3.記憶飛びの出現
群衆男子視点
二ヶ月ほど経ったある日。青柳が二時間目が終わった後、教室を出ていったまま帰ってこなかった。
やる気はまったくないが、毎日教室に来て授業を受け続けた青柳には珍しい。
次の日も、その次の日も青柳は二時間だけ授業を受けてふらっと消える。
放課後、青柳の荷物を回収しに来る従者に聞いてみたら、あまりにも群衆を殺しすぎるのが問題になったらしい。ウザいやつとの接触を減らすために、教室にいなくていい措置を従者がもぎ取ってくれたんだそうだ。
正直ありがたい。
おかげで死亡率がかなり減った。
それでも時々ウザいやつに青柳が絡まれては教室の人数がごそっと減る。だが、なんとか半分くらいは常にいるかな、というくらいの状態で夏休みを迎えた。
二学期が始まっても状況は変わらず、『記憶飛び』もあいかわらずぽろぽろ出る。
そんな状況の九月半ばだった。
あの『記憶飛び』が出てきたのは。
完全に記憶が飛んだあいつは妙なやつだった。
なにしろ、おれたち群衆は死んでは戻るをくりかえしながら生きていくのが当たり前なのに、一度も死にたくないと言う。
死なないことを前提に将来の話をし、死なないために色付きを観察する。
記憶が完全に飛ぶと、ここまでぶっ飛んだ思考になるのか。もう笑うしかない。
最初に保健室に連れていったせいかよく話すようになったそいつは、集中するとまわりが見えなくなるらしい。
本を読んでいるときは青柳がそばを通りすぎても気づかない。色付きの観察も本人は隠れているつもりらしいが、ガン見しすぎて思いっきり目立っている。
生き延びるために必死だけど、どこか抜けている。
面白いやつだけど、あんまり長生きはしそうにないなと思いながら見ていた。




