31.群衆たちの会話
翡翠視点
学園のお昼休みが始まった頃、緑川様から一緒に石をいただいた虎目さんと鷹目さんが話しかけてきました。移動教室の帰りに通りかかったようです。
わたしの席の近くに椅子を持ってきて話していますが、お二人とも違うクラスなので、いまだに少し緊張します。
「おれら一緒に石もらったけどさ、多分名前登録されるのは翡翠が一番先だよな」
「それは……どうでしょうか……」
「絶対そうだって。休みの日の商談とかずっと一緒じゃん。学園でも社長が来てるときは昼休みとか放課後もずっと呼び出されてるし。
正直おれらは目隠しって感じすごいあるもんな」
「まあ、おれらが隠密系っていうのもあるけどねー。情報収集と伝達じゃ色付きに名前呼ばれる機会もそうないし」
「むしろ気づかれないことこそ、おれらの利点!」
「拾ってもらえただけでも充分ありがたいし、この感じなら時間はかかるだろうけどおれらも名前登録してもらえそうだし。宝くじ当たる以上の幸運っていうのは間違いないけどねー」
灰青色の石がついたネクタイピンを大切そうになでながら、鷹目さんが言います。
「そ、そんなことは……ないと思います……」
「いや、だってさ、絶対違うもんな」
「なんていうの?名前呼ぶときの声がもう、深いっていうかなんていうか。呼んでるの聞いてるだけで、むずむずするもんねぇ」
「青柳とあの記憶飛びだって最近いい感じだし、こっちももしかしたらって期待してるんだけど」
からかう様子ではなく好意的な視線を向けてこられますが、わたしは首を振りました。
「……緑川様は、群衆のことをよく、ご存知ですから。そういうことにはならないと思います……」
あの方は、わたしたち群衆をそれぞれに特性がある存在として必要としてくださる、色付きの中では稀有な方です。
だからこそ、あの方がわたしを選ぶことはありません。
まだ何かを言おうとお二人が口をあけた時、コンコンとノックの音がしました。
音がした方を見ると、開いたままの引き戸に寄りかかるように緑川様が立っています。
「翡翠、ちょっと来てくれるかい?」
「は、はいっ」
お待たせしないように仕事道具を抱えて緑川様のところに向かいます。
「虎目、鷹目、きみたちもおしゃべりはほどほどにね?」
「はいっ!」
緑川様の声にお二人は思わずといった様子で椅子から立ち上がって頭を下げました。
*
こつこつ、ぱたぱたと二人分の足音が遠ざかって、やっと頭を上げる。
「……こわっ」
「全然違うよねー」
二人で顔を見合わせる。
「……実際さ、群衆と色付きが、なんてありえないのはわかってるけどさ。社長なら何とかしてくれるんじゃないかなって思っちゃうんだよな」
「おれらのことちゃんと人扱いしてくれるしね」
「……無理でもさ。期待するくらい、いいよな」
「……とりあえず地味に仕事きつくなりそうだから肉食べよう」
「社長の笑顔も怖かったしな」
今日はからあげにするかハンバーグにするかしゃべりながら食堂に向かう。腹が減っては仕事はできないのだ。




