29.魔の森の城宴会5日前
前回のあらすじ:嘘か誠か知らないけど、こっちのサブタイだったらここまでネタにならなかったのに。石堂御大も「最終回と知っていれば」と嘆いておられた。
さて城の暮らしも第一部最終決戦に突入です。
10/1:第20話に出城、見附城のイメージ図を載せました。
10/10:本話末尾にレンドリー氏のキャラ図を載せました。
護児城に5回目の春が来た。
「「「…御恵みに寄りて与えられたるこの糧が我らの血肉とならん事を」」」
皆の祈りが終わるのを待って、「では、頂きます!」「「「頂きます!!!」」」
今朝も元気な声が御殿一杯に響く。
「ヤミーちゃんのごはん、今日もおいしーね!」
「えっへっへー。ミッちゃんもよ~く食べて大きくなるんだぞー!」
この城に来た時は1歳、しかも相当小さかったミッシも6歳。料理長となって年上から年下の子までを動かす食いしん坊のヤミーも12歳。何となく大人っぽくなった気が…あんまりしないかな?あれだ、おばあちゃんになってもそのまんまな感じの人かもね。
「ミッシちゃんも命の祭礼が終わったら、学校に行くのよね」
「うん!もうお話も教科書も読めるし、足し算引き算も出来るよ!」
「ミッシちゃんはとっても頭いいし、学校の勉強もすぐ終わっちゃうかもね!」
ミッシの頭を撫でる私の妻、ステラも16歳。去年挙式してグっと大人っぽさが増した。
「先生のお蔭かしらね?」
「ミッシちゃんの頭がいいのです。いえ、このお城の子供達は、皆さん頭が良くて、それに何かを必死にやりたがっています。その力が、この1年だけでも凄く皆さんの暮らしをとても向上させているのだと思います」
ステラも美人だが、更に美人な、エルフの血を引いた元辺境伯令嬢、いや、今では二之丸学校の校長、ウェーステ先生が、光があふれる様な笑顔で答えた。
「ほわー」その美貌に男子も女子もボーっとしてしまう。
強い魔力を持つウェーステが城に来て、その魔力に引き寄せられた魔物の大群と子供達の総力戦の結果、多くの魔物は子供達のお腹を満たす肉となり、暮らしに役立つ皮となり、寒さを凌ぐ毛皮となり、また便利な魔道具を動かす魔石となってくれた。
いくつかの素材を、あの嫌ァ~な東の国を除く周辺の村へ持ち込み換金し、城では取れない魚や食器類に替えたりもして来た。
しかし生活必需品の大半は城内で自給自足出来る様、焼き物窯やガラス工房、皮革工場、味噌蔵、醤油蔵まで建てて生活は充実していった。
更に。
「きりーつ!きょーつけ!れい!」「「「先生ー、おはようごさいまーす!」」」
「みなさん、おはようございます!」
二之丸西側、馬出門の北に立てた、偽洋風三階建ての学校の運営も軌道に乗り始めて来た。
城内では、4歳児までの幼児は終日二之丸御殿で世話当番の年長組、お姉ちゃん達と遊んで、字や絵を描いたり、お話や絵本を読んで貰い、歌の練習をして過ごす。
4、5歳になると、同じ御殿内だが、教科書を使って読み書き、足し算引き算を学ぶ。
農繁期には収穫の仕事の内、子供でも出来る仕事を、年上の指導の元手伝う。
そして、6~10歳が二之丸学校に城内の路面電車に乗って移動し、ウェーステを校長先生とし、日本でいう小学校の教育を学ぶ。
ウェーステは貴族としては冷遇されていたものの、貴族としての一通りの教育は施されており、読み書きや計算、この王国の歴史や作法を教えるには十分な知識があった。そして何より優しく、子供達へ丁寧に接してくれる。教師にはピッタリだった。醜い心の大人に囲まれていたのに不思議なのだが…
「幼い頃からクッコやモエが私を案じて尽くしてくれました。もし私の心が歪んでいないのなら、それは二人の友情の賜物です」歪んでいないどころか、尊い程に美しい心だ。クッコもモエも、同じく美しい心の持ち主だ。
教師は、年長の少年少女達が防衛、農作業、炊事、掃除洗濯の合間を縫って持ち回りで担当した。日常の仕事の際に年下の子供に命令を飛ばす要領で、中々難しい問題を手際よく教えていた。年長も増えて来た。そろそろ成人が近い子もいる。
ダンとコマッツェ、ジョーやムジカだけじゃない。
服飾組のオーリーはイケメンな少年を捕まえてドレスデザインと称して着せ替え人形にしている。デザインの描き起こしに協力させられているコマッツェが「やり過ぎると怖がられるよ」と助言しても一度火が付いたデザイン魂は止まらない様だ。
ムジカの、年上の弟子テンポラも、楽団の男子と仲良く音楽教育に勤しんでいる。
ミルク提供が主な仕事だったミナトナ達も、料理組を手伝う様となり、作物を運び込む農業組の、アグリを筆頭とする少年達と仲良く…ちょっとチャビーとロリーは仲良くなりすぎかな?未成年の子をあまり刺激しないで欲しい。
11歳になると、午前組と午後組に分かれ、農作業、防衛、炊飯、家事など各班に分かれて実務をこなしつつ、特技を生かして事務処理、防衛、音楽、鍛冶、紡績等の各班の専門課程を学ぶ。
学校では座学や実習だけではない。時には海へ行ったり、大きな街の歴史的建築を見学したりと、修学旅行も行った。子供の集団で行動するのは異常に目立つので、巡礼者を装って少々スリリングな修学旅行となった。
元々故郷の農村から外に出る事のなかった子供達にとって、大都会や海を見るというのは普通なら滅多にない事なので、子供達の感動は絶頂に達した。
特に海で「遊んでいーぞー」と声を掛けた時は…
「う”あ”あ”ーー!!!!」って海に向かって走って、波が寄せてきたら
「ぎゃ”あ”あ”ーー!!!!」って帰って来で、結局足元ズブ濡れ。
みんなで大笑いしたもんだ。
「とても素晴らしい学校ですわ!御屋形様は国の大臣よりも素晴らしい御業をなさるのですね!?」と引率に同行したウェーステも大喜びだった。今まで幽閉されて育った日々を抜け出し、楽しい旅に夢中だった。
女騎士のクッコは体育教師、騎馬の指導を行っている。フェンリルとその子供達を使った騎馬実習では、あまりの高速とフェンリルの理解力の高さにすっかり興奮して生徒を取り残して魔物を狩って来た。不用意に魔物を狩らない様、きつく叱った。
しかしそんな突っ走っちゃった事案を除けば、日頃の教練は基礎をしっかり学ぶことが出来たと少年達には好評だ。もちろん、その容姿や、体格や、輝く汗やなんやらかんやらで少年達は釘付けになっている分もあるのだが。少女達にも憧れのお姉さまとして慕われている。
メイドのモエは料理組のサポート、ヤミーのレシピの整理をした。
「ヤミーちゃんは天才だけどその技を教える事が出来ないのです」
「そーなの~?」「私達も何となく真似するしかない感じよ」とポケっとする本人、相槌を打つ料理組。
しかしモエは1年の内にレシピを明文化し、料理組の腕は飛躍的に向上した。それだけでなく、ステラ、アンビーはじめ年長女子に貴族の礼儀作法を教えてくれた。
服飾のデザインもオーリーに伝えられ、城のファッションに新しい彩を加えた。
私の「公式衣装」には、結婚式の時に着た白スーツに金糸の装飾が加えられ、不本意ながらマントも加えられた。笑うな、ステラ、アンビー。
「御屋形様のお力は、お話合いに入ってこそ、相手も恐れる真の力を発揮するものです。初見は親しみやすいそのお姿で相手を安心させた方が宜しいかと存じます」
ウェーステ、それって「一見バカにされた感じで本筋で逆転するのがあんた」って事で…仕方ないか。やりますよチンドン屋っぽい格好。
「このお城は、いつか王国と外交をなさるのでしょうか?」とのウェーステの心配そうな問に私は答えた。
「ああ、というか、嫌でも向こうから来る。そのための備えだ」
「それは、やっぱり」「心配するな。君はこの城に無くてはならない先生なんだ!」
ウェーステを見守るのは私だけでなく、ステラとアンビーもいる。二人ともウェーステにほほ笑む。
「それに。君だけの問題でもないんだ」
そう、これはここに何者かが住む以上、避けられない戦いだ。
*******
その日が来た。田植えも済んだ頃、三之丸駅に連絡が入った。
「デジロミナミ2キロ キシ50 ツノオオカミ10トコウセン タスケルカ」
護児城にいたアグリが私に相談し、返信した。
「ヨウスミロ」
すると「キシ ハイソウ ミツケへムカウ カイモンスルカ」と続報。
「タダチニ モンヲ アケ キシヲ ニノマルニ ヒナンサセヨ」と返す。
緊急事態を知らせる手回し式のサイレンを鳴らし、伝声管を明ける。
二之丸御殿には城の主要メンバーが集まっており、彼女らに命じる。
「ついに外部の人達が来た。しかも戦闘力のある騎士団だ。ステラはアンビーと『外交戦』準備、料理班、服飾班、音楽隊に指示してくれ。
ダンは救護班10人を集め、汽車に客車5両を繋げて出城を支援してくれ。
ウェーステ、クッコ、モエは自室で待機」
と告げて瞬間移動する。
*******
出城では丁度二之丸大手門が開けられ、今や5台に増えた馬車が出た。
到着した私に、当番のアグリが緊張して詰め寄る。
「まっ、魔物より、あのあの騎士達がもし敵で攻めてきたらどっどうしましょ!」
「本丸の門は閉めてあるんだ。騎士は二之丸で休養させ、もし敵意を見せるなら本丸から殲滅する。まあ、大丈夫だよ!」
馬車隊は角狼にクロスボウを射掛け、角狼が怯んだ隙に騎士達を乗せて城へ戻って来た。
「他に怪我人は?!」「他にって、そんな余裕無い!」騎士が情けない言葉を吐く。
「馬鹿野郎!仲間を見捨てて何が騎士だ!俺が行く!」
斬り込み隊の少年、ゲンが騎士に怒鳴り付け、馬車を角狼の脇に走らせた。
「我が城は、ガードナー辺境伯領の騎士団を保護する!
歩ける者は自力で城門を潜る
騎士を乗せた馬車は二之丸大手に逃げ込むが、「ゲンが怪我人を救助に行った!」との報せに門は半閉じになった。「閉じろ、私が行く!」と飛んで、出城当番のゲンを追った。出城に迫る角狼は着見櫓からの射撃の餌食となった。
案の定、ゲン達はクロスボウで角狼に防戦中だった。
周りに破壊された豪華な馬車の残骸と、その周囲に負傷した騎士と魔導士がいた。
「ゲン、無茶だ!魔物の餌食になったらどうする!」
「敵はざっと後20、防ぎきる!」頼もしいな、この少年は。だが。
「無理をするな、私にとって外の人間より君達が大切だ!」と返す。
すると、ゲンは硬い表情で叫んだ。
「この森で死にそうな人は助る!俺たちがそうだったんだ!ダン兄ちゃんが助けたみたいに、俺たちもならなきゃいけなんだ!」
助けられるだけではなく、自ら助ける。出城を築く切っ掛けとなったダンの決意が、後輩にも受け継がれている。
「よし!支援するぞ!後の二人は怪我人を連れてこい!絶対助けるんだ!」
ゲンと二人で角狼を仕留め、馬車の少年達が怪我人を一人づつかかえて馬車に載せた。長居は無用だ、すぐ出城へ戻った。
鎧の騎士は命に別状はないが、魔導士…の女性は血塗れだった。時間逆転で直ちに回復させた。
二之丸では、傷つき疲れ切った50人余りの騎士達が生存を確かめ合って安堵していた。私達の馬車が戻ると。一際豪華な鎧の騎士が、本丸を見上げて厳しい顔をしていた。30半ばくらいのイケメンだ。いいなあ。
本丸からアグリが出て来るが、なんだか目で助けを私に求めている。お前もうちょっとしっかししろよ…って言っても、元々アグリは荒事に向かない、優しい奴なんだよな。
しょうがないので受けた。食事当番の少女に、女魔導士を始め、回復させた重傷者の介抱を頼む。
まだ一同が心配に包まれている中、豪華なイケメン騎士が私に頭を下げた。それに応えて私は名乗った。
「私はイニロトナス山の内側、魔の森に建つ城、護児城で孤児を保護している魔導士タイムと申す者。ダキンドン王国、リベラ・ガードナー辺境伯の臣下、キッシンジャー子爵殿とお見受け致します。
この度は何故斯様な危険な場所へ参られたのか、お聞かせ願えないだろうか?」
私が名前を知っていた事に驚いたのか、一瞬怯んだ隙に、
「この度は部下ともども危険な所を助けて頂いた事、深く感謝する。ご推察の通り、私はリベラ辺境伯の部下、辺境伯領都護衛の子爵、レンドリー・キッシンジャーと申す」
周囲の騎士で動ける者は、揃って膝をつき、頭を下げた。統率が戻りつつある。
「この城には、長い凶作や冬場の飢饉のため、魔物が徘徊するこの森に捨てられた子供達が保護されて住んでいる。貴殿等を助けた彼らもその一人だ。その頭は、私にではなく、彼らに下げて欲しい。
また、彼ら子供達に対し害を成せば、私は容赦しない。来訪の目的を述べよ」
空気が緊張する。それにしても、「リベラ」辺境伯、か。
「我が任務は、二年前にリベラ辺境伯により討伐された暗愚の者、前辺境伯、メダガニー・ガードナーの係累の探索です」言葉が柔らかくなった。私もそれに合わせる。
「命を賭し危険を冒しての探索、大層なご苦労があった事と推察します。しかし私がこの森で助けた者は、皆何の力もなく、魔物の餌食となるのを待つばかりの力無き者ばかりでした。有力な貴族の一門など居ませんでした」と答えると、
「その中にエルフの少女はおりませんでしょうか?」
ぬう。斬り込んで来たな。
「エルフもいる、ドワーフもいる、亜人も、人間も、他国の者もいます。今は皆、助け合い、この出城の少年少女達の様に、立派に仕事を分け合い生きています」
「こ、この子供、いや、中には成人した者もいるのではないか?」
「そりゃ…それは10歳もここで5年暮らせば成人もしますよ。まあ、この出城の当番はまだ12、3歳が殆どですが」
「出城…ここは出城なのか?では、本城が別にあるのか…」
「ここより鐘2つ程歩けば、北に本城たる護児城があります」茫然とするイケメン。さて本題だ。
「して、その中にお探しの暗愚の係累が居たとして、如何するおつもりか?」
「連行し、裁判に掛ける。飢餓に苦しむ領民の上に胡坐をかき、贅を貪った罪からは逃れられぬ。裁判の結果によっては…処刑する」
「先程エルフと仰せられたが、エルフを処刑などすれば呪いを受け、報復を受けるのではないか?」
そう、この世界ではエルフと接触は非常に珍しく、その文化は謎に満ちている。そのため様々な噂がまことしやかに流布し、「彼らに害を成せば呪われる」と広く信じられている…らしい、各国の貴族階級では。今回のクーデターも呪いの所為だと思われている節がある。因みに、全くの迷信だ。彼らは各地の森で自給自足の暮らしをしているだけだったりする。それは兎に角。
「それ故、不正が無い様、裁判を行う。長い凶作の上の圧政に、領民の怒りは募っている。その怒りは、税を貪った係累に対しても落されるべき。それが道理と考える」
放つ言葉は厳しく、道理が通っている。しかし、一連の会話の中で、イケメン氏の怒気は、何か落ち着いて来ている様にも見取れる。
「もし、民衆が復讐心のため、捕らわれていたエルフの処刑を熱望したら、どうしますか?」
彼は毅然として私を見る。
「公正な裁きは私達の暮らしの礎です。それが揺るいでしまえば、あの暗愚な領主と同じ事になってしまう。もしエルフの娘に罪が無ければ…私はリベラ卿と共に、民衆を説得する!」
彼は敵ではない。公平であろうとしている。しかも先々の治世まで懸念している。
心までイケメンか!
「貴方の熱意に敬意を表します」一同は、安堵の溜息を漏らした。
「それでは、先ずは旅の疲れをこの城で癒し、その後に我らの本城、護児城へご案内したい。長くとも5日の内にはご案内できるかと思います。お受けいただけますか?」
レンドリーは周囲を一瞥し、
「ご厚意に甘えたく存じます」
と頭を下げた。
外交戦、大宴会という戦いまで後5日。「さあ、戦いだ!」という政○一成の声が頭の中で鳴り響いた…気がした。
何も干戈交えるばかりが戦いではなかったりします。
土曜は子供がお休みじゃないので、出城の鳥観図を描く時間が取れそう。出来ましたら出城デビュー回に掲示し、最新話でも告知します。
もし楽しんで頂けたら、下の星を増やして頂けるか、ブックマークして頂けるか、「いいね!」して頂けると第二部の執筆も捗ります。
また、感想を頂けると励みになりますので、
「ここの意味がわからん」
「このネタっぽいのがわからん」
「城じゃなくて女騎士描けよ!」
等々、お気軽に書き込んで頂けます様、お願い申し上げます。
そろそろ人物も多くなってきたから人名録が必要かな?と思う方はご指摘いただければ幸甚です。




