54話 押し付けられた偉業
その後三人で学園の図書室に行き、聖女エミヤの最期が記載されてそうな書物を借りてきた。
ある書物曰く、私はザッハークの孤独を慈悲の心で癒し彼が生み出した谷底で二人きり永久の眠りについた。
また別の書物曰く私の肉体と魔力を供物として捧げたことでザッハークの腹は満ち足りて眠りについた。谷底はザッハークがその時に作り出した。
他の書物曰く私が足を強く踏み鳴らした途端地面が大きく割れ翼破れたザッハークと共に谷底に落ちて行った。
「……流石に、足踏みで地面を割る程体格は良くなかったわよ」
自分の名が現代でも伝わっていることは知っていた。ただ何となく気恥ずかしくてそこまで詳しく調べなかった。
普通に竜を魔法で倒し続けた人間として記録されていると思っていたのに。
「ああやっぱり、凄い恥ずかしい、今すぐ訂正したい。足踏み以外のも全て!」
「落ち着いて、エミー」
アルはそう止めるがむずむずする気持ちはおさまらない。
ここが図書室でなく部室でよかった。思わず床に体育座りをしてしまう。
わかっている。私が過去成し遂げたことは既に二百年前のお伽噺なのだ。そういう風に現代ではされてしまっているのだ。
聖女である私をより大袈裟な存在にする為にやったことがないことを色々付け足している。その方が物語として映えるからだろう。
私が自分の気持ちを落ち着かせるためにぶつぶつと呟いているとロゼが目の前でしゃがみこんだ。
「本当にそうかな」
「ロゼ?」
彼女の言葉に私は首を傾げる。二人とも座るなら椅子にしなよと上からアルの呆れた声が聞こえた。
「大地を割り谷を作り出すという超常現象を押し付ける先として聖女エミヤが選ばれたのだと思う」
そういうことをしてもおかしくない人物として、そうロゼに言われて思わず否定したくなった。
だが二百年後の今もこのように書物に残されているなら、大勢の人が私の行動として納得したのかもしれない。
嫌か嫌じゃないかと問われれば嫌だけれど、仕方ないような気もした。私は生前から異端だったのだから。
「ただ聖女の死亡と竜の谷が生まれた時期は離れていないと思う。寧ろ同時期かもしれない」
そうでないと過程は異なっても聖女と竜が谷底に落ちたという結果が同じ話が幾つも生まれる筈がない。
ロゼの声は淡々としていたが自信に満ちていた。だからそういうものなのかと思ってしまう。私はここにいる二人程賢くはないのだ。
「それで、君とザッハークの相討ちの直後に竜の谷が出来たとして、これで誰が得したかだよね」
「得?」
「そう。或いは竜の谷が出来なければ誰が得をしたかだ」
国境。そこを縄張りにしていた巨竜の死。ルーン騎士団の壊滅と聖女の死亡。
ロゼが指折りあげていくそれらの情報を私は頭で繰り返す。
それはつまり、脅威はなくなったが、ルーン国の戦力もなくなったということだ。
「サマルア、か」
頭上から低い声が聞こえる。
「アルファード……」
無意識に昔の名前で彼を呼んだ。




