目標
カップヌ●ドルの抹茶味............これおいしいのだろうか?
とにかくまずいことになった。今のゼラは少女の姿をしているのと同時に本来の二割程度の魔力しか保有していない。いや、魔力量はさほど悲観するほど少ないわけではない。二割とはいえ、魔王の二割だ。一般的な魔族ほどの魔力はあるはずだ。と言いたいが、それよりもまずいのはこの体で秘玉を集めなければいけないことである。
秘玉とは、ゼラの保有する魔法技術と生命力の一部を封じ込めた玉である。秘玉はそれぞれ火・水・風・土・光・闇の6つにそれぞれの属性の魔法技術が封じられており、ゼラは各秘玉を取り込まない限り一切の魔法が使えない挙句、生命としての強度も見た目通りの年端も行かない少女のままである。いままではその秘玉を取るまでの道程をこの村の住人が護衛することで安全に行えていたが、この村が滅びた以上秘玉を自分の手で取りにいかなければならない。
「くそ、秘玉を取りに行くにはまず森を抜ける必要があるが..........魔獣なんて出ようものならどうしようもないぞ」
そう、特に危惧するべき存在は魔獣だ。この状況で魔獣と出会えば低級の魔獣でもまず間違いなく食い殺される。どうしたものかと考え込む。ここにいても誰かが来る気配もないし、本来の力を取り戻すためにも秘玉を取りにいかなければいけないのだが、正直に言ってゼラは恐怖していた。
ゼラは魔王である。膨大な魔力を有し、森羅万象の魔法技術を与えられた存在である。しかし、大きな力を得ているがゆえにその力のほとんどを失い、それに代わるものが一切ない状況で胸を張って立ってはいらない。
「はぁ.......どうしようもない。このままここに突っ立っているわけにもいかないな」
意を決して前を向くとゼラは空を見上げた。先程よりも日が昇っている。つまり昇っていった向きが西になるはずだ。ならばその方角を向いて右が北だ。
「転生の樹があるこの村からは微妙に火の祭壇が近かったはずだ。北西に向かおう」
ゼラは火の秘玉が納められている火の祭壇へ向かうため歩を進めた。祭壇近くには村があったはずだ。少なくとも近くに行けば人間が現れるはずだ。人間であれば魔族とわかって襲ってくるのは兵士か賞金目当ての冒険者くらいだろう。辺境の村人なら逃げれば追ってこないはずだ。すくなくとも、たとえ捕まってもこの少女の姿で精いっぱい命乞いすればどうにか助かるかもしれない.............
弱気な考えを張り巡らしながらもしっかり歩みを続ける。力を取り戻すために。
「(ぐうぅぅ~)」
すると腹の虫が鳴りゼラは肩を落とす。
「しまった。もっと.....重大なことがあった..................このままじゃ餓死するぅ!!!」
森中に情けない声がこだまするのであった。