36話 変わり者姉弟
『エミア』には弟が一人いる。
彼の名はルクス・シュタイト。学院中等部の生徒で今は寮で暮らしている。
理由は姉が嫌いだからだ。
いや、正確に言えば彼はアリオス殿下が嫌いなのだ。
そしてアリオス殿下と婚約し彼に言いなりのエミアを軽蔑している。そう『彼女』の記憶が教えてくれた。
状況が変わった今、近い内にルクスと話す必要があると思う。
けれど、どこまで話せばいいのかがわからない。ルクスはお父様と違いエミアを嫌っていたから逆に色々と追及してくる可能性がある。
その時に今の私は二百年前生きていた女の記憶を持っていると、寧ろ本人そのものであると告げたならどういった反応をされるだろうか。
疎遠にしていても十七年間確かに彼の姉として振舞っていたエミア・シュタイトの人格ではないと弟に話したなら。
私は性別と髪色の違う双子に向かって口を開いた。
「あの、ロゼマリアさんは」
「ロゼ」
「ロゼ、はアルの前世がアルファード……二百年前の騎士団長だといつ知ったの?」
私の問いかけにロゼマリア、いやロゼは少し考え込む素振りをした。
「実際に確認したのは言葉が話せるようになってからだから一歳になった時かな」
「そんなに昔から?」
「いや双子だからいつも同じ部屋に置かれてたし、なんかこいつおかしいなっていうのは生まれてすぐ後から思っていたよ」
それは、前世の記憶を持つアルだけでなくロゼの方も変わっているのではないだろうか。生後間もなくの赤ん坊にしては聡すぎる気がする。
アルはやれやれと言いたげな表情で眼鏡を指で持ち上げた。
「僕は前世の記憶があるから体のつくりが整い次第会話が出来た、でも何故かこいつも同時期にも同じことができた」
前世の記憶もなく一から言葉どころか発声を学ぶ必要があったのに。
赤子であることを考慮して遠慮していた僕よりも先にペラペラと話し始めて乳母が卒倒していたよ。
遠い目をして語るアルに対しロゼは胸を張った。
「前世持ちってだけで姉が弟に後れを取る訳にはいかないからね。それに私天才だし?」
「……そう、天才で変人なんだロゼマリアは」
前世の記憶を持つ僕を当たり前のように弟扱いし、周囲にもそれを受け入れさせるぐらいに。
心底呆れたように言うアルはそれでもそんな彼女の事を嫌いではないようだった。そしてちゃんと姉として受け入れているように見えた。
「僕の家族は全員僕が前世の記憶を持っていることを知っていて受け入れてくれている」
これがトラブルメーカー過ぎて、前世持ち程度じゃインパクトで太刀打ちできないんだ。
そうロゼを指差しながら言うアルに愛想笑いを浮かべながら、この姉弟は規格外過ぎて自分たちの参考にはならないなと思った。




