35.鉄道を動かす人たち
前回のあらすじ:テレビCMで、鎧武者が剣戟を交えるシーンと佐藤允の「エメラリーダさまー!」しか印象に残らず、SFメカ映画だと思ってなかった当時。
出城から報せが届く。イケメン騎士様、レンドリー氏から
「護児城に必要と思われる衣服、薬草、香辛料、食器、金属製の調理器具を持った商人が交易を希望している。そちらも布、紙、乾燥野菜等売れるものがあるだろう。交易を試してはどうか」と書かれた書状だ。
この城は基本自給自足を理想としたいが、生産能力は、千人以上の規模を目指す集落としては未熟だ。特に陶器や金属器は不足している。私の空間魔法で工面してもいいが、ある程度信頼できる外部の人との交流はあった方が良い。
いずれここから外の世界を目指したいと思う子も出るだろうし、そうあって欲しい。その際の縁にもなって欲しい。
「歓迎したい、城からの賞品は魔物の革、紙、布、発泡酒…」と返答を出城へ託す。
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商人たちが来たのはその1ケ月後だった。出城で休息した後、数日掛けて商品を鉄道に積み替え、花街道線を快適に走って来た。まだ何とかなるけど、庭園鉄道みたいな15インチ鉄道の限界を、予測より遥かに早く感じる事となった。それだけ辺境伯の支援は大きかったという事だ。せめて荷物の積み替えは迅速にしたい。パレットを渡して、クレーンで手早く列車に載せるか。
一行を三之丸大手で迎え、随行する音楽隊と沿道の住民で歓迎する。魔の森と聞いて襲撃を恐れていた商人一行は拍子抜けした様に茫然と本丸御殿に到着し、大広間で対面する。
「こんな盛大な歓迎を受けて、恐縮至極に存じます。リベラ様の辺境伯より紹介頂きました、しがない行商人のマテオと申し」と若い商人は微妙な表情で挨拶し…
「ああぁ???!!!」
知ってた。「あなたは、あのボーコック王国で!」
「マテオさんこそ、辺境伯お墨付きの商人だったとは!とりあえずビールで?」
暫く顔を見つめて爆笑した私達は、商談を後に乾杯するのであった。
早速ガラス製のジョッキを姐さん組が運んで来ると、多少の面識があった一行は更に驚いた。彼女らは去り際に私に手を組んだりもたれかかったりして去り、商人達は何かを察した。間違ってないけどさあ。
歓談となり、思い出話に花を咲かせ…と思いきや飲み会の雰囲気を利用してマテオさんはこの城の情報にさりげなく食いついて来た。流石だ。城の秘密を狙ってグイグイ来るマテオさん達にプロの根性を見た。おなかいたい。
「ここは魔物に囲まれた、捨て子達の城です。作り出す物も未熟なので、色々な品を提供いただければ幸いです。大した事は出来ませんが、せめて出来る事で歓迎したいと思います」
「たかだか旅商人の身分でこんな歓迎を受けたのは生まれて初めてですよ!!」
と若い商人は、嬉しいのか困っているのか微妙な表情で返した。何か少年のあどけなさが残っているのか、配慮は深いが根は正直で真直ぐでいい人だな。
「やっぱり歓迎とかそんなもんですか?」
「やっぱりって…何でまた商人如きにあんなパレードをしたんですか?私達は王様や領主様じゃないですよ?」
「そりゃこんな所に籠ってる子供達だから、たまの来客は歓迎したいってもんですよ」
「はあ」ちょっとやりすぎたかな?
「どんな魔境かと思ったら、とんでもないユートピアに来てしまったのかも知れない」と庭の向こうに聳える天守を仰いで、なんとも言えない顔をしていた。
「ガー…リベラ卿に妬まれなきゃいいんですが」
「それはあるかもしれませんね。しかし、何しろこの歓待すら、戦いの第一歩ですからね」
そうであった。商人と城の接触は、王国を侵略戦争から守る戦略の、一手にすぎないのだ。
いきなり歓談が始まってしまったが、その席には遠路遥々輸送されてきた商品が並んでいた。彼らの持ってきた商品は、確かにこの城に不足している物だった。衣服もこの城でも生産し始めているが、消耗の激しい、私の複写能力で生産している農作業着を始め、陶器の食器類、鍋等の金物、領都でも高価な品物が運ばれてきた。
レンドリー氏、あの数日の歓待だけでこの森に不足している物、しかも私の空間複写能力で不自然に増やされた物までも見抜いてきたか。中々の慧眼だ。
「では当方から提供できる産物ですが…まずはご賞味頂けませんか?」
乾杯のビールをウェルカムドリンクとして、酒と料理で持て成す。発泡ワインや米の酒にも驚かれ、お品書きを書いた色紙も興味を引いた。
「レンドリー様の話を聞いた時は、こんな森の奥にこんな物があるとは信じられませんでした」
「でも、彼を信じて危険な旅をしてこられたのでしょう?」
「仰る通りです。リベラ卿もレンドリー様も、辺境伯領に住む者にとっては救いの神ですから」
さっきからマテオさんはガードナーの名を口にせず、悪徳領主を成敗し一族を殺し尽くしたリベラ卿を親しくファーストネームで呼んでいる。そして、私の傍にいるウェーステには、あえて関心を寄せていない。顔は知らなくても、エルフ特有の長い耳と、前辺境伯の娘のハーフエルフ死亡の報を知っていれば、色々察するというものか?
何と言うか、若いながらもレンドリー氏と同じ様な気概を感じる。成程、彼が信頼して寄こしてくれた人だ。
ただ、しきりに米の酒を「これは未知の味だ!魚や野菜の料理に合う、素晴らしい!」と随分酔っていた。緊張が解けたのだろう。
「この酒が王国に入ったら…うん?どうだろうか。魚の流通が少ないから、急激な商売にはならないか?しかしこの美味は相当な…食卓に並ぶ果実ならば…泡のワインは文句なく王や公爵を夢中にする…」
この若い商人は酔い始めても、品定めには余念がない様だ。
その後本丸の温泉を満喫頂き…温泉から「おお!おおー!」みたいな叫び声がしたのは気のせいか?翌朝は快適にお目覚め頂いた様だ。良い酒は余程深酒をしなければ二日酔はしない。
昨晩、マテオに商品を入れ替わり立ち代わり披露してくれた少年少女達と会話し、私は朝食後にマテオに提案した。
「今回に限らず、今後ともお持ち頂いた商品を城内でお見せいただく場に、店を用意したいと思いますが如何でしょう?」
「初めて訪れた商人に店を与えてくれるのですか?」
「田舎ですので、みんな店という物にあこがれるのです」
早速三之丸商店街の交差点に立つ、二階建てで、交差点に面した角に三階目の櫓を備えた一際大きい店に案内した。一回は障子に紙、ではなくガラスを張り店内が見える様にし、ショーウィンドウの様に商品を展示する場所を設けている。
マテオさん、これにも驚き
「ここで外から商品が見えるんですか…盗まれたり奪われたり、の心配はないか。」何かその反応が嬉しい。
「売れ筋の商品や自信作をここに飾り付け、お客様を引き付ける事が出来る様にしました」
「凄い!こんな店を持ってみたかった!リベラ様を信じてよかった…」と目に涙。
「マテオさんはそれなりのお店を(持ってないの知ってるけど)お持ちでは?」とわざとらしく聞く。
「御存じとは思いますが」見透かされてたか。
「私は店を持つ程の者ではありません。あまり大手の商会が行かない小さな村を回って小商いをする程度の身分です。
ここに来たのも、そんな遠出を厭わない…というか遠出しないとやっていけない自分にリベラ卿がお声掛けして頂いた、という事です。
まさか、こんな地でこんな立派な店を戴けるとは…」
マテオさん、苦労人なんだなあ。地方巡回か。リベラ卿もそんな苦労性と地域貢献を買っての、この地への紹介だったんだろうなあ。せめて色々儲けて帰って欲しいし、また来て欲しい。
マテオ商会の商品と城の産物を交換し、それでも若く誠実な商人は城の産物に高値をつけてくれ、不足分を王国の通貨で支払ってくれた。
「払える限りは払いましたが、なお不足と思われる分は次回持ってくる商品を通貨で買って頂く事で宜しいでしょうか?逆にもっと持ち出しが増えるかも知れませんが」
「それは結構ですが、領都や王国内の相場より高めじゃないですか?」
「そんな事ありません!この城の果物、布、そして紙!更には米の酒!!泡のワイン!!!これは素晴らしいですよ!もし私の想定より高く売れたら、その分商品を融通します!」うを、興奮してる。
「そんなの適当に裁いて利益にすれば宜しいのでは?」とカマかけると…
「タイムさん。レンドリー様の歓迎の時、麦と握手の紋章を掲げて収穫の歌を奏でた程情報を掴んでいる貴方なら、この素晴らしい産物が王国内でどんな値段で取引されるか、すぐ解るでしょう」その話も聞いたんだ。結構説明を受けてるな。
「私の査定が失敗して損したらそれは私の責任です。しかし高値で売れると思った物を買い叩いたら、私は信用を失います。高く売れる、そう思ったからこの値を付けたんです」
「う~ん、商人としての信用を大事にしたって事ですね?」
「信用こそ商売の基礎です。ただ、私の想像以上に高値で売れたら~…それは次回以降の取引に反映させて頂きますよ?」
ああ、商人らしい笑顔になった。がんばって高く売って、ここに還元してね。
異世界では商人って王や貴族なんかより信用できるモノなんだなあ。最悪なのは教会か。しかし結局は人による。コンクラベ枢機卿やリベラ卿の様に徳の高い人を見ると本当にそう思う。マテオさんも信用できる人の仲間入りだ。
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城の産物と交換した物以外の生活雑貨、マテオさんの運んできた品物が櫓の商店に並び、城内の子供達が物珍し気に集まる。城で購入した商品は子供達に支給されるが、ここに並ぶのは生活必需品ではないドレス、装飾陶器、服飾品や洒落た生活雑貨、そして高価な人形達だ。
私はマテオさんから受け取った金貨を、売れた商品を作った係の子と、不公平が無い様商品以外の仕事をした防衛組や子守り組、料理組の子の分も懸案して配分した。
子供達は、見慣れない通貨を手に、しかし勉強した算数を駆使して、初めての買い物に目を輝かせて何を買うか選んでいる。この地に、初めて貨幣経済が芽生えた。
と言っても熱い視線を送っているのは女の子。ミッシと手を繋いだステラが私にも見せたことのないキラキラした瞳で商品をに食い入ってる。ステラェ…ミッシも「おひめさま!おひめさまー!」とドレスを見てはしゃいでる。
男子は「剣とか鎧とかないのかよ」「何言ってんだ。超弩弓より強い武器なんてあんのかよ」とがっかりしている。
うん、男も欲しがる何かを考えて持ってきてもらおう。鎧騎士やらドラゴンの人形とか手の届く範囲の魔道具とか…なんか厨二病が好きそうなアイテムだな。いや、男は死ぬまで厨二病なのだ。
「そんなんあたしが作っちゃるでー」ってアンビーが言いそうだ。
そんな男性陣を無視するかの様にコマッツェが一品一品のスケッチを取っている。ムジカにプレセントする、って訳でもなさそうだ、絵描きの性分だなあれは。何て思ってたら高価な首飾りをしっかり買っていた。それを見たダンも後に続いた。モテる男はこれだから。
マテオさん一行にとって実り多く刺激も多かった日々が過ぎ、彼らは城を後にした。「また来ますよ~」と名残り惜しそうにしていたなあ。
帰路の苦心が少なくなる様に、出城からと魔の森の外を繋ぐ山道を、少々改修した。道が崩れるとか幅が狭くて馬車が滑落する危険とかはなくなるだろう。あまり行きやすくすると、子供を捨てる親も増えるだろうし、そうならない程度にしておいた。
いっそ地下に一直線でブチ抜く秘密のトンネルでも作ろうかな?
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マテオ商会の来訪は、子供達の暮らしに大きな変化をもたらした。
「いらっしゃいませ~」「どれすをくださいな?」
二之丸御殿で、お店屋さんごっごが大流行した。しかも使われているのは本物の王国銅貨だ。人形の服を銅貨を払って交換している。
「私も、辺境伯の街に行ったら色々買いたいな、なんてちょっと思うよ?」
「ちょっとなんて言わないで。私が一杯買ってあげるよ?」
「本当~?!」珍しくステラがご機嫌だ。
「あたしゃ宝飾品を見てみたいでぇ?」
「楽器なんてないでしょうか?」
「王都のドレスってどんなのかしら?」
「ごちそーたべたーい」
この城で貨幣経済に食いついたのは、当然ながら女性陣だった。
三之丸でも異変が起きた。農作業で行き来する子供達が、一度商売が行われた商店やその周辺の空き家となっている建物を、何かを考えながら立ち止まって眺めているのだ。みんな、「店」というものに憧れを感じ始めたのだ。
私は畑から帰って来る子達を呼び止め、無人の商店街でどんな店を作りたいか聞いた。
「この間みたいな、ドレスが並んだお店がいいなあ!」
「綺麗なお皿がいっぱいあって、私のおうちは青い縁のお皿やカップを揃えるの!」
「お人形さんと、おうちと、お人形さんのドレスがいっぱいあったらいいなあ」
夢があっていい。その夢を実現して欲しい。
「でもみんなアンビーちゃんが作ってくれるじゃないの?」
「そっか~」しょげる少女。
「待て待て!アンビー一人で皆の分全部は作れないぞ?外から買って、色んな皿やカップを揃える時もいつか来る。だから今みんが言った夢はいつか本当にしなきゃいけないんだ!」
「そうなの‥そうよね!」しょげていた子の瞳が、夢の光を再び灯した。
この日から、畑仕事帰りに商店街で女の子達が夢を語るのが流行った。
「ごちそーはねー、ここの畳をどけてー、二階もテーブルを置いてねー」夜の二之丸御殿でヤミーがニッコニッコしながら夢の間取図を描いている。
「窓からやぐらのあるお店が見えるのー。お料理はお菓子だけをここで造ってねー」
…この間取図、城の食堂を小規模に縮小している。来客スペースに座席が、奥には氷室も描かれ、その横には収容人数や貯蔵可能材料、調理に必要な分量等の計算が書かれている!
「おきゃくさんが夕方20人きたら、おこずかいもらえそうよ~?」
これ夢とかいうレベルじゃねー!損益分岐点計算してるー!!ヤミーすげー!
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恐るべき、子供達の貨幣経済への夢と憧れと損益計算を実現すべく、私は出城から魔の森入り口まで地下鉄の延伸を計画し、「そいやっ!」と作った。森の縁、とは言え森に少し入って道が細くなり、人々が引き返す限界より先のあたりに「この先危険」と書いた札を建て、避難小屋みたいな粗末な小屋を建てた。
その裏に一見薪小屋に見える地下への入り口を穿ち、馬車が入れるスロープの入り口にした。
城へ向かう馬車はパレットに荷物を置き縄で縛り、地下駅でパレットを持ち上げるクレーンによって荷物は速やかに鉄道に載せ替えられ、固定される。
そして出発だ。
見附城の駅も地下化され、門の開け閉めが無くなり出発速度が速くなったため、ウェーステが来た時より脱出速度が向上した。
運行数が増え、増産された魔導機関車が今日も魔の森の南北を走る。
城内でも、二之丸御殿から三之丸の紙工場、布工場、鍛冶場へ、惣構えの各種農地へ、北のワイナリーへ南の酒蔵へ向かう線路と駅が私の手で「そいやっ」と整備され、魔の森は鉄道王国へ突き進み始めた。そろそろ15インチの庭園鉄道じゃなくて、せめて倍の軌条を持つ軽便鉄道にしないとマズいなあ。かといってあんまり大きくなっても運行システムの安全をどこまで確保できるか…悩ましい。
商人が持ち込んだ商品と、それを求める子供達が、増便して往復し始めた鉄道を動かしているのだ。脳内で巨大メカ怪獣が起動する様な音楽が響く中、新しい列車が出城に向かって出発した。
なんか10話足らずで終わりそうな章タイトル後半ですが、果たして王国軍団が登場するのはいつの日か?第一部の天守より早いか遅いか?それともタダのネタか?
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