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序章 ②

 玄陽までは三日の道のりだった。

 出発して二日目だというのに、早くも楓馬ふうまの心は折れかけていた。

 

「ぐぐぐぐぐぅぅぅ」

 それもそのはず。現在いまの彼は、歯を食いしばって断崖絶壁の岩肌にへばりついていた。

「ぐぐぐぐぐぅぅぅぅ。だだだだだ、だすけてくれぇ~」

 そう叫んでも誰も助けにくる状況ではなかった。自分が一番よく知っていた。が、叫ばずにいられない。

 背後からビュッと空気が切れる音がすると、しがみついた手のちょうど真横に当たって大きな穴を開けた。

「ひええええ!もう勘弁してくれよ。一体何なんだよ」

 楓馬は泣き言を叫びながら、それでも火事場の糞力で、断崖絶壁をがしがしと登り始めた。

「こんな所で死ぬ訳にはいかない!」

 驚くほどの力である。

 楓馬は村でも身体能力だけはぴか一だった。その力は村の皆からも重宝された。田んぼを手伝ったり、家の建築を手伝ったり、とにかく身体を動かすことは得意だったし、好きだった。物凄いスピードで壁を登りながらも、背後からの攻撃が止むことはなかった。


◆  ◆  ◆


「これでウォーミングアップは終了……ここからが本番だよ」

 楓馬がいる壁がよく見える森の一角に、人影があった。白銀の長髪を垂らした少年である。彫刻のような冷たい表情を、楓馬に向けていた。少年は手で三角形を作り、意識を集中させた。そのままブツブツと呪を唱えると、その手の中に小さな青い炎玉が出現した。硬球の大きさのその炎玉を手に持つと、

「行けえええええ!」

 力を集中させ、そのまま楓馬に向けて投げた。球は恐ろしい速さで、楓馬のいる壁を襲った。

「ダダダダっダーン!!!!!!!」

 辺り一帯に凄まじい轟音と振動が起こった。

 少年はニヤリと嗤った。爆風の粉塵煙が消え去ると、壁の一部が大きく崩壊していた。それは今までの威力とは比べもにならない破壊力だった。少年は満足そうに思った。これで入学に必要な『課題』をひとまずはクリアか。ちょろいもんだな。あんな無防備に印を晒してる奴がいるなんて少年は思っていなかった。あとは楓馬あいつの印を転写すればいいだけか。少年はだるそうに、ふわりと宙に浮くと、そのまま楓馬のもとへと飛びたった。


 ◆  ◆  ◆


「いててててて……」

 楓馬はこわごわと目を開けた。上を見ると、崖の一部が見事に崩壊しているのが分かった。まだバラバラと瓦礫が落ちてくる。あんな所から落ちたのか。もしかして俺、死んだ?楓馬は恐ろしくなった。えっ!あんな間違って届いた入学通知書なんて信じなきゃよかった。親父の口車に乗せられて、命を落としてたら意味ないじゃないか。身を立てるだの、チャンスだの、甘いこといいやがってえええええ!親父の馬鹿野郎おおおおお!俺を焚きつけやがって。楓馬は自分が死んだと思って、ひとしきり親父を罵った。あー本人にぶつけられなくて尚更イライラするわ……。と、そこで自分が宙に浮いていることに気づいた。

 なんで?

 するとそこに「ふふふふふ」と笑う声がした。楓馬は辺りを見回した。

「あとは親父さんに言うことないの?」

「?????」

「なんなら僕が届けてあげるよ。親父さんに君の声を。だからもっと言いなよ。ほら早く」

「誰だ、お前?」

 楓馬の前に、ふわりと黒髪をお団子にまとめた青い目の少女が現れた。

「僕はルールー。君を助けてあげる。僕のミッションは戦闘部から君みたいなのを守ることにある。誰か一人を守りきればミッション終了!」

「ミッションって何だ?」

 ルールーと呼ばれる少女は、怪訝な顔をした。

「君、入学案内書を読んでないの?」

「読んだ。読んだけど、殆ど意味が分からなかった。でも一応全部読んだ。分からない所は村の皆にも聞いた」

「じゃあ知ってるだろう。学校に行く前にミッションを遂行するようにって」

 楓馬はしばし考えた。そんな所あっただろうか……。

 そこにまた空気を切り裂くビュッという音がした。二人は咄嗟に身構えた。

「まずい、戦闘部の奴だ。君を狙ってた奴」

 楓馬はゾワリとした。この山を越えれば玄陽の町に着く。朝早くから山道をひたすら歩いていた所を、楓馬は突然襲われたのだった。最初は動物か何かが木の実などをぶつけてきたのかと思って気にも留めなかった。しかし気付けばあの崖まで追い詰められていて、そこで足を滑らせ落ちそうになった所を必死で壁にしがみついていたって訳だ。

 崖から落ちる瞬間に目にした顔を、楓馬ははっきりと思い出した。銀髪の妙に色っぽい奴だった。見た目が甚だしく気に喰わない野郎だった。が、そんなことよりも意味なく襲われてただただビビッていた。しかし今は違う。大雑把に状況を理解した楓馬は、腹の底から沸き上がる怒りを感じた。やってやろーじゃねえか!

「じゃあ俺は命を狙われてるってことなんだな」

 楓馬の目が殺気だった。ルールーは先ほどまでの阿保っぽい楓馬と雰囲気が違っている事に気づいた。

「う、うん」

「で、お前は俺を助けてくれるんだな?」

「う、うん」

「で、お前は何が出来る?こうやって奴の攻撃から防御してくれるって訳か?」

「うん。取り合えず僕はまだ呪術が弱いから、君をシールドで包んであげることしかできない。でもその膜があれば、君は自由に浮かんでられる。楓馬はそれを聞いてニヤリと笑った。

「そりゃいいぜ!俺も空を飛べるのか。ならいっちょやってやろーじゃないの!!!!!!行くぞぉおおおおお」

 楓馬は背中にさしてあるブーメランを手に取ると、こちらに向かってくる銀髪の少年めがけて思いっきり放った。



※次回で序章が終わり、1章が始まります。

※とにかく1章までは書きますので、お読みいただけると嬉しいです。

※誤字脱字ありましたら、教えて頂けると幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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