序章 ③
『ブンっ!!!!!』
楓馬のブーメランは、空気を切り裂いて、銀髪の少年を襲った。
少年は『ふっ』と嗤った。馬鹿め。
「そんな物がこの俺様に効くか!!!!!」
そう叫ぶと、目の前にきたブーメランを素早く避けた。ブーメランは大きく旋回し、背後からもう一度少年を襲ったが、それも避けられ楓馬の手元に戻った。
「やるじゃねーか。俺のブーメランを避けるなんてよ」
楓馬は言った。
「……逃げよう。あいつと戦っても勝てる見込みはないよ」
ルールーは青ざめた表情で言った。
「なんでだよ。面白くなってきた所じゃないか」
「ったく最悪な奴と出会ったもんだ。君なんか助けなきゃ良かったよ。最高についてない!!」
「そんなに強いのか?」
「ったく君は何にも知らないんだな。それでよく入学しようなんて思ったもんだ。あいつは、黄埔仁だ。仁を知らない呪術使いなんていないよ。とにかく強い。同じ年で勝てる奴なんていないと思う」
「だったら益々やる気がでるじゃねえか」
「馬鹿なの?……とにかく逃げるが勝ちって言うだろう。逃げよう。この距離なら僕のスピードでも行けるかな……不安だな……」
「おいルールー、どうせ逃げ切れるか分からないなら、戦ったって同じじゃないか。背中を見せて負けるより、俺は正面から負けた方がせいせいするぜ」
「これだから馬鹿は嫌なんだよ……」
ルールーは何やらゴソゴソと鞄の中から取り出した。それは楓馬も見たことがある入学案内だった。
「あーとにかく、何か書いてないかな。降参する方法……逃げる方法……あー」
そこに銀髪の少年が近づいて、二人を見下ろした。
「お前だったのかルールー。邪魔されてイラッときたわ」
「わわわわわわ」
ルールーは言葉にならない声を発した。
「ふん、ちょうどいい、これで二人分の印が手に入る……労力の割に悪くないな」
「何をカッコつけてんだ、お前!そんな妙な技を使ってないで正々堂々と勝負しろよ。俺は素手では負けない!」
仁は、その言葉にフッと嗤って返した。
「呪術が少しばかり使えるからって威張るなよ。お前の存在意義なんてそれぽっちじゃねえか」
「哀れだな。呪術を使えない奴は……何も知らないで出向いてくるとは」
「はあ!!!!!言いたいことがあるなら、分かるよーに言え」
「お前に説明する義務などない。印狩りなんて悪趣味な事したくないが、目障りだから狩ってやるのも悪くない。覚悟しろよ」
ルールーは青ざめた。
「それだけは止めてくれ。転写で十分じゃないか。ここに、案内書にだってそう書いてあるだろう」
「知るかっ!」
そう言うと、仁は呪を唱えた。
「隙ありぃぃぃぃぃい!!!!!!!」
その隙を狙って、楓馬はブーメランを投げた。
先ほどより距離が近い分、仁にも避ける時間がなかった。
まだ不完全な呪を、咄嗟にブーメランにぶつけた。その刹那、大きな爆発が起きた。
ルールーは素早く膜を張ったが、爆風の威力に敵わずに吹き飛ばされた。そして二人は真っ逆さまに深い森の中へと落ちていった。
爆風から逃れた仁が、遠くからその様子を見ていた。
「ちっ」と悔しそうに森に落ちていく二人を眺めていた。
※読んでいただき、ありがとうございます。(度々タイトル変えてすいません)
※ここまでの登場人物です。
①趙楓馬:主人公。体力自慢の16歳少年。呪術の才能はない。
②ルールー:玄の国の南に暮らす民族の少女。16歳。弱いが防御呪術の才能がある。(仁とは知合いっぽい)
③黄埔仁:本年度の入学者の中で最強の呪術の才能を持つ者。16歳の美少年。