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38.異世界の歌謡から 護児城の屋根の下

前回のあらすじ:あの回あたりは6兄弟勢ぞろいとか自爆攻撃とか、イベント目白押し感に夢中でした当時。

29話にレンドリー氏、30話に眼鏡っ子魔導士のマギカちゃんのキャラ図を追記しました。


 また、一つの未来に向けて輝く命が産声を上げた。

 収穫の季節…ではなく冬麦を植える秋に、去年の冬に宿った命が今次々と生まれてきている。正にベビーブームだ。

 ステラ肝煎りの性教育のお蔭か妊娠の件数は激減したが、それでも激情を抑えきれなかった男女が妊娠を報告して来ている。


 挙式した夫婦は三之丸に続々新築した屋敷に移り住む…と思いきや。

「あたし、子供が大きくなったら、お店を開きたいの」と、今のところハリボテの商店街に出店を希望する夫婦が多かった。ある妻は農作業帰りの働き手に軽食を提供したい、ある妻はショッピングや鉄道で遠出する時のためのおしゃれなドレスを売りたい。夫達は妻の夢を叶えたいと願い出した。


 みんな、大きくなったなあ。だがそれだけじゃ駄目だ。


「ごはんはね、おうちで作って食べた方が安いよ?お休みの前の夜だけのお店ならいいかな?外から来る商人さんなら来てくれるね!

 お酒がどれだけ買えるかはおやかたさまに聞いてね?」と城内の地図を描き、家と畑を往復する男衆、商人の動き等を線に描き、仕入れの金と売れるであろう金をチャチャチャっと計算するヤミー。スゲェ。

 でも何か語り口が小さい頃のまんまなのが。

 おなかを大きくした妻達は真剣に聞いている。


「あなたミシン出来るよね。じゃあ、ドレスを月何着仕立て上げられるか、布と糸にいくら掛るか計算して。それと、おしゃれ着を着たい、買いたい子がどれだけいるか調べて。それでお金が儲かるならやってみたらいいわ。

 何しろお客さんは今は城内であんた達入れて100人位しかいないのよ。

 外の商人に売るだけの布は限りがあるし…2年後位なら採算取れ始めるかも」

 出店に当たってアドバイスするオーリー。的確だ。衣装組の母達も片腕で子を抱き、片腕で計算を始めている。


*******


 冬を前に、年内の商売を最後まで行おうとマテオ商会が大麦や香辛料、干し魚を運び込む。そして城の岩塩、布、豆、酒をパレットに積み上げ、差額の貨幣を城に払う。

 特に、海の無いガードナー辺境領では岩塩は貴重品で高額で売れる。魔物の糸から織られる布も高級品、酒も特にスパークリングワインと3年物のウィスキーも大人気だ。

 私としては日本酒を推したいのだが、まだ需要が少ないらしい。漸くスッキリした、吟醸香も華やかに香る純米吟醸酒が出来たというのに、無念だ!

「レンドリー様は樽で買って頂いていますよ」友よ!

「なんでもお子様を寝かしつけた後にご夫婦で飲まれているとか。この城での事を思い出されているのかも知れませんね?」有難いなあ。また来て欲しい。

「奥方様はスパークリングワインがお好みとか」やっぱそうかぁ。


 城の酒も、我が一押しの日本酒を筆頭に種類が豊富になった。

 先ずは惣構え南方、南之院に隣接する酒蔵が醸す純米吟醸「子守歌」。小さい子供を寝かしつけた後に飲んでいるので、自然とそういう名前になった。

 同時に、「子供を放っぽらかして飲んでんじゃねえ!」という戒めでもあったりする。マテオさんによると、騎士団を中心に愛好家が居る様だ。


 次はワイン。

 やはり一番人気はピノ・ノワールから醸されるスパークリングワイン「シャトー・ティーグ(虎)」。本当はシャトーは玄武門に近いのだが、名前の通りの良さを買って白虎から採った。

 このワインは難産だった。熟成による炭酸ガス発生に耐える瓶の原材料、珪砂も北方鉱山から産出され、ワイナリーのあたりから採れるソーダ砂や石灰石と混ぜて

良質なガラスが出来る様になった。

 今やフルートグラスとセットでド偉い高級品として売れている。どうやら王都にも僅かながら売り出されているが、今の所はリベラ卿の「戦略物質」として管理されているそうだ。王都でのシンパ獲得のための贈答品といったところか?

 赤ワインも負けていない。カベルネ・ソービニョンから生み出されるワインは、王国の葡萄より香りの良いものとして好まれ始めている。

 エチケットはスカートの裾を上げ、葡萄を踏むステラの絵。コマッツェに頼んで原版を彫り出して貰ったら、ちゃっかりムジカも後ろに描いてある。後で二人に知られて真っ赤になって叩かれた。スカートの裾を上げるって煽情的な絵なんだよね。だがギリギリ脚は描いていない。このエチケットのお蔭もあってか「ティーグ・ルージュ(赤)」は好評発売中だ。


 ビールも、上面発酵のエール、酵母が沈殿する下面発酵のラガー、共に安定して生産できる様になった。これは成人に近い男子が好んで飲んでいる。外の農村では、成人が近くなるとワインやエール等は普通に飲まれている。下手に水を飲むより安全だという衛生事情もあるが、この地域の人は私なんかより肝臓が強い。日本人は酒に弱い種族なんですよ。「水みたいなもんじゃろ」とはアンビー様のお言葉だ。

 ブリュワリーには空間振動制止魔法で造った氷室を設け、冷たいビールが出荷できる様にしていて、夏の暑さの下、畑仕事帰りの男子には「うんめぇえ~~~!!」と大好評だ。


 そしてそのアンビー様肝煎りの、ビール(の様なウオッシュという酸っぱいモノ)を蒸留し熟成させる、ウィスキー。目下最長で5年物だが、3年物から出荷を開始した。ただ余りの度数(40度)にイマイチの人気ながら、王国内に少数いるドワーフの目に留まったらしい。それを狙って私は樽にアンビーを模した焼き印を押し、「マダムアンビー」と銘打って売り出した。

 え?そりゃ「あんたぁ!ぶちまわす!」って物凄く抵抗されましたよ?時々怖いよドワーフ弁、ぶたれて首が反対側まで回るのか?直○地獄拳か?千○真一か?

 でも「故郷に錦を飾る最初の一手だ」と言い聞かせましたとも。白い樽に焼きいれられた我が愛しい妻の笑顔が、やがてドワーフの女王の肖像となるのだ。マジで。

 なお瓶は…ドワーフには量が足りないらしい。人間に愛好家が広まったら売り出そう、可愛い妻の肖像画と共に。「ぶちまわすー!」


*******


 これら我が城の銘酒により城内に貨幣が入り、年長者を中心に、労働に応じて貨幣が配られる様になった。そして、彼らを目当てに、更にマテオ商会の人々を目当てに、「商売の訓練」と称して、飲食店がスタートした。

 商売を希望する妊婦と、まだ結婚も妊娠もしていない年長の少女が相談し、店を企画する。商売モデルが成立するかの実験だ。

 昼食、軽食、飲み屋。衛生観念を広めるため、畑や駅と商店街との間に、かつて天守落成の際三之丸に掘った温泉を曳いて公衆浴場を建てた。これも開業を希望した夫婦に未婚のお世話組がサポートして運営する事になった。

 温泉は清潔にしないとレジオネラ菌が発生して命を奪うから、城の目が届かない商店街では清掃や検査を解り易く書き記さなければ。


 あれよあれよという間に、店が開業した。後数週間で冬になると言うのに、子供達の情熱が開店に漕ぎつけさせたのだ。

 荷物を出し入れする商人が、麦畑を行き来する少年達が、ワイン蔵で新酒を運び出す少年少女達が、温泉で温まり体を清め、店で腹を満たし、酒を飲んで舌鼓を打ち商品の完売を確信する。


 店が立ち並ぶ大通りの両脇に石畳を敷き、そこを歩行者用の歩道としている。歩道の端に10m毎に鉄の柱を立て、その上端にガラスで出来た灯篭を置く。その中には魔石があり、魔力を送ると光る仕掛けにしてある。


 この地を訪れた商人達は、帰還を前に、明るく照らし出された商店街の景色に、この世ならざる夢心地を感じた。店の暖簾をくぐり、少女達の振るまう上等な酒を飲み、畑帰りの少年達から作物の種類や出来、味の感想を聞き、温泉で温まり、辻に建つ櫓の聳える商店、今は見本市と宿場になっている建屋で休んだ。

 そして、明日には買い入れた商品を列車に載せて南へ帰る。


 二之丸の月見櫓からそんな景色を眺めつつ一献傾ける。

 妻達だけでなく、開店した店の評判を話に多くの子も集まっている。

「御屋形様もご満悦じゃろ?」

「ああ」

「すごいね。小さかったあの子達が、街を作ったのよ。みんなお店をやってる。」

「こんな場所で、こんな素晴らしい営みが生まれるとは、信じられませんわ。とても素敵。」

「あたしたちの里なんかじゃぁ、こうは行かないわぁ?ロリーもしっぽりやってるかしらぁ?」「やめい」

「御屋形様?こんな素敵な街を歌った歌も知ってるんでしょ?教えてくれないかな?」

 そうだな。故郷の都会の下に住む若い男女が、何もなくても良い、二人の夢の街。そんな風に歌った歌があったのでギターで一曲披露した。

 私は若くはないが、幸せ者だ。


 翌日、マテオさん達商人は、他では買えない商品を列車に載せ、再会を誓って南へ帰って行った。「春になったら、また酒を売って下さいね!」売る用だけじゃなくて自分用も含まれてるな、きっと。


*******


 商人が去ると、三之丸の店は喧噪を潜めた。しかし、畑仕事を終えた年長の男は小遣い片手に酒を飲みにやって来る。年長の殆どは婚約し、身重の妻が待つ自宅へダッシュしているので、店に来るのはあぶれ者だ。


「慎重なだけです!アグリとは違います!」ちょっと出来上がりつつあるな、コマッツェ。

「まあ、彼は、相手が悪かった。ミナトナ達は、あれは凶器だ」経験者は語る、私。

「でもちょっと考え無し過ぎるんじゃないか?俺たちはまだ御屋形様に食わせてもらってる身分だぞ?自分の家だって御屋形様からもらっただけで、修理も立て直しも出来ないじゃないか」堅実なご意見のダン。


 何故か目の前に男三人。二之丸御殿の夕食を欠席して城下で飲んでる。勿論、店をやってるのは既婚の男子だ。料理組で密接だった女と結婚し、彼女は店の奥の住居でお腹の中の子供と寛いでいる。

 亭主は…ダンのご意見に委縮している。

 2人の少女が、将来自分の店を持つための勉強と、妊婦の世話のため手伝っている。客は他のあぶれ者が数人。


「お前は奥さんと子供を守って、この店をしっかりやりゃいいんだよ。

 おっと、もうお前の方が先輩か、突っ走り始めちまったからな、ははは。」

 なんか相手を立てるなあダン。こういうところが後輩から好かれるんだろな。

「走り始めるかあ。俺もそうした方がいいんだろか?」

「お前だって絵にしろ仕事のやり方を考えるにしろ、鉄道だって作り上げたじゃないか。お前も、家を建てて来年商人に新しい物を売ってやれば、自分の力でムジカをお迎え出来るじゃないか!」

「むむむ!むぇっ?!」図星を刺されたコマッツェが赤面する。

 私とダンがニヤニヤ眺める、店の奥で亭主もニヤニヤ眺めている。その奥には妻までニヤニヤ。


「…そうだよ。俺はムジカが好きだ、大好きだ!」「「「おおー!」」」

 男らしいぞコマッツェ!手伝いの少女2人が小声で「キャ~」って言った。

 他の席のあぶれ組は「チッ!」と舌打ちしてた。まあそう腐るな。

「今彼女は恋の歌を色々作っている。

 あんだけ結婚だ出産だ、店を持って新生活だってみんなの暮らしが変わってるんだ。彼女だって今までとは違ってくるさ。

 俺は、そんな彼女にどうしたらいいのか分からなくなっちまってるんだ。ダンだってそうだろ?!」おお延焼。

「俺はまだ、腹は決まってないんだ」

「ええ?お前ヤミーちゃんどうすんだよ?!」

「俺はまだ強くない」

「待てい!こないだも大型クロスボウで角熊倒しただろうが!そんなの王国の騎士でも出来ないぞ?」何気に怪物を育ててしまったなあ私。城のためだ、仕方ない。

「それも御屋形様の武器があってだよ。俺は、またこの手でヤミーを守ってやれないんだ。俺が覚悟を決めるのは、強くなってからだ」

「そん時誰かに取られてたらどうすんだよ?」

「敵が出てきたら倒す」「それカッコ悪くないか?」「そ、そうなのか?!」

 多分大丈夫だ、お前を敵に回す度胸のあるヤツはこの城にはいない。だけど面白いから黙っておこう。ダンよ、許せ。


「で、コマッツェはどうしたいんだ?」

「俺は自分が何を出来るのか解らない」

「そっちこそ待てい!お前城の暮らしにどんだけ役立ってると思ってんだ?!」

「こりゃホント給料を考えないといけないな。ダンもコマッツェも、2~3人奥さん貰っても困らない位の働きはしてるんだぞ」

「「御屋形様と一緒にすんなよ!」」え?

「俺はヤミーだけ大切にしたいんだ」

「俺だってムジカと二人で暮らしたい」

「ソウデスカ、スミマセンー」

「御屋形様は、特別だよ…」


 でもコマッツェはオーリーにも狙われてるんじゃないか?

「最近行事の度に服飾組に呼ばれてオーリーに捕まるんだけど、その都度ムジカの事が気になるんだ」それで今日はちょっと出来上がっていたのか。

「オーリーも真面目で頑張り屋なんだけど、ちょっと怖いんだよね…」

「解る!あの子、なんか狼に目が似てるんだよ」店のあちこちで噴き出す声が聞こえた?

「ヒデェ!それ絶対他で言うなよ?亭主も女将も、みんなもだぞ!」一応クギ刺しといたからね?!

「なんか、もっとしっかり、俺はムジカと一緒になるんだ!って、誓いたいんだ」

「じゃあ婚約すりゃいいじゃねえか」

「お前!もしムジカが俺の事好きでも何でもなかったら」

「そうなら早く分かった方がよくねぇか?グズグズするよりマシだろ。もしそうだったらオーリーと結婚しちまえ、皆安心するぞ?はっはっは!」

「他人事だと思いやがって~」

 なんか、夜泣きの時あやしていた小さな子供達が、今こうして恋や結婚、将来の暮らしについて飲んで話している。毎度の事ながら、感慨深いし、嬉しい。

 よし、ちょっとサービスだ。


「ダンの言う通りだ。こういう事は思い立ったが吉日だ。でも女の子は、男からの大切な言葉を、最高の時と場所で欲しがるものだ。」

 亭主がウンウンとうなずいている。それで一気に事を成したのか。ちょっと腹立つ。おっと他人の事は言えないな。

「ムジカが好きな場所、一人で居る場所。そこで、彼女が好きそうな婚約指輪を贈るんだ。どうだ?」店の奥から「はぁ~ん」って何か興奮した声が聞こえる。

「わかった、やってみる!」

「よし!今日は飲め!」お酒は適度に。


******


 ムジカは時折、人のいない本丸の能舞台でオルガンを弾いては採譜し、私の歌う曲を編曲したり、作曲にも挑んでいる。何曲かは子守歌として幼児たちを怖い夢から救ったりしている。そこで、コマッツェは意を決し、指輪を渡した。

 無事、二人の恋は成就した。

 コマッツェに遅れて赤ら顔で極楽橋を渡って来たムジカに、御殿を離れて家を持ちたいか聞いたところ、

「私は小さい子からどんな歌が聞きたいか、教えてもらう仕事があります」

 と断られた。子供達のいる御殿を離れないつもりだ。

「彼女らしいや」とコマッツェ。二人の屋根の下は当分は多くの子供達と一緒だ。


******* 


 その後、私の教えた歌を細工した歌がムジカの演奏で流行り出した。一番をムジカが、二番をコマッツェが、三番を二人で歌うラブソングは好評の内に迎えられ、食事の支度中に、機織り仕事中に、野良仕事中に、歌われる様になった。独身男が行く酒場では手伝いの少女が歌い、「ちょっとそれやめてくれよ」と止められるのが定番だとか。「あらいいじゃない、ちょっとサービスするからさ」と歌い続けられると、「ああこいつ俺に気があるな」と思われるとか違うとか。


 やがて雪が降る。三之丸の家々に灯る灯りの中、母親のおなかの中で、赤ちゃんは大きく育っていく。

 護児城の屋根の下、若い君達に幸せあれ。


 

 どのあたりまでがルールに引っかかるのか。チャレンジ週間です。「異世界」というのは、彼らから見ての話。


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「このネタっぽいのがわからん」

「『ほろ酔ひ人生』の方が話の内容に合ってない?」

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