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新寿へようこそ! その3

潮風でいかにもみすぼらしい無人駅を脱出するために、僕らは線路を跨ぐ無骨な歩道橋へ進む。現在のホームは背面が海側に面しており、パーキングエリアに降りるには向かいのホームに移動するしかないのだ。


 向こうのホームもこちらと同じく、セメントの高い地面に鉄骨の柱が立っていて、申し訳程度のトタンの屋根は急な角度の雨を防ぐことすら出来無さそうな様子だ。あとはちょっとしたベンチがぽつんとあるだけで、開放的に吹き抜けた向こう側には、いくつかの車が駐車しているパーキングエリアと、その奥に側面に新寿交通局の文字が張り付いた一台のバスが確認できる。


「なぁ、君もサマーキャンプで来たの?」


 僕と篠原少年の前方で、鈴木くんが乗り合わせていた先ほどの女子に熱心に話しかけている。一瞬、やはり見た目通りの浮ついた男子らしいと考えてしまったが、振り返れば電車内での彼は僕達にもまったく同じ質問をしていたから、きっと分け隔てなく人懐こいだけなのだろうと思い直した。


「そうよ、悪い? そんなことでもなきゃこんな辺境の無人駅に来てないわ。」


「なはははは。まぁそうだわなぁ。

 でも良かったよ。俺女の子が来るとは思ってなかったから、こんな可愛い子が来てくれるなんてめっちゃラッキー。」


 先ほどの考えが45度ほどひっくり返る。やはり彼は浮ついた男だったようだ。


「そうだそうだ、君、なんて名前なの?」聞くと同時に彼は首を傾けて、「あれ? あぁそういや、まだ俺らも自己紹介してなかったんだ。悪ぃ悪ぃ。」


 顔の前で両手の手のひらを合わせてから、鈴木くんは自己紹介を始めた。なかばそれに僕達も巻き込まれる形となり、一通りそれが終わると、不機嫌そうな顔の篠原少年を横目に、鈴木くんが改めて少女に名前を尋ねる。


「久城美琴よ。......べつに名前なんてなんでもいいでしょ。」


 その悪態を最後に、僕らは歩道橋を渡り切って先ほどとは対角のホームに入る。その場を立ち止まることなく後にして無人駅を出ると、出口付近のスロープ状に盛り上がった地面に数人、集まっているのが見えた。


 おそらくサマーキャンプの迎えであろう大人が一人と、僕らと同じくらいの子供が三名ほど。そして子供たちに手を振ってその場を離れる大人が一名いて、ちょうど軽自動車に向かっていきながら遠隔操作で解錠動作を行なっているところだった。きっと子供たちのうち誰かの保護者であろう。どうせなら僕の両親も車で送迎くらいのことをしてくれれば良かったのに、と思った。


 集団に近づくと、その中で今や一人だけとなった大人である男性が、僕らに声をかける。


「君たち、職業体験ツアーの参加者だよね?」


「はい。あの人たちも、そうみたいです。」


 久城さんが僕らに視線を流しながらそのように受け応える。僕のようなやつからすると、こういう状況で代表役を買ってくれる人はありがたかった。僕がなにもせずにいても、勝手にことが運んでくれる。あとは流れに身を任せるだけなのだから、楽だ。


「まだ来てないのはあと一人か......。」


 そんなことを呟きながら、男性は右手の腕時計に一瞥を送る。集合時間の14時にはあと少し余裕があるはずだが、この炎天下にスーツ姿であるから、気の毒なことだ。首には職員カードらしきものが下げられている。


 そうこうしていると、黒いワゴン車が、パーキングエリアに侵入してきた。道路からどこかに侵入する際は、普通ならもう少し速度を落とすものだと思うが。


 駐車して間も無く、後部座席の扉だけが開いて、中から女の子が現れた。降りると同時に勝手にドアが閉まって、ワゴン車は彼女のこちらへの合流を待つこともなく、早急にその場を離れていってしまった。


 少女は黒い帽子を深く被っており、夏だというのに厚着だった。最初はコートにファーでも付いているのかと思ったが、色素が薄くもはや白に近いブロンズはどうやら帽子から溢れた長めの髪の毛で、肩にかなりのボリュームが乗っかっている。とはいえ、常識的な範囲であり、久城さんほどの異様な長さではない。


 人数が揃ったようで、彼女を迎えてすぐに歓迎のあいさつが始まり、終わると同時にパーキングエリアの端に停められているバスへ案内された。座席は自由なようで、車酔いの予防のため前に座りたいと申し出た久城さん以外は、空いているから特に詰めることもなく、それぞれがまばらに、各々勝手に座っていった。


 僕はというと、鈴木くんに誘われたのを断れないまま、参加者の中で唯一並んで座ることとなってしまった。一人ではないのが孤立した気分につながるというのは不思議なものだ。せっかく車内がガラガラなのだから、僕も篠原少年のように誘いを無視してどこか適当な位置に座れば良かった。


「では、出発のまえに日程表を配ります。パンフレットを持ってきていない方も安心してくださいね。」


 そのようにして配られた日程表は、パンフレットとは異なって通常のコピー用紙がホッチキスで閉じられただけの簡素なものであり、サイズもひと回り小さい。

 その後は、日程表に記載された予定の説明がなされた。

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