15.群衆女子の訴え
群衆女子視点
「むむむむ無理です無茶です」
「って言っても今回の適任お前だし」
「だっ、だからって、わたしに交渉は、無理ですよう……」
自分が苦もなくできることだからって、誰でも同じことができると思わないでください。
「こんなの作れるくらいなんだから楽勝だって」
そう言って彼が見せてきたのはわたしが作ったアプリです。
指定したラインの会話の中から特定の場所を拾い上げて地図上に表示するもので、今日の青柳様の食堂襲撃の時にも使っていたものです。
……今回の場合なら、校内の見取り図に青柳様が通るであろうルートを赤く表示し、ラインの会話の中から避難結果を抽出して場所ごとに○×で示しました。これによって一目で避難状況がわかります。
指示を出しながら状況を確認しなくてはならない彼が使いやすいように作ったアプリです。
使う相手に合わせて情報を集めたり整理したりがわたしの本分です。
指示をしたり交渉したりはまったく別のスキルです。
「すっ、スキル外のことを、させようとしないでください……」
人間には適材適所というものがあるのです。
「つっても次の最年長お前だからな?これっくらいできないと」
……ああ、なんでこんなことに。
青柳様が一番荒れていた時期におたふくかぜをひいて一週間以上休んでしまい、生き残ってしまったせいです。
「このままウザいの放置してたら青柳がキレんの時間の問題だぞ。せっかく落ち着きかけてたのにまた逆戻りさせてたまるかよ。ここが踏ん張りどころだからな」
……交渉なんて向いてません。でもこのままで彼が死んでしまったらわたしが他の人たちに指示を出さないといけません。
そんな体制を彼が作り上げてしまったからです。
他の人の命運を握って指示なんて絶対にできません。
「……いっ、いつなんですか?」
「緑川先輩の従者に話通してあるから。明日のクリスマスパーティー後に生徒会室な」
「いっ、いつの間に従者の方の連絡先なんて……」
「緑川先輩の年上の従者いるだろ?」
「あの、糸目の人ですか」
「そう。あのひょろっとした兄ちゃん。
……去年さ、全館禁煙になっただろ。そんときにタバコ吸いたそうにうろうろしてたから用務員のおっちゃんが隠れて吸ってるとこ教えたんだよ。それで仲良くなって連絡先交換した」
「……そういうところですよ。なんなんですかそのコミュニケーション能力」
「こんなの普通だろ?」
「一緒にしないでください……」
「まあ、大丈夫だ。お前なら殺されることは絶対にない!」
そう太鼓判を押されても泣きそうです。
ですが、この状況で生き残ってしまって指示を出すことになるのなら、スキル外のことをやる方がましです。
……これは交渉じゃなくておつかい。言われたことをやりとげればいいんです。がんばりましょう。がんばりましょうわたし。




