4.変わり始める何か(本編6あたり)
群衆男子視点
その日登校してきた青柳は明らかに機嫌が悪かった。
張り付けたような笑顔の中で目だけが苛立ちにぎらぎら光っている。
……朝からついてない。どうせそのあたりでウザいのにでもつかまったんだろう。
この状態の青柳は憂さを晴らすように踏み込んで大きく一振りするのが定番だ。固まり具合にもよるが、それで大体クラスの三分の一くらいが死ぬ。
……あの辺のやつらが今回は死ぬな。
机に頬杖をついたまま思う。
そのなかにはあの記憶飛びも入っていた。
殺されかけているのにも気づかず、あいかわらず青柳をガン見している。
青柳は大きく一歩を踏み込……まずに立ち止まった。
「……ん?」
しばらく何かを探すように視線をさ迷わせていたが、ふと眉間にシワを寄せる。不機嫌な顔のまま、すたすたと自分の席まで歩くと椅子に座って机の上に突っ伏した。
そのまま動かない。
……殺、さない?
初めての事態にしばらく固まる。
こんなことは今までなかった。
……何かの気まぐれか?
だが、これ以降もいつもなら殺す場面で殺さないことが増えた。
気がつけば一ヶ月以上誰も死んでいない。
異常事態だった。
その異常事態を引き起こした原因は、今日もなんにも気づいていない様子で青柳を観察している。
『青柳が目元をなごませる』とか知るわけがない。
それはお前がガン見してる時だけだ。
青柳は視線には気づいても本人がどこにいるかまではわからないらしい。
だから群衆全体を殺さないようにしている。
ここのところ群衆が殺されなくなったのは、青柳があいつを殺さないようにしている単なるついでだ。
だがそれで死亡率が下がるなら願ったり叶ったりだ。
あいつを守るのが、全体を守ることにつながるかもしれない。
一応、放課後どこに行ってるのか見ておいた方がいいだろう。
そんな軽い気持ちで、図書室についていった。




