
ムジカに教えた、王国の儀礼で演奏されるファンファーレと共に、姫達を本丸御殿へ招く。あ、姫、ちょっとウルウルしてる。テイソさんが耳打ちしてくる、「姫は、正式に国賓として歓迎されたのは今回が初めてなんです」「ちょっとテイソ!」姫、涙がこぼれてるよ。後テイソさん、顔が近い、いい香りがするよ。
本丸御殿に入った一行は、イケメン騎士様のレンドリー氏と同じ様に、見たことが無い金をあしらった障壁画や極彩色の欄間、漆塗りと金具で飾られた天井を見上げて茫然としていた。そして大広間から見える大小天守の威容を、口をあんぐり開けて見上げていた。お転婆姫は勿論、普段キリっとしているテイソさんまであんぐりだ。
これでこそこの中世風異世界に日本の城をべべーんと築城した甲斐があったってもんだ。
御殿では騎士団でも上位の十名程と城の主要メンバーで、以下の取り決めを行った。
・姫一行と城は、姫一行の退去まで相互に敵対せず、攻撃せず、相互の安全維持を誓う
・城は、姫一行の帰路の食糧確保と、王国の一時的な食糧確保のため、王国内で忌避されていない作物を提供する
・姫一行は帰国後、城主の書簡を国王に引き渡し、以下の意見を伝える
一つ、王国軍が魔の森に侵入した場合、魔物の襲撃は約一万の兵の喪失に匹敵する事が予測される。
一つ、王国軍が魔の森に、他国への侵略を目的として侵入した場合、城は王国軍に一切の助力を行わないとの宣言を受けた。
一つ、城は王国の食糧難を鑑み、他国への侵略は深刻な飢餓を招く事が容易に想定されるため中止を勧告した。
一つ、王国が侵略を中止し食糧増産の協力を城に対して求めた場合、城は可能な限り穀物の苗の提供と農業指導を提供するとの約束を得た。品種・種類・指導内容等仔細は協力要請を確認した後に決定する
はっきり言って親書の内容はお節介もいいとこで、その上姫は代表権を持たない、しかも侵略用の軍道を確保する尖兵であるため、この親書に政治的な力はほぼ無い。おまけに国王は有力貴族の運動に押し切られ侵略を決意した無力な状態である。
もしこの親書に何かの力があるとしたら、
「魔の森に派遣した軍勢がほぼ逃げて壊滅した」
「魔の森南端の魔物の種類や数が確認できた」
「城には高度な文化と協力な戦力があり、食料生産能力もある」
「凶作状態でも育つ穀物の現物を姫一行が持ってきた」
「敵対したら、あの美味い芋は食べられない」
と言った事実を改めて認めさせる程度である。
だが、そもそも飢餓状態で侵略戦争という愚の骨頂を選んだ阿呆な勢力、そんな目の前の事実など全く見ようとはしないだろう。
なので、
「これらは、王が必ずや行うであろう、姫の凱旋式典で、貴族や有力商人だけでなく、市民が大勢いる中で読み上げて下さい。もし衆人環視がない状態で宣言すれば、あなた自身の命も危険な目に遭うでしょう」
と釘をさしておいた。あ、姫、どうして?って感じで首を傾げてる。カワイイけどイラっとする程の馬鹿さ加減だ。テイソさんは緊張した表情で頷く。
「難しい話はこれ位で…」と会議の終わりを宣言すると姫の顔がパアっと輝いた。ホントこの娘はぁ…
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姫一行はステラに案内され本丸御殿の奥向きに通され、宴会の準備を始めた。時折黄色い歓声が聞こえる。「宴まで時間がかかりそうだなあ。準備は長いぞ」と設営中の男性陣に苦笑い。
奥からの嬌声がようやく止んだかと思うと、ステラが支度出来たとの知らせが入った。ステラも淡い水色のふんわりしたドレスでお色直しをしている。
御殿向かいの能舞台に待機しているムジカに合図すると、レンドリー氏を歓迎した時と同様、楽団が弦楽器主体の軽やかな音楽を演奏した。といってもとある巨大TVヒーロー番組で使われたBGMの中でも、特にクラシカルな曲を長尺にしたものだけどこの世界じゃ誰も気付くまい。
原典はさておき華やかな音楽に乗って、ステラとウェーステに先導されたオーテンバー姫一行が大広間に入る。私とアンビーは王女を迎え、ともに上座へ向かう。
先ほどの甲冑姿と一転して、オーテンバー姫は、紋章をあしらったドレスを纏って現れた。続く何人かの上位の女騎士達も古風で格式のあるドレスを着ていた。
他の女騎士達は、パステルカラーの生地を使った、モダンなデザインのシンプルなドレスだ。流石に短期間で全員分の格式に応じたドレスは準備できなかったので、日本の結婚パーティーで着られる様なドレスとなった。
そもそもこの魔の森の真ん中で、王国には無い軽かいで明朗な色彩のドレスに着替えられる事自体が信じられない事であろう。
幸い、騎士達はそれを理解し、見たことの無い色のドレスにウットリしていた。
彼女達の髪を飾るドライフラワーやコサージュも、生地の色に合わせて様々に用意してくれた。たちまち大広間は美女たちの着飾る淡色のドレスで、花園の様な彩りに満たされた。なお、外の世界では頭髪を円錐状に高く編んでその頂点から垂らされ顔を覆うヴェールを纏うのが一般だが、これは準備していない。ヘアメイクの時にアンビー謹製の髪留めで髪をアップするだけの現代調にした。勿論希望者にはカチューシャと一体にした薄いヴェールを提供する事にした。
そして、彼女達の胸には、各家の家紋がブローチとして輝いていた。
城の少女達もパステルカラーのドレスだが、来賓と区別するため金糸の刺繍や装飾品はつけていない。
男性陣は私も含めて簡単な意匠だ。外の世界の様に肩に盛りモリを付けるとかはしていない。ただ白シャツにカラフルなベスト、そしてサッシュ(襷)にマントというやや外の世界に似せたスタイルに統一した。サッシュに入る紋章や線で職務や職級が判る様に工夫した。
どれもいずれ来るであろう正式な歓待に向けて、農作業の合間にみんなで準備したものだ。
襤褸を纏い大怪我を負ってこの地に捨てられた少女達が、今や王家の姫や騎士と並んで華やかな装いに身を包んでいる。何と幸せな事か。ステラも、熱い眼差して私の手を握って来た。
音楽と色彩に包まれた中、スパークリングワインが配られる。ガラス製のフルートグラスに立ち昇る細かい泡は彼女達の目を引き付けた。また、香りも辺境領を中心に広まったものより香ばしく、「王都でも殆ど手に入らないこのワインは、ここで作られていたのね…」「伯爵家でも年に一度口に出来るかどうかだったのに…」とあちこちで話題になっていた。
ワインが行き渡ったあたりで音楽が一旦止まる。私は大広間の上段に立ち口上を述べる。
「オーテンバー王女と、王女に忠誠を尽くす騎士の皆様。辛い山脈や魔物の襲撃に耐えて、この城に赴かれた事、心から歓迎します。
楽しい時間を過ごして頂くため、この城に住む子供達と力を合わせて宴を用意しました。皆様の今後の幸福を祈念し、乾杯を交わしたいと思います」
成人前後の城の子達にも酒は行き渡った。
「美しきオーテンバー王女と、忠臣の皆様との未来の栄光に、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ムジカが音楽を再開する。皆が美酒を口に運び、笑顔に包まれた。
嗚呼本当に姫が心の底から頑なな人でなくて良かった。話を聞いてもらえる人でよかった。
深夜に亘る説得は…一種の洗脳とも言えなくはないけど。
魔物の肉と王都では珍しい香料で味付けした肉、川で養殖した魚や海老、畑の作物、栄養満点なバターを練り込んだパンなど、王宮に匹敵する料理が振る舞われ、彼女達の笑顔は更に輝きを増し、あちこちで歓声が上がった。
庭にも麺類や単純な肉料理を中心に「ビュッフェ形式」という名の、どう見ても「屋台」が出され、彼女達は広間と庭を往復し、舌鼓を打った。楽団に興味を持った女騎士達は、舞台の下で懸命に演奏するムジカ達を注視している。この辺もレンドリー一行を迎えた時と似た感じがするな。ムジカ達音楽少女達も心なしか紅潮している。
酒も食事も大分行き渡ったなと感じたあたりで主賓を探せば…
「タイム殿!肉がとても美味であった!あと、あの、やはりワインが!ワインが!とてもシュワシュワーで!喉の仏さんがシュワシュワーで!!」文太好きだなあ。
「姫様!落ち着いて!」なんか既に定番となった姉妹漫談を眺めつつ、今度はビンタを張る事も無くニヤニヤと美女二人のドタバタを楽しんだ。
「ステラ様がお越しになりますよ?」とウェーステ、おお!助かった。
襟を正したところで、普通の笑顔のステラと、面倒そうにしつつピシっとした珍しいアンビーが私の両脇に並んだ。
「魔の森のどこかににある、どんな夢も叶うという理想の城の話は、王都にも朧気に伝わっていました。今朝までの宿も居心地が大変よく、この宴に至っては王城の舞踏会もかくやと思います。」
テイソさんが私に礼をする。本当に良く出来た人だ、助けることが出来て良かった。
「まあ、今の王城は舞踏会などしている場合かを考え直すべき時なのですが」
あ、凄く冷めた目で社会批判した。テイソさんはマトモだなあ。
姫は、食べて飲んでこちらをチラチラ見ていらっしゃる。
「ここは天から降って湧いた楽園ではありません。この酒も料理も、あの子達が一生懸命努力して育てた麦や葡萄や米を、一生懸命努力して工夫したものです」
そう言うと、テイソさんは子供達を見遣って、
「そうでしょうね…素晴らしいですね」と漏らした。
「どうか、この苦境の地にあっても頑張り続ける子供達の事を、そして貴方達の近くにいて不幸に喘ぐ子供達がいるという事を、目を逸らさずに想い続けて下さい」
妻達に目を遣り、改めて深く頭を下げるテイソさん。
姫は…パンを口に咥えながら、涙を零している。
「ごっくん。私も、王国の姫として、タイム殿を見習い、一人でも多くの子供を救い、この城の子供達の様に幸せに暮らせる様、努力します。その為にも、タイム殿から頂いたお言葉を、国王陛下に必ずやお届けします」おお、ちゃんとした返しが出来た。最初のごっくんはどうかと思うが。
その後は「この料理は」「この酒は米から」「このドレスはふわふわで」みたいな話が続いた。私達の他にも、騎士達がダンや防衛隊の男子に色々質問攻めをしている。
王都の精悍にして貞淑な美女に囲まれて、妻帯者も多い筈の男子陣は鼻の下を伸ばし、女性陣はソイツらをちょっと軽蔑している。
子供の世話のため欠席している奥さんにはあまり言ってやるな。ちょっと釘刺す程度にしとけ。
「御屋形様が言えた義理かしらぁ~?」わあステラがあ!助けてアンビえもん!
魔術に詳しい女騎士が街道の結界について質問してくるのでマギカを紹介し、簡単な魔術向上講座が始まる。
酒好きな女騎士がどうやって醸造してるか質問してくるとモネラを紹介し、酒蔵見学の予約が始まった。
ムジカが音楽組の後輩、テンポラに交代し能舞台を降りて来ると、たちまち下で熱い視線を送っていた女騎士達に囲まれた。
ドレスの生地を織ったのがオーリーと聞いた女騎士達はオーリーを囲み、何の糸を使っているのか、他にどんなドレスや生地があるのかと盛り上がっていた。
年長組を手伝って、メイドのエプロンドレスを着て給仕するミッシ達年中組を見て「「「可愛い~」」」と声を上げる女騎士達もいる。そらそうだ、王城や王都ではこんな小さい子が給仕する事も少なかろう。ミッシ達もニコニコだ。
日が傾くと、庭園に提灯が吊るされ、薄紅色の灯りが灯された。天守もライトアップされ、幻想的な光景に姫一行は感嘆の溜息をもらした。いつの間にか、城の子供達が女騎士達に色々王都の様子や店、服、食事について質問する側になっている。
演奏が輪舞曲に替った。私は酔ってご機嫌な王女様の相手をする事となり、下手なダンスを踊った。拍手の中、姫は私をステラの元に先導し、「奥方様には、城主殿をお借りして申し訳ない」とちゃんと挨拶をしてくれた。勝手に踊り始めた事を詫びているのか。
「ステラ、王女様一行の前で、私と踊っては頂けないか?」と手を取ると「私ごときが王女様の次に踊る御無礼をお許しください」と答え、満更でもなさそうに踊り始める。
ステラとダンス。初めてだ。音楽と灯りの中で、二人だけの空間を楽しみ、美しい妻の輝く笑顔を見つめた。
曲は、古い映画の名曲の一つ、世界初の国際会議の外交戦を背景に咲いた、儚いロマンスを歌い上げた曲を奏でた。
美しい旋律に、ステラは紅潮した。
「森で死にかけていた私が、夢みたい!」ステラの笑顔が、更に輝きを増した。
踊る彼女は城の光に彩られ、美しく輝いている。光の渦に包まれている様だ。
「ステラ、とても綺麗だ。私はね、君を、ここに住むみんなを幸せにするために頑張る。辛い戦いが待っていても、私が出来る事を全力でやるよ!」
「わかってる、あなたはずっとあたしたちのために戦ってくれた、只一人の人よ、一番大事な人よ!」
しかし私は言えなかった。出来ない事は出来ない、避けられない未来は抵抗してもやって来る事を。人間として、男として言える事は、
「君は、必ず幸せになる、君の望む未来を、私は全力で守る。そのために私はここに来たんだ」
私の含みのある言い方に、ステラは一瞬疑問を感じ、頷いた。
「信じるわ、この夢みたいな時をくれた貴方を信じるわ。こんな素敵な時がずっと続くの、毎年春が来て、すっとあなたといるの!」
曲は終り、私達は拍手に包まれ、夢の様な一時は終わった。
この名曲を、この城の中には伝えるべきではなかったと後悔した。
周りではダン以下男性陣が女騎士達を相手に、ややぎこちなくも何とか踊れていた。王国の女騎士達が彼らに笑顔で礼を送った。
男性陣にダンスを教え込んだウェ-ステが、何かやり切った満足げな顔で微笑んでいる。ステラとの踊りを終えたのを見て、彼女が次を求めた。
「お蔭様で上手くいったよ、流石だ。ありがとう」とウェーステを労った。
「御存知の通り、城の作法など本でしか読んでいなかったのです。こうして王家の方、しかも王女様の饗宴を仕切らせて頂くなて夢の様ですわ。
それに御屋形様とこうしてダンス出来るなんて。本当に、夢の様」と、うっとりとした表情で踊り続けた。
「でも、これだけで終りではないのですね?」流石、ウェーステ。無言で頷いた。
アンビーは…逃げたな?
曲が終わり、プリン達ミナトナがスイーツを運んでくる。甘口のシードルや、食休みの紅茶も運ばれる。大皿に満たされた氷の礫の上に、アイスクリームの小皿も並べられる。女騎士達からも、城の少女達からも「「「はあぁ…」」」とどよめきが起き、スイーツの置かれたテーブルに群れができた。
陽が落ちてすっかり夜になっても宴は続く。灯りの中に笑顔の花が絶えない。
何度やっても宴会は楽しいなあ。準備は大変だけど、皆が美味しいものを食べ、笑顔で満たされ、初めて会った人達が言葉を交わし、友達となる。誰かを迎える時も、みんなで季節の祭を祝う時も、やっぱり宴は最高だ。
「この地に来て、皆に会えて、本当に良かった」心の中でそう思うと、「全て御屋形様のお蔭よ」とステラが手をつなぎ、答えた。あれ?声に出てたか?
「私一人じゃこんな楽しい場所なんか生まれないよ。皆がいて、初めて楽しい場所が出来るんだ。ステラもアンビーもウェーステも、ありがとう。でも…」
「でも?」
「俺たちの戦いは始まったばかりだ!」
妻達の表情が硬くなった。
「大丈夫だよ。逆転はもう始まっている。後は、一つ一つ着実に行動するだけだ。多くの人が不幸を避けられる」
楽しい時は一時に過ぎない。
勿論、それを永遠に近い物に、少しでも長いものにするために戦うのだ。
今年の5月の喜びを、来年も再来年も繋ぐために。
第一ラウンド、無事終了です。数話飛びの「異世界の歌謡から」シリーズとなりました。
ちょっと長かった。
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