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17.商談

緑川視点

「パソコン女子はいますか?」

 二年一組の教室を訪ねれば、同じような群衆たちの中からノートパソコン一式を抱えた女子生徒が歩み寄ってきた。

「今日は早速、書記をお願いするよ」

 始業式の今日は比較的時間がある。

 いくつか経営している会社のひとつにちょうど商談があったので、彼女の能力を試すために学園の応接室で対応することにした。

 彼女を帯同(たいどう)したが相手方は何も言わなかった。ひっそりと気配の薄い彼女は背景にとけこんで見えているのだろう。


「これでは予定数の八割以下です。少なすぎではありませんか?」

「いやー原材料の高騰(こうとう)が続いておりまして。こちらとしても今の価格ではこの納品数がいっぱいいっぱいなんですわ」

 しばらく話し合いが続き、そろそろ終盤というところで横から小さくそでを引かれた。

『示された数値が実際の仕入れ価から割り出した数値と一致しません。おそらく下請(したう)けの群衆に支払うべき報酬を中抜きしていると思われます』

 読み終わったタイミングで画面が切り替わり、いくつもある原材料の仕入価の変動のグラフとそこから導き出される納品数が示される。

 これが本当ならずいぶんと溜め込んでいるようだ。

「……そうですか。お話よくわかりました。検討しますので後日連絡します」

 今日商談をまとめたかったのだろう。食い下がってくる相手を笑顔で退(しりぞ)ける。

 商談相手が扉の向こうに消えてしまったのを確認してから、彼女に向き直る。

「きみの言うことが正しければ、由々(ゆゆ)しき事態だね。だが、あの会社の顔の広さは魅力的だし、製品の精度が高いから切りたくない。

 ……どうすればいいと思う?」

 (たわむ)れに聞いてみれば、ノータイムで返事が返ってきた。

『下請けは傘下(さんか)の工場を使うように圧力をかければよろしいのでは?』

「それで資金は回収できるだろうけれど、精度の低下は免れないよ?」

『146鉄工所は吸収なさればよろしいのでは?』

「……どうして下請けの名前を知っているんだい?」

 先程の話し合いでは全く触れられなかったはずだ。資料にも下請けの名前まではない。

『調べました。群衆にまで適正な報酬をというお考えは素晴らしいですが、届かなければ意味がありません。ちなみに実際に予定されていた報酬が支払われた場合の納期と製品内容がこちらです』

 見せられた資料によれば納期は倍以上早く、製品の量は二割増しだ。

 品質が変わらないのには現場の職人の工夫と努力が見て取れる。

「……そんなものをどこから入手したんだい?」

『外にいる者に確認させました。改めて裏付けは必要でしょうが、まず間違いないかと』

 今の間にどれだけの仕事量をしているのか。しかも書記を片手間にこなしながらだ。

「……きみの能力は素晴らしいね」

『ありがとうございます』

 こんな稀有(けう)な人物が埋もれているのを見逃していたなんて。

 彼女をよこした人物には感謝しないといけないな。


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