55話 幕間・二百年前の出会い「1」
アルファード・ウェインは恵まれた少年である。
父は誉れ高き王国騎士団長、母は伯爵家の次女でおっとりとして優しい性格だった。
そのような環境で長男として生を受けたアルファードは伸び伸びと活発に育った。
座学よりも剣の訓練を好んだが愚かという程ではなく、そして彼には確かな剣才が見て取れた。
二歳違いの弟はアルファードとは逆に座学を好みよく本を読んでいた。
病弱という程ではないが真冬に池に落ちてけろりとしている兄のような頑健さはなかった。
だが兄弟仲が悪いという訳でなく互いに相手の優れた部分を認識し、しかし嫉妬することもなく育っていった。
人が竜と縄張り争いをしていたこの時代は知よりも武が尊ばれたがアルファードは元々長男だった為弟より優先されても誰も異を唱えなかった。
少年の世界は明快でシンプルだった。
このまま剣の腕を磨き続け年頃になれば立派な騎士となりいずれ父の跡を継ぐ。
弓の扱いが剣ほど長けていないのが課題だが真面目に訓練を続ければきっと改善するだろう。
十一歳である現時点で足りない部分は多くあるが全て埋められると信じている。
アルファードも周囲の大人たちも彼が騎士団長になる未来を疑わなかった。
しかし最近になり明るいばかりだった彼の世界に陰りを落とす存在が現れた。
竜殺しの乙女とやらである。
突如教会側が発表したその人物は騎士団が長年攻略に手こずっていた巨竜三体を瞬く間に討伐した。しかも一人でだ。行きも帰りもそうらしい。
信じられる話では到底ない。
だが二回目の討伐、毒竜「ヤマ」の退治は騎士団長である父や他の人間も見守る中で行われたという話だ。
その光景を語る時の父がどことなく気落ちしていた様子だったのをアルファードは覚えている。
乙女と毒の息を吐く邪竜は空中戦を暫く続け、その後地面に墜落したのはヤマの方だったという。
人間ではないなとアルファードは思った。
正確に言えば竜殺しの乙女が人間だったら嫌だという感情があった。
女一人が倒せる竜に苦戦し続けた父や騎士団の格が下がるからだ。
それはとても利己的で保守的な考えだったが、実際アルファードの懸念は真実になった。
王国最強の存在であったルーン騎士団が一部の者に軽んじられ始めたのだ。




