46話 生贄の姫
「はいはい、話を現代に戻してもいいかな。二百年前の件も非常に興味深いけれどね」
二人だけの世界に入られると疎外感が半端ないんだ。
そうロゼに言われ私たちは慌てて視線をそらした。
「ごめんなさいロゼ、話をセリス殿下との対面に戻して?」
「了解。彼は当時髪を伸ばしていて……王子様というよりお姫様だったかな」
中身も大体そんな感じだった。その説明に私は八歳のセリス殿下を想像するが上手くいかなかった。
お姫様みたいな外見ならわかるが性格というのはよくわからない。
楚々としてお淑やかということだろうか、それとも誇り高く傲慢ということだろうか。
私が頭を悩ませていると横から助け舟が入った。
「例えが漠然とし過ぎている、ロゼマリア。君やエミーだって貴族の姫君だということを忘れていないか?」
アルの言葉に私とロゼは真顔で互いを見た。その後にどちらからともなく笑ってしまう。
多分彼が当たり前のように自分たちを姫君として認識していたのか面白かったのだと思う。いやアルは変なことを言ったわけではないけれど。
「わかったわかった。じゃあ具体例を挙げるとするよ。アンドロメデ姫やアンジェリカ姫とかかな」
ロゼが口に出した名前はどちらも神話に出てくる人物だった。怪物を鎮める為に生贄にされる美姫の名だ。
二人の姫はどちらも清らかで心優しく生贄になることを嫌がったりしなかった。アンドロメデなどは母の身代わりに罪を負って岩に縛られた。
「……父親似では、なさそうね」
「そうだね。でも彼は誰にも似てなかったと思う。父母にも、弟にも」
外見の話だけじゃない。ロゼが付け加えた言葉に私は頷いた。
「彼は国王一家の中でも特異な存在だったよ。子供の癖にやたら悟ったような顔をしていた。まるで何百年も生きたエルフのようにね」
もしかしたら王は私と婚約させることで彼を人間らしくさせたかったのかもしれない。
結局それは失敗したけれど。視線を窓の外に向けながらロゼは語り続けた。




