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哲学的ゾンビと理知的ゾンビ・ローレル

作者: 灯台デモ暮らし

私は生まれたての死人だ。たった今蘇ったゾンビだ。人々はゾンビを忌み嫌う。ゾンビが人に噛みつけば、その日とも死んでゾンビになる。そうやって鼠算式に数が増えて、五年前には国が壊滅するほどの大事件が起きた。その名もキバナコス事件。キバナコスという町を中心にゾンビが他の町に広がり出た。

国の三分の一程が被害を受けたとき、他国の力を借りて、何とかゾンビたちを殲滅した。ゾンビたちはもう、二度と動かなくなるように、頭を潰されすべて火葬された。そうして世界からゾンビは消えたはずだった。

しかし、私は死んだ後こうして蘇った。何故蘇ったのか?それすらも分からない。

本来ゾンビに自我はない。死んでからは見るものすべてに喰らいつく猛獣だ。家族も友達も関係なく、みんなみんな食べてしまう。人間を一人残らずこの世から消し去る知能のない害悪な世界の掃除屋だ。

それにもかかわらず私は思考することが出来る。感情があって、理性がある。人を食べたいとも思わない。私はゾンビじゃないのだろうか?

自分についてどうこう考える前に、もっと考えるべき重要なことがある。この国においてゾンビは国を壊滅させかけた危険生物。見つかれば、私も処分されるだろう。頭を潰され、焼かれて、今度こそ私は本当の死を迎えるだろう。

だが、私は一般的なゾンビと違って理性がある。自我もある。感情もあるし、思考もできる。きわめて理性的なゾンビだ。ゾンビが危険視されているのは、自我もなく人を襲い続けるからだ。ならば、自我もあり、人を襲おうとも思わない私は処分対象にはならないのではないだろうか?

そう思うと、途端に私は嬉しくなった。すでに死んでいるから、人間の寿命から解放され、食欲や睡眠欲からも開放された自由な存在だ。それでいて、自我も理性もある。生きていたころの普通の生活に戻ることもできるのだ!なんと素晴らしいことだろう。

さっそく私は今いる墓地から、家に帰ることにした。五年前までキバナコスに住んでいた私を引き取ってくれた叔母さん。その叔母さん家族の家、ハナズオ一家の家が私の今の家だ。 

叔母さんの家の扉前についた。嬉しくなって、ただいまー!と、声を上げて中に入る。家にはいつもの見慣れた風景が広がっていた。しかし、誰の姿も見当たらなかった。

二階にいるのだろうか?探しに行こうと思い、二階へ続く階段を上がろうとした時、何か強い衝撃が私を襲った。

それが銃で胸を撃たれた衝撃だと気づくのに数秒の時間を要した。

「……ローレルが蘇った……。ローレルがゾンビになって戻ってきたわ……!」

「だから言ったんだ!キバナコスの生き残りは頭を潰して、焼き尽くすべきだと!毒なんて盛って下手に殺すからだ!」

「気味が悪いわ!早く!もっと撃って!あいつが私たちを襲う前に!!」

幸い痛覚が死んでいるのか、痛みを感じることはなかった。

なのにも関わらず、胸がズキズキと締め付けられるように痛かった。

身体じゃなくて、心が痛かった。ハナズオ一家は、キバナコスの生き残りである私を疎んでいたのだ。

ユリア叔母さんに、コスモおじさん、同い年のキミィが何かを大声で叫んでいるが、私の耳には聞こえなかった。

キバナコスの生き残り。それだけで殺されたのだと、私は知った。何も悪いことをしたわけでもないのに、ただ生き残りだから、気味が悪いから、という理由だけで。

どうして?私は存在していたら駄目なの?なんで?理性もあるのに、なんで?

ぐるぐるぐるぐると頭の中をいろんなことが駆け巡る。ただいまだって言った。私が喋ってることから理性があるともわかっているはずなのに。なんで?頭が重い、もう何も考えたくない。

私は幽鬼のように立ち上がり、叔母さんたちに近づいた。

「く……来るな……ッ!」

「早く撃ってよ!あいつが近づいてくるわ!」

「弾が……弾がうまく入らないのよ……ッ!」

キバナコスの生き残りだという理由だけで殺した。私が理知的なゾンビであると分かっても尚殺そうとしてくる。

深く私のことを考えようともせず、気味が悪いから、怖いから、そんな理由だけで私を殺し、今も殺そうと襲ってくる。

それはまるで——

「あんたらの方が……ゾンビじゃないか……」

深く思考せず、人を襲う生き物がゾンビなら、彼らもゾンビなはずだ。ならばゾンビはもっとゾンビらしく、生きるべきだ。

「くっ!くるなっ!」

「早く!早くしてよ!」

「きゃ、きゃあああああああああ!」

私はパニックに陥り、逃げることも出来なくなった彼らをかみ殺した。


そして彼らを本当のゾンビにしたのだ。




授業で書いたショートショートストーリー。個人的にはオチが一番気に入っている。

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