23.クーラーとペンケース(本編12の裏側)
群衆男子視点
最近暑さのせいであいつはだいぶん、へばってるらしい。
今も英語の課題をさっさと終わらせて机の上に伸びている。
自習だからって気ぃ抜きすぎだろ。隣に青柳もいるんだぞ。
「暑い……」
あいつがつぶやいたとたん、青柳が立ち上がった。
そのまますたすたと教室を出て行く。
「一応授業中なんだけど……」
「そんなんあいつに言うだけ無駄だろ」
話しているうちに天井のクーラーが作動した。
「早いな……」
空調が入るのは毎年六月からのはずだ。
出て行ったタイミングからして青柳の仕業だろう。
あいつは気持ちよさそうにしていたが、あくびをしてそのまま机の上で寝てしまった。
戻ってきた青柳は机の上で気持ちよさそうに寝ているあいつを見て少し驚いたように立ち止まった。
そのまま自分の机まで歩いて、音がしないように慎重に椅子を引いて座る。
まあ、あいつ最近暑くてまいってたからな。
……だからって休み時間まで爆睡とか何考えてんだ。
青柳の『授業中は群衆を殺さない』っていう謎の自分ルールが適応されんのは授業中だけだぞ。最近平和だからって気ぃ抜きすぎだろ。
あいつを起こそうとしたら青柳ににらまれた。
青柳は頬杖をついたまま、見たこともない穏やかな顔であいつの寝顔を見ている。
なんとなくその様子を見ていると、青柳がふと顔をしかめてあいつに向かって手を伸ばそうとした。
……ヤベえだろそれは!
とっさにペンケースをおもいっきり床に叩きつけた。
ガシャンと大きな音がする。
「……うるさいな。彼女が起きちゃうじゃない」
そうだよ。起こそうとしてんだよ。
「自分の力考えろよ。死ぬぞ」
……うおーヤベえ。めちゃめちゃイライラしてんな。
あいつを挟んで向かい合ってるから、巻き込む可能性考えて攻撃はしてこないとは思うけど。
機嫌の悪い青柳とにらみ合いながら考える。
もし青柳が攻撃してきたら、こいつを椅子から引きずり下ろしておれが盾になるのは間に合うか?
「……次から気を付けなよ?」
青柳がふいっと目をそらして席に戻る。
……っと、首の皮一枚つながったな。
その後はあいつが起きるまで特に何をするわけでもなく自分の席で座っていてほっとする。
寝てるあいつを注意しようとして思いっきりにらまれた先生は気の毒だったけど、おれにはどうしようもない。
やっと起きたあいつはなんで起こしてくれなかったの?という顔でこっちを見てきたけど……のんきすぎるんだよお前は。
「お前ほんっとさあ、普段警戒心強いくせに時々無防備になんのやめろよ」
この状況じゃ、まだまだ月草の部下にはなれそうにないな。




