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41.乱心ささやきクーデター 暗雲のダキンドン城

前回のあらすじ:狂った女だけが知っている。みんなで見よう!

 雪化粧で人の往来もままならなくなった頃、ダキンドン王国の王城では、フロンタ王国出兵の軍議が紛糾していた。


「派兵予定の軍勢に必要な麦の接収が難航しています。ガードナー辺境伯からの魔の森通過計画もまだ提出されていませんし、そもそも食料難で貴族領からの徴兵も見通しが立っていないのです!」と兵站責任の貴族が泣きそうに言い放つ。

「この苦難を克服するのが調達責任の貴殿の責務であろう!」あ、このエラそうな奴、馬鹿だ。

「昨今流通し始めた芋が増産出来れば、1ケ月の猶予さえ頂ければ兵糧の目途は立ちますし、更に半年後には王国内の食糧難自体が…」と兵站責任が言いかけたところで。

「その者は神に仇なす異端と看做す!」と、何故軍議にいるのか解らない、やたらキラキラした装飾を付けた神官が叫ぶ。コイツも馬鹿だなあ。あ、兵站さんがキレそうだ。

「地に植えて実る食物に異端も何もあるものか?!そんなに言うならこの飢餓を救う食物を、光の神は我らに与えて下さるのか?!戦いを避ける恵を授けて下さるのか?」うんうん、尤もだ。

「神を疑い神の戦いを避けようとするのが異端たる所以だ!国王、この悪魔を火あぶりにせよ!」

 嗚呼、国王に命令しちゃってるよ。このクソ坊主。

 ダキンドン王国管区の枢機卿デマゴギー13世。国王の叔父で、色々と王国の利権を握ってるからって威張ってる奴だ。


「枢機卿様、この芋や米は、北部辺境地を中心に多くの民の命を繋いでいる。それらを食して死んだ者など未だに聞き及ばぬ。何を以て穀物に過ぎぬ芋と米を排除しなければならないのか?」おお、国王はマトモか?

「神の意思だ!王は神に逆らうのか?!」こっちはバカだ。

「枢機卿!理由無くしてこの飢えた時世に、誰が納得いくと言うのか?

 まるで枢機卿殿が白と言えば黒も白となり、黒と言えば白も黒となる!

 そんな馬鹿げた事を軽々しく言い放って信徒が付いてくると言うのか?!」

 兵站将軍、御尤もだ。

「ダキンドン王国は創世教の敵となっても宜しいのか?全ての税は教会が取り仕切り、ダキンドンの異教徒は飢えて死ぬ事となろうぞ!」

「ならば王国は全力を以て創世教の坊主どもを殺し尽くそう!隣国への理由なき戦争より、貴様ら邪教の皆殺しが先だ!」いいぞーやっちまえー平民はいい迷惑だ。


「将軍、我らは神には逆らえぬぞ」ぬ?やっぱこの王駄目か?

「王よ、仰せの通りです。しかし狂った教会は別です!まさか自分を王に推挙した教会の機嫌を取って、多くの民を餓死させるおつもりか?!」

 国王は何も言わない。もう終わりだよこの国。


「フン!解ったか愚かな兵卒よ!お前は最早将軍でも何もないわ!」

「…枢機卿殿の仰る通り、私は既に将軍ではない。

 王、いや。マツエルスの小倅よ、我が一族はダキンドン王国から離脱する!」

 おお、言っちゃった。広間の扉や窓から兵が飛び出し将軍を…守ったあ?

「このイカれた王命に疑問を持ち、狂った教会をブっ殺してやろうと思っている貴族は数多おる。もう終わりだよこの国!」将軍、おんなじ事考えてるよ!


「将軍。貴方と…貴方の家には歴代よく仕えてもらった。去るというなら去れ」

「王!この異端の首を刎ねろ!神が命じる!」

「枢機卿殿!そんな力は我が国には無いのだ!今内戦となれば、侵略戦争の前に我が国は亡びるのだ」あ、侵略って言っちゃったこの国王。

「然らば罷ります。今までの暴言、何卒お許し下さい。親愛なる、優しかったマツエルス殿下」

 将軍は跪き、深く頭を下げた。最後に忠誠心の欠片を見せたのだ。


******


 とある農村。うず高く積み上げられた芋、商人から売ってもらった米の袋、酒の樽。この村の人口約五百人が冬を越せる命綱だ。

「これより悪魔の毒たる芋と悪魔の麦、悪魔の水を焼き尽くす!」

 兵を率い、命綱たる荷を教会の私兵が囲み、彼らを指揮する神官が言い放った。悪魔はお前の方だろうが!

 村人は教会兵に遮られ、命の頼りに手が届かない。

「やめろ!」

「教会は税ばかり取って俺たちが買った物まで奪う気か!」

「それが神のする事か!」全くその通りだ。

「火を放て!」

 放った。農民が、弓を。

 脳天を撃ち抜かれて神官は倒れ、無様に泥の中に頭から突っ込んで死んだ。

「…悪魔はお前等だ」

「重い税の上に戦争で若い衆を奪って、更に芋や米まで奪う気か!」

「教会は敵だ!」

「教会の坊主共を殺せ!」

 野獣と化した農民は兵に襲い掛かった。反撃を予想していなかった教会兵は多勢に無勢で次々と農具の餌食になった。そして、村人も少なからぬ死者を出した。

 この日を境に、ダキンドン王国は擾乱に陥った。


 この一つの村の出来事が周囲に広まり、飢えに苦しむ農村も地方都市も、戦争に反対している各地の貴族も、普段横暴を働く教会を「先手必勝!」とばかりに襲撃し始めた。

 横暴を働かず、地元と仲良くしている普通の教会はむしろ炊き出しまでして飢餓救済に努めていおり、中には教会の畑を農民達が一緒に耕し共存している所まである。

 しかし暴力の熱狂はいずれ彼らをも巻き込むだろう。そうなれば一国の問題だけでは済まなくなり、平民対教会の大戦争に発展しかねない。

 実際、この世界では数百年前に汚職した教会と、それを咎めんとした民衆の大戦争が起こり、利益重視で教会と結託した王国が市民を大量虐殺した歴史があった。私の故郷でも同じ様な事があったものだ。


******


 教会内部でも「デマゴギーを排除せよ!」と非難するまともな司教と「デマゴギー様こそ現代の預言者!」と王国から横領した金のお零れにあずかり、少年少女を性奴隷にしている邪悪な司教達が反目しあっていた。

 なぜデマゴギー一派は芋米ブームを利用しようとせず、無駄に敵視するのか。

「創世教の経典には麦の恵みと書かれている!米など存在しない!ましてや地面の下に生える芋など悪魔の産物!」…さいでっか。


 実のところ、麦から作る酒即ちビールが教会の専売になっているので、それを脅かす芋と米、更にそこから作れる焼酎や日本酒との競争を恐れているだけに過ぎない。

 それなら焼酎や日本酒の生産を援助して、今までのスキームで課税すりゃいいじゃん?って思うんだけど、宗教家は頭が固いのか、経典にない作物を率先して栽培するのが怖いのか、排斥する事にしたみたいだ。


 反デマゴギー派、反戦貴族陣は、冬が近いため米の栽培を諦め、短期で収穫できる芋の栽培に着手した。冬を前に、多くの人のお腹を満たしてくれる芋が採れるだろう。

 芋の食べ方を広め、忌避感を薄めなければ。おまけに酒、特に人気の出そうな発泡ワインを有効活用するか。


******


 さて劣勢に傾くデマゴギー派には、王国から横流しされる金という武器がまだあるのだが…事態は流動的に変化していく。

 隣国侵略に反対する貴族達が、ガードナー辺境伯を中心に建白書を提出した。曰く


・王国は侵略戦争を断念し、食料を増産せよ

・貴重な食糧を敵視するデマゴギー13世の派閥は国の敵であり、その主張を明確に否定せよ

・マツエルス・ダキンドン国王はデマゴギー13世の行状及び、国内各地で起きた反乱を創世教会の総本山へ報告し、処断を伺うべき

・前3項を実践するまで連盟貴族はダキンドン王国への納税を停止する

・本建白書を無視した場合は、連盟貴族はダキンドン王国を離脱し新国家を樹立する


 …流動的なんてもんじゃない、独立運動だこれ。伊達に太陽が二つ廻ってないな!

 独立運動ならまだしも、まさか王国でもクーデターを起こして乗っ取るつもりなのかリベラ卿は?!

 そこまで面倒事を背負うとは思えないな。精々、独立した辺りで手を引くだろう。

 だが、リベラ卿率いる貴族連盟の出現で、王国は豊かな筈で飢える南と、寒冷な筈なのに豊かになる北とで、今までと逆の格差が生まれる。ダキンドン王国は、貧乏国へ転落する。


******


 貴族連盟の建白書は王都の平民に知られ…ではなく、連盟貴族の手の者によって流布され、多くの商人は王城を逃げ出した。

 様子見を決め込んだ貴族達も「冬は自領を守る」「混乱を収める」「死んだ婆ちゃんが生き返ったので会いに行く」と次々王都を去る。

 もう侵略戦争どころじゃない。


 そして、後に残されたのは行く先の無い市民、なおも王に取り入る貴族。物流は滞り、盗難が横行し、商人町に乞食が住み着き、王都の治安は著しく荒廃した。

 騒動の中で孤児が増え、孤児院の負担は増えた。それでも、もし敗北必至の戦争に突入した場合の悲劇と比べれば、余程ましだろう。


 そんな中、騒動の原因でもある創世教会から、細々と孤児院に配給が届く様になった。何とか子供が食べていく事が出来る量が、相当くたびれた法衣を纏った者達によって定期的に運び込まれる様になった。

 何故この擾乱の元凶たる教会が、今更孤児院を救済するのか?どうやら救援物資の一行は王国外から派遣されてきた様だ。

 この国の様子を見、必要な行動を起こそうと用意している一派が、教会の中にいてくれている。


******


「余は既に王ではないのだ…」ダメダメな王が晩餐で嘆く。ホントにダメダメだ。

「おーではないのかー」20を過ぎていそうだが、高価な服を幼児みたいに食べこぼしでべちょべちょにしているコイツが王子か。ホントに終わりだよこの国。

「父上、何を気弱な事を!王は威厳を以て敵に臨むべきです!」お?この美少女はマトモかな?

 鼻筋の通った気品のある顔立ちに、金髪縦ロールの「王女!」って感じを醸し出している。

「直ちに魔の森に攻め入り、敵国への軍道を築き、敵国と国内の反逆者どもに王の権威を示すのです!」あ、ダメだこの女。


 王子は元々はアホではなかったのだが、情勢不安定な王国の中にあって暗殺を恐れ、アホを演じるうちに本当のアホになってしまった。どこかのならず者国家の歴代主導者様みたいだな。名前は何だったか忘れた。本人も忘れているだろう。


 王女は王権相続の対象外の所為か、割と自由にしている。只、その所為か思い込みが激しそうだ。

 名前はオーテンバー・ダキンドン。オーティと周囲には軽く呼ばれている。言動は一見マトモでスタイル抜群のナイスバディ、眉目秀麗なのだが。

 思い込みの激しさで社交の場でも何度も失敗し、成人を過ぎた16歳になっても未だに婚約者もいない残念美女だ。貴族達は公の場でも軽蔑と侮辱を込めてオーティと呼ばれいる。


「策はあるのか?」あるわけねぇだろ?

「私に私に100人の騎士をお預け頂ければ、一月で一万の軍勢を送る道を完成させます!」待て。

 この王女、100人いれば100倍じゃない、10,000倍だ!二倍だぞ二倍!って考えてるだろ?算数苦手でしたってお詫びする格闘家かよ?!

「やって見せよ」やってみせちゃうの?!

「はっ!父君、雪解けとともに国王陛下に必ずや栄光を持ち帰ります!」コイツらアホばっか!!


 その夜。

(あの森の中には、この王国の者が見たこともない、全てが木と紙で作られた美しい城がある。

 そこは、体の芯から癒す湯があふれ、食べたことがない美味が食され、美しい音楽で迎えられる。住む人は皆子供で、優しく客を歓迎し、美しい歌声で持て成してくれる。

 私は、そんな彼らを従え、必ず父王の栄光を取り戻すのだ!ああん!城の主様、私を迎えて下さあいっ!)


 この駄目姫ちゃんは!!勝手に他人の棲み処を美化して一人で気持ちよくなってんじゃないよ!!

やっと登場しました、王国軍団の長、オーテンバー姫。キャラ図は次回掲載予定です。

次回王国軍団出陣、タイトル詐欺脱出です。

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「このネタっぽいのがわからん」

「毎度酷い名前だな」

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