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第19話 現実

 私は冒険者登録を済ませ、ヤルコビッチさんのお店を目指して歩いている。

 とは言っても冒険者ギルドを出て、真っ直ぐ進んだところにあるらしい。

 店にはヤルコビッチ商会の看板がありますから、と言われたから。


 シルバーは登録の際にギルドで渡された、使役されている魔物の証として赤い首輪を付けている。

 まあ、可愛いのなんのって。

 そしてネットスーパーで購入した、犬用のリードを付けて私と歩いている。


 すれ違う人々がシルバーを見て、ギョッとした顔をしている。

 そして立ち止まり道を開ける。

 まあ、そうなるよね。

 2mはある鋼の様なピカピカの毛並みの、大きな狼が歩いていたら怖いよね。


 ヤルコビッチさんのお店はどこかな?

 歩いていると2階建ての木造の建物が見えて来た。

 あっ、あった。ここだわ。


 1階は光を取り入れるためなのか、木戸が取り払ってある。

 店の前は馬車なら、5台は横に並べて停められそうな広さね。


「こんにちは!!」

 私は入口で声を掛けてみる。

「は~い」

 奥から女性の声が聞こえる。

「お待たせいたしました」

 そう言いながら20代後半の、金髪の髪を後ろで束ねた女性が出て来た。


「あの~、ヤルコビッチさんは、いらっしゃいますか?相川(あいかわ) 涼香(すずか)と申します」

「あなたがスズカさんね。主人からお話は伺っております。妻のリリーと申します」

 奥さんだったんだ。

「まあ、大きな狼さんね。さあ、中へどうぞ」

「ありがとうございます。シルバーはここで邪魔にならない様に待っていてね」

ウヮオ~ン(わかったよ)

 私は奥の部屋に通され、しばらく待っていた。


 私はソファーに座り周りを見渡す。

 部屋の中は執務机と手前に応接セットが置かれている。

 壁には本棚と絵が飾られ落ち着いた雰囲気を出していた。


「いや~待たせ致しました」

 しばらくするとヤルコビッチさんがやってきた。

 部屋に入り私の向かいのソファーに腰かける。

「いいえ、こちらこそ。旅から戻ったばかりなのにすみません」

「それはお互い様ですから。無事に冒険者登録は済みましたか?」

「えぇ、無事に登録できました」

「それはよかった。ではこれからのことを話しましょうか」

「よろしくお願いいたします」


「まずスズカさんは冒険者で、やっていくお気持ちは無いのですね」

「そうです。魔物討伐なんてやったことがありませんから」

「では獣人専用の食堂を始めてはどうでしょうか?」

「ジョヴァンニさん達はまた食べたいと言ってくれましたが、本当にそれでやっていけるのでしょうか?」

「やっていけると思いますよ。この王都の3割の人は獣人です。特に猫族や犬族の人は多いので十分に採算が取れますよ」

「それなら良いですけど」

「以前に店として使っていた空き家があります。そこなら丁度、良いと思います」

「貸して頂けるのでしょうか?」

「はい、勿論です。それから前にもお話ししましたが、街に慣れるまでは目立つことはなさらない方が良いと思います」


「わかりました。では街のことを教えて頂きたいのですが」

「どんなことでしょうか?」

「月いくらくらいあれば生活できますか?」

「そうですね、まず一日の平均賃金が3,000円から5,000円ですね」

「住居はどうでしょうか?」

「王都は城壁の中にあり土地が限られますので、地価が高く家を借りればワンルームでも月10万くらいでしょう」

「そんなにするのですか?」

「えぇ、そこで自炊を考えたら、宿屋なら食事付きで1日2,000~3,000円で泊れます。そのため宿屋暮らしの人が多いのです」

 

 仕事はあっても手に職が無い私が、出来ることは給仕くらいしかない。

 それでも1日3,000円はもらえないようだ。

 この国は仕事が少なく、格差があり女性の地位が低いそうだ。

 女性はどうやって暮らしているのだろう?

 ヤルコビッチさんに聞くと住込みで働くか、結婚をして共稼ぎで働くかだそうだ。

 まあ若い女性なら他にも稼ぐ方法はありますが…、と言葉を濁されたけど…。

 なんだったのかしら?


 しかし手元にあるのは両替した25万円、宿屋に泊っても3ヵ月も暮らせない。


「貸して頂ける空き家は、どのくらいの大きさなのでしょうか?」

「ここよりは手狭ですがスズカさんが、1人でやる食堂なら丁度良いと思います。今日はお疲れでしょうから、明日見に行きませんか?」

「はい、ぜひお願いします」

「では今夜は店の近くの宿屋に泊ると良いでしょう。シルバーは馬小屋を使わせてもらえるように私が話を付けておきましょう」


 そう言うと私達は近くにある宿屋に向った。

 宿屋はヤルコビッチさんの知り合いらしく、シルバーは馬小屋を使わせてもらうことになった。

 賃貸物件を見に行くのは、明日の朝ご飯を食べてから行くことになる。



 夕食の時間になり2階の部屋から出て1階の食堂に降りていく。

 そこそこ泊り客がいるようで、すでにテーブルに付いている人が何人か居る。

 私は他の人の真似をして厨房前に並ぶとトレーを渡された。

 その上にはスープの入ったカップにパンが乗っていた。

 スープの中身はニンジン、タマネギ、エンドウ豆のような野菜の煮込みだった。

 スプーンを使い口に入れると、味付けがされていなのか調味料の味がしなかった。

 そして10cmくらいある丸いパンは茶色で硬かった。

 パンの化石?


 これでどうしろと?

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