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序章 ①

「ん!?」


 楓馬は、手紙を受け取って絶句した。

 上質な紙に、赤い龍の印で封をされていた。宛名には『趙楓馬ちょうふうま 殿』と、黄金のインクで書かれていた。


「なんて達筆なんだ!!」


 こんな手紙、十六年の人生で貰ったことがなかった。感激だ。一体誰からだ?

 と、裏を見てみる。と、目を疑った。そこには『玄陽げんよう王立呪術高等学校』と書かれているではないか。

 楓馬は、震える手で、開いてみた。すると、封の中から流れるような達筆の文字が飛び出してきた。それは音声を伴って、楓馬の目の前に表示された。


『合格通知書

 あなたは、今年度の玄陽王立呪術高等学校入学者の選抜試験に下記の通り合格しました。つきましては、同封しました入学手続き書に従って入学の手続きを行ってください。手続きを完了した者は入学を許可いたします。

 玄陽王立呪術高等学校』


 驚きである。と、同時に疑問が。なんで?????

 王立の呪術学校がどんなに凄い所で、どれだけの狭き門かも、この国で知らない者はいない。誰もが呪術師は選ばれし者だと理解していた。近頃は『才』がある者がなかなか現れなく、それだけ希少性が増したとも聞いていた。

 というのも呪術学校に選抜されるには、才能がなければならないからだ。呪術の才能というのは、誰が見ても明らかに分かるものだった。物を宙に浮かせたり、消せたり、傷を癒したり、飛べたり、時間を止めたり、ことごとく物理の法則を打ち砕く技だから。


 楓馬は村の集会所でのことを思い出した。息子が呪術師になった母親が自慢げに話していたことだ。「うちの場合は、五歳の頃だったのよ。家が揺れたり、鏡が割れたり、とにかく物がよく壊れたの」そして気付いたそうだ。「うちの息子には才能があるんだわ」と。その才は十三歳頃までに怪奇現象という形で現れるようだった。


 楓馬は、しばし考えてみた。

 ……うむむ…………うむむ………………思い出せない。才能を発揮したことを思い出せない。

 そこに突然、親父の声が響いた。

「俺も一度も見たことないわっ!」

 楓馬は『わっ』と声をあげた。

「驚かすなよ」

「お前ずっとブツブツと独り言唱えてたぞ。丸聞こえだ。何だなんだ?」

 と、親父は入学案内を取り上げペラペラと見る。

「ほー俺の息子が呪術学校とはな。信じられんな」

「本当は俺にも才能があるのかもしれないよな。まだ発揮されてないだけで。本当は一度くらい見たことあったりするんだろ?どうなの?」

 楓馬はゴクリと唾を飲み、親父の言葉を待った。

 親父というと、鼻をほじほじしてから、楓馬の顔をじっと見つめて、

「ない!!!!!」

 そう言い放った。

 がっかりだ……激しくがっかりだ。人生の片道切符を手に入れたと思ったのに、これではただの紙屑じゃないか。

「やっぱりなあ。なんでこんな手違いが起こるんだよ」

 楓馬は、親父から書類をふんだくると、それを封筒にしまった。

「なんだ、行かないのか?せっかく入学してもいいって言われてるのに」

「これは間違えて送られてきたんだよ。才能がないのに行っても追い返されるだけだろう」

 親父は呆れた顔をして、楓馬を見つめた。

「お前は馬鹿だな」

「はあ?だってそうだろう」

「どうしてそんなに馬鹿正直に結論を急ぐ。来てもいいって言われたなら行ってみたらいい。あっちが言ってきたんだ」

「追い返されて戻ってくるだけだ、嫌だよ」

「これはチャンスかもしれないぞ。どうする?」

「どうするって……」



 数日後。

 楓馬は、村の皆さまに見送られて、玄国げんこくの首都である玄陽げんように向けて旅立った。父親は誇らしげに息子の旅立ちを見つめていた。



※読んでいただき、ありがとうございます。

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