吟遊詩人は鳥のように詠う
吟遊詩人は、鳥のように詠う
オオルリのように、鮮やかな夏を彩り
カッコウのように、騒がしい夏を告げ
ツバメのように、爽やかな夏を貫き
私のように、移り変わる夏を渡る
吟遊詩人は、鳥のように詠う
「どうも、ありがとうございました」
年に一回、オオルリと名乗る吟遊詩人の私は、この村で夏祭りの舞台の出し物で歌を披露している。木で出来たステージを降りて、最前列で聴いていた一人の目を閉じた女性に話しかける。
「今年の歌はどうだったかしら?」
「すごく良かったです!!」
ここで歌を披露しているのは、彼女、通称フクロウがそれは本当に楽しみにしてくれているからが大きい。
「オオルリさんの話は、とってもステキで、情景が頭の中でテレビを見ているように浮かぶんです!!」
「ありがとう、フクロウ。ところで、テレビって……いいえ、今日はまだ長いわ。場所を変えましょう」
私は、彼女が立ちやすいように体を支える。彼女は、目が見えていない。だから、誰かの手助けなしではどこにもいけないのである。
「わざわざ祭りの舞台じゃなくてもあなたの為に歌うわよ、私」
「わがままなのはわかっていますけど、やっぱり皆さんと一緒に聴くのが好きなんです。皆さんも楽しみにしてますし」
「そう。あなたがそう言うならいいわ」
ゆっくり彼女の体を立たせる。
「今年で三回目の夏が来たんですね」
「そうね。私ももうそろそろ家に戻らないと」
「そうですか……もしかしたら、これが最後かもしれないですね」
「大丈夫よ。あなたがいる限り、私は歌うわ」
彼女が立ち上がったのを確認すると、ゆっくりと歩を進める。綺麗な栗色の髪で隠れた肩を、そっと支える。そこからは、無言で目的地に向かう。
「着いたわよ」
そこは、普段フクロウが住んでいる私の別荘で、メイドと門番の騎士が出迎えてくれる。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、お嬢様方。お食事と湯浴びはいかがいたしますか?」
「湯浴びにするわ。食事はお部屋に持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
そう言って、メイドと共に湯浴み場に向かう。
そこで、服を脱ぎながら、フクロウがまた口を開く。
「私ね。多分もうそろそろ元の世界に帰ると思う」
「なるほどね。あなたはどうしたいの?」
「こんな話、きっと誰も信じないから。また元の生活に戻るだけかも」
「もったいないわね」
「え……」
オオルリは、フクロウの手を強く握る。そして、胸元に寄せ、祈るように囁く。
あなたが元の世界に戻ったら
私の見てきた世界の詩を詠いなさい
そうしたら私はあなたの世界についていける
その代わり
あなたが見てきた元の世界の詩は
私がこの世界で詠わせてもらうから
あなたはずっとここで私と生きるの
「……ありがとう。じゃあ、また今夜は長くなりそうね」
二人はそしてゆっくりと身体を清めていく。
湯浴みを終え、部屋に戻った二人は、食事もおろそかにベットで向かい合う。
「ふたりきりね、フクロウ」
「ふふっ、オオルリさんを一人占めなんて贅沢ですね」
「あら、じゃあ何をしても許されるのかしら」
「もう。でも、私もオオルリさんが面白いと思う事をまとめてきましたから、満足させてみせます!!」
「それは楽しみね」
オオルリは詩を詠い、フクロウは知識を囁く
二人の声は、世界は違えど、舞台は同じ
観客はわたしで、演者もわたし
朝日が登り、夜が来る
この部屋はもう私達の世界
彼女はこの次の日、還っていった。それでも、私はまだこの世界の詩を作る。
いつか、また彼女に詩を詠う機会が来ることを信じて。