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32話 聖女としての鼓舞

「……今私が貴男にされたことを、大人たちに告げ口されるのは御嫌ですか?」


 まるで拗ねた子供のように私より大柄なアリオス殿下はそっぽを向いていた。

 その態度に腹が立つよりも不安になる。

 このままの未熟な精神で彼は大人になっていいのかと。ただの貴族の次男ではない。

 国の第二王子なのだ。しかも兄不在の為一番玉座に近い位置に居る。このまま国王にならせていいわけがない。


「ならば条件を出します。まず私に付き纏うのは止めてください。必要なら婚約解消の件は私から殿下の取り巻きにお話しします」

「なっ、それはやめろ!」

「ならご自身でお話しください。それとアル……エーベル君を取り巻きを使って虐めるのは止めてください」


 続けて発した内容にアリオス殿下の表情が険しくなる。だがそのような顔をされた所で怯んだりはしない。


「エミア、やはり貴様あの男の事が……!!」

「邪推をしないでください。自分よりも成績が良いと言う理由で学友を攻撃する殿下が情けなくて見ていられないだけです」

「なっ」

「ははっ、言うね、お嬢様」


 私の台詞に聞いていた二人はそれぞれ違った反応を見せる。


「立場や子分を使い相手を引き摺り下ろすのではなく殿下自身のお力でその上を目指してください」


 貴男は次期国王になるつもりなのでしょう。ならば相応しい努力を見せてください。

 そうアリオス殿下の目を見つめ私は言った。

 不遜だ、馬鹿にするなと怒鳴り散らすかと思ったが彼は戸惑いながらも何も言わなかった。

 奇妙な沈黙が私と殿下の間に流れる。それを壊したのは赤髪の麗人だった。


「無言は肯定と受け取れってね、今後を期待してますよアリオス殿下。元婚約者殿の慈悲と期待を裏切らないようにね」


 これからは私も見張っているから。そう猫科の肉食獣のように笑って彼女は私の手を引いた。

 そのままどんどんと歩き出し、アリオス殿下から遠ざかっていく。

 そして辿り着いたのは、酷く見慣れた場所だった。

 野草茶研究会の部室前だ。



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