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#1『世界を変える少女の冒険譚』

 とある世界にとある『人』がいた。


「私は世界を変えたい。」


 彼女が世界を変えようと決意した、その日。世界は生まれ変わったのだ。想いは力となる。そしてそれは『魔法』という概念になったのだ。彼女は世界を変える術を得た。


「この力なら……!」


 最悪と呼ばれた魔王は退治され、荒れていた部族争いは終息した。国の政治は安定し、魔王を操る獣『魔獣』の鎮静化も果たした。次々と世界を襲う天災、人災を終わらせていった。


「ここまで来るのに三十年。」


 既に彼女は三十年の月日を世界を変えるのに費やしていた。この世に生まれて四十と五年。人を魅せるその美貌は変わらないが、年齢による衰えは隠せなかった。


「でも次の敵はまだいる。次の敵は――――。」


 新たな敵はすぐそこにいた。彼女が夢を見た時、その敵は現れた。


『やあ、――――。よくも我々の使者を幾度も幾度も滅ぼしてくれたものだ。だが、次は無い。次は我々の番だ。『神』を相手にして勝てると思うな。『魔法』という力は誰から与えられたものか、考えてみることだ。我々にその力は通用しない。所詮、人間とは神の元にひれ伏すものなのだ。では、来る時を楽しみにしているよ。』


 そして、夢は覚める。いつまでもその声は頭に響いていた。彼女はそうして明確に敵を認識した。


 数年後、彼女がこの世に誕生して五十年が経過した頃、異なる世界に仲間と共に訪れていた。『神界』。神々が住まう世界。一人では到底太刀打ちできないと考えた彼女は自ら育て上げた仲間とこの世界に乗り込んだ。


 その後は激戦であった。人間も神々も大勢滅びていた。満身創痍の両者はこの戦いの結末が分からなかった。人間達は『魔法』という力を失われた状態で武力のみで対抗していた。神々はいつの時も余裕綽々であった。だが、人間達には予想外の存在(イレギュラー)がいた。


 彼女(イレギュラー)はとある神から受け取った『神滅剣(シンメツケン)』を手に神々を次々と滅ぼしていた。全滅を恐れた神々は交渉することにした。


『やあ、――――。』


 そう脳に直接語り掛ける。彼女は慣れていた。特に驚きも見せずに話を聞く。


「何ですか……。」


 神に聞く耳はもたない。彼女が長年の経験から培った知識である。だが、この時ばかりは彼女も疲弊していた。素直に話を聞いた。


『互いに疲弊しているこの状況は我々としても大変痛ましいものである。そこで提案だ。和平を結ばないだろうか。』


「状況としてはこちらの方が優勢。わざわざ私達が譲歩する必要はない。」


『確かにそうでしょう。我々が譲歩しましょう。無条件降伏です。すべての人間と共にお越しください。そうであれば、敵地へ来るのも良いのではないですか?』


 彼女は仲間を信頼していた。だからこそこの条件を呑んだ。


「ですが、私達は完全武装で行きます。」


『勿論だとも。無条件降伏なのだ。もはや神と呼ばれる存在は三柱のみだ。そちらへ訪れることができないのは申し訳なく思っている。』


 口の良い神々の事だ。恐らくそこで私達を仕留めるつもりだ。そう感づいていた彼女は最大限の注意を払い、神々の元を仲間と共に訪れる。


「運が良ければ、三柱を同時に倒せる機会だ。」


 彼女の仲間は賛同した。彼女達の仲間は十人もいなかった。


『やあ、いらっしゃい。』


 神が満面の笑みを浮かべると同時に全ては変わった。彼女達は神々の言動と自分達の周囲ばかりを気にしていた。だが、違ったのだ。彼女達が神々の社へ入った時が終わりだったのだ。彼女の仲間は彼女を守るべく、編成を組む。


「――――だけでも守り抜け!!」


 健闘した。奮闘した。だが、結果は惨敗だった。残りは三柱だったのだ。もう少しで彼女の目的は果たされるはずだった。『魔法』を神々によって使えなくされていた彼女は『神界』から何の手段もなく、飛び降りた。どうにか『滅神剣』の力で落下速度を抑え、地面と衝突することは無かった。


「もう戦えない……。」


 彼女は神々の思惑に乗せられ、『魔法』は使えず、『滅神剣』も最早、神を殺せるだけの力を残していなかった。神々と戦う手段は潰えたのだ。


「――――様。」


 彼女はこの世界では勇者だった。英雄だった。女王だった。救世主だった。賢者だった。だが、彼女はそれの一つも自称していない。ただ周囲の人間達がそう呼んでいただけだったのだ。


「ごめん……なさい。私は世界を変えるって言ったのに……変えられなかった。仲間も失った。私は……無力だった。」


「――――様。」


 周囲の人間達はそれは違う、と知っていた。体感していた。だが、その言葉は彼女には届かない。彼女は理想家(アイディアリスト)であった。子供の頃の夢をまだ見ていた。世界はそんな彼女に慈悲を与えるほど優しくなかった。


 そして、彼女はどこかへ去って行った。誰も知らない地へ、沢山の事から逃げるように。


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