63話 父との晩餐
「最近表情が明るくなったな」
帰宅後夕飯をフレイ父様と共にした。
同じ卓で食後の紅茶を楽しんでいると突然そう言われて少し驚く。
「明るく……ですか?」
「ああ、それに以前と比べて食欲が増したように見える」
いい傾向だ。そうどこか安心したように父様は微笑むが私は内心恥ずかしかった。
公爵家というだけあって出される食事がどれもこれも美味しいのが悪い。
しかも私は二百年前の人間だ。
長い月日が経ち洗練された料理の数々にエミヤから入れ替わって以来魅了されっぱなしだった。
流石に当日は食欲がなかったがここ最近は父の指摘通りだ。
アルと再会しロゼという心強い友人を得て気が緩んでいるのかもしれない。
「あの、最近学園で仲良くする友達が出来て……部活動も楽しくて……」
「いいことだ。……今まで無理をさせていてすまないな、エミア」
私の説明を好意的に聞いてくれていたフレイ父様の表情が急激に曇る。
無理をさせていたというのは、アリオス殿下との婚約のことだろう。
ただその件に関してはエミアがアリオス殿下のことを慕っていて虐げられていても傍に居たかったという前提がある。
確かに彼女は無理をしていたがフレイ父様が責められる理由はないと思った。一番悪いのはアリオス殿下だ。
エミアは心の底から可哀想だと思うが、正直よく分からない部分もある。私は誰かを恋い慕うことは一度も無かったので。
「そのことで謝るのはもうお止しください、お父様」
私が謝罪を拒否しても父の表情は晴れない。ここは話題を変えるのがいいだろう。
「それよりも、父様は竜の谷を見たことがございますか?」
「竜の谷? それはあるが……」
「私も一度見て……」
一度見てみたいと言いかけて止める。
もし過去に家族旅行などで既に行ったことがある場合不味いことになるからだ。
言葉を途中で切ったせいかフレイ父様は不思議そうにこちらを見ている。
「……竜の谷の底を一度見てみたいと思ったのですが、やはり無理でしょうね」
「そうだな、落ちたらまず助からないと言われている場所だし過去何度も探索に失敗していると聞く」
「まあ……」
「どれだけ長い縄を用意しても途中で足りなくなり、それに縄を伝い降りていた者も途中でふっと消えてしまうそうだ」
まるで翼竜にでも攫われたように。そう存在しない縄を引き上げるような仕草をしながらフレイ父様は言った。
「翼竜……確かに空を飛べるものでないと谷底に辿り着くのは難しそうですわね」
「エミア?」
「興味深いお話を有難うございます、お父様。明日友人にこの事を話してみようと思いますわ」
これから部屋で授業の予習をするので失礼します。そうお辞儀をして食堂から退出する。
公爵令嬢らしく優雅な歩みを心掛けながら内心は走って自室に辿り着きたくて仕方なかった。
大急ぎで試してみたいことがあったのだ。




