転生しました
お腹空いたけど眠たいから寝たいけどお腹空いてるからご飯作って食べたら寝ようと思います。
1000年に一度、この世に災厄をもたらす魔王が現れる。
魔王は魔族を束ね人々を虐殺し、土地を枯らしていった。
しかし、1000年に一度魔王が現れるように、勇者もまた1000年に1度現れ人々を魔王の支配から救うのであった。
そこに木があった。高さはさほどない、しかし他の木々とは明らかに違う点がある。その木は人一人と同じほどに大きな実を実らせていた。
その身はうっすらと光を帯びており、ドクンッドクンッと静かに脈打っている。すると、その実の先端が割れると一人の少女が生まれ落ちた。少女には二本の角と一対の蝙蝠のような翼があり、簡素な麻布のワンピースをすでに身にまとっていた。目を覚ました少女は、起き上がるとパタパタと翼をはばたかせながら大きな欠伸をした。
「む?やけに静かだな?」
少女が不思議に思うとあたりを見渡した。いつもであれば転生時には大きな歓声が響き渡り、辺りには地に膝をついた配下達でいっぱいになっているはずであったがその姿は見えない。いや、それだけではなかった。遠くに見えているのは確かに家であるが、しかしその家は数百年は放置されているであろうか、コケに覆われツタが絡みつき、入口の戸は倒れて草に覆われていた。
「一体どういうことだ?もしや俺が転生するまでの1000年の間に村が滅びたのか?」
悪い予感がしてすぐに立ち上がると、自身の体の状態に気が付く。
「む?........女かぁ.......」
少女はため息をついた。
「女の転生体は久々だなぁ。ここのところ5回くらい前までは男の体が続いていたが、ついに女の体が回ってくるとは.......」
別に男女の体で大きな不便があるわけではなかった。初めて女の体に転生した時は、流石にないものとあるものの違和感に惑わされていたが数百回と転生を繰り返すうちにどちらの体であろうと変わりなく動かすことができるようになっていた。しかし、自身に違和感が生じなくなったところで周りの目というのはあまり馴れるものではない。自身の体が女というだけで勇者の剣の腕が鈍くなったりするのはまだましではあるが、配下の魔族からいやらしい目線を感じるのは特に気持ちが悪い。それも転生する前、初めての生を受けた時が男だったからか何度転生しても男としての気分が抜けないでいるせいだろう。一度は女の歩き方や言葉などを真似してみたことはあったが、自分がおかまになったようですぐにやめてしまった。
とはいえ、女の転生体になってしまったことは仕方がない。今はそれよりもこの村の風化が問題だ。この村は転生の樹を中心に作られ、転生のたびに未熟なこの身を最初の祭壇を目指すまでの護衛、そして最終的に精鋭として前線に敷くための兵を募る役目があったのだが..........
「とりあえず隅まで見て回るとするか」
情報の少ない状況では判断ができないと、少女は村を見て回ることにした。今のところ良い情報が一つもない中、藁にもすがる思いで目に映るすべてを見た。すべての家を入って回った。そして、この村が完全に廃墟と化していることを知った。誰一人住民はいないどころが、ここ数十年どころか軽く百年以上は誰かが生活していたという痕跡は見当たらなかった。
「うぅ.........嘘だろおおおぉぉぉぉ!」
少女の名はゼラ。この世界に災厄をもたらす魔王は、転生して間もなく心が折れかけていた。