ショコラの道も一歩から
家に帰るとちょっと冷静になって、顔を洗って気分の問題でワンピースに着替えた。お客様を待たせてお風呂に入るのはどうかと思うし、一緒に入るには早かったので。
ついでにウォークインクローゼットを見てみると、奥の方に更に扉があった。開けようとすると、『レベルが足りません』と脳内ウインドウが表示された。
コラボコスチュームや他にも幾つか見当たらないアイテムや衣装があったので、それがここに封印されているのかも。コスプレ衣装作成の見本にしたかったのに。
セリスも起きていたので、ハズレアイテムのトランプをして遊ぶ。説明が簡単なババヌキ。 でもトランプって前からあるんだって。他の迷い人が広めたんだろうね。
「ふふふっ、いつから私がジョーカーを持っていないと錯覚していた?」
とっくにシャーリーさんから掴まされていたのさ! そしてそれを取りやすいように少しだけ上にしてたら、素直なセリスが取ってくれた。
「きゃー! もう! すぐ返してやるんだから!」
「いえいえ、私は受け取りませんよ?」
おお、後ろで見えないようにシャッフルしてる。セリス飲み込みが早いね!
「あー、そっちじゃないのにー!」
「ふふふっ、もうすぐ上がっちゃいますよ」
セリスがジョーカーホルダーだって分かってたら安心して引けるね。シャーリーさんからサクッと引いてサクッと捨てちゃう。
「次こそはー!」
そんなこと言ってるから、ジョーカーのありかがバレバレなのよ。初心者だね。
「でもこれで揃ったら、ラストカードをクルミさんに渡して上がりですよ」
「えー? じゃあ、クルミと二人っきりで勝負かー。 仕方ないなー、シャーリーさんには悪いけど、二人っきりで楽しませてもらおうかなー」
「早く渡してください、その一番右のジョーカーを!」
「えっ、なんで分かったの!?」
「分かってて引かないでよ!」
こっちに回って来ちゃうじゃない! ああ、セリスもシャーリーさんもホクホク顔なので、無事にジョーカーが渡ったみたい。
まあ、いいや。初心者には負けないもんね!
あっ、一枚だけ低くしてる。これは取りやすいのがジョーカーだと思わせて、逆にこの低くなっているジョーカーを取らせる高等テクニック!
やるね、シャーリーさん!
でも、これを取って揃えば、残りをセリスに渡してあがりなの。さあ、決着の時よ!
私が手を動かすと、シャーリーさんの表情が変わっていく。
高めの札の時はニコニコしているけど、低めの札に来るとちょっと悲しそう。あれ? 低いのがジョーカーじゃないの? 上がり札なの?
もしやさらに高度な心理戦を仕掛けられているのか!? ライ○ーゲームだね!? 嫌いじゃないよ!
考えてみたら、初回から高等テクニックが出てくるのもおかしいかも。高低差はたまたまだとして無視すると、表情からして低いのが上がり札のはず!
とうっ!
「ああんっ! だめーっ!」
なぜ色っぽい声を出すの。セリスがちょっと赤くなってるでしょ。
「これで上がりだー! …あれ?」
「ぷぷぷ、クルミったら、ジョーカーなの! ぷぷぷなの!」
「こらっ、バラしたらダメでしょ!」
むむむ、ジョーカーを取ってしまった。騙された。シャーリーさん、やるね!
「私のジョーカー、取られちゃいました」
あれ、シャーリーさんがションボリしている。
最終局面までジョーカーを保持することで場をコントロールする、ゲームマスターの役割をしようとしていたのね!? シャーリー、恐ろしい子!
「あはは、ジョーカーが回った方が勝負が長引いて楽しいよ」
「あっ、そうですね。じゃあ、またセリスさんジョーカーを回してくださいね」
「い、いやですよ! 私、上がりたいもん」
シャーリーさんに意識が向いたまま手を伸ばしてくるセリス。
甘い、甘過ぎる! トゥー、すうぃーと!
セリスの指先に合わせて手札を動かし、ジョーカーを掴むように誘導する。ふははは、ちゃんと見てないから掴まされるのさ!
「ああっ! 本当にまた来た! 帰って来ちゃったよ、ジョーカー! もう、シャーリーさんが変なこと言うから」
「大丈夫です。また私がクルミさんに渡しますから」
「えっ、何それ、イジメ? イジメ、いくない!」
酷いよー。私何かした? ちょっと涙目になってしまった。
「ええっ!? いえ、長く楽しもうと思いまして…」
「そんな、あえてジョーカーを抜き続けるなんて、ゲームに飽きた末期にやることだよ! まだ一回目だよ!?」
ああ、言ってる間に、またジョーカーがやってきた。くそぅ、シャーリーさんが場を支配している。
シャーリーさん、私、セリスの順にババヌキ序列ができてしまっている。
仕方ない、このゲームは私が終わらせる!
「喉乾いちゃったなー。紅茶でも飲む? あっ、焼き芋取りに行かなくちゃ」
「焼き芋ですか。良いですね」
シャーリーさんが嬉しそうにしている隙にカードを奪う。よし揃った!
「イエーイ! 一抜けー!」
「わーいなのー!」
「ああっ! しまった! セリスさん、そっちの、早くください!」
長い勝負からの脱出を、ココと二人で喜んでいると、セリスがシャーリーさんに瞬殺されて決着していた。
あれ、早くない? 長く楽しみたかったんじゃないの?
「ひ、酷い…」
セリスがシクシク泣き真似をしている。何があったのかな?
「まあ、いいや。私焼き芋掘ってくるね!」
「えっ、焼き芋なんて作ってたの? 私も行く!」
「私も行きます」
別に川原で芋を掘り出すだけなのに。まあ、いいか。天気もいいし、皆で散歩。部屋着にワンピースを着てたけど、狩人に着替える。今度はハズレのスリングタイプ。パチンコだね。
今度はシロもついてきたので、シロに乗っていく。二人とは身長差があって、歩幅が違うから私に合わせてゆっくり歩いてもらうのは申し訳ないしね。楽したい訳じゃないんだよ?
動物に掘り返されてないか心配だったけど、石はまだ熱くてお芋さんは埋まったままだった。
私の好きな蜜タップリのネットリ仕上げになっている。料理スキルが良い仕事をしているに違いない。
「せっかく外に出たから、ピクニック気分でここでちょっと食べる? お腹減ってないと思うけど」
「減ってるの!」
あなたはそんなに小さいけど、いつも私と同じくらい食べてるのに、どうしてお腹が空くの?
「甘いのは別腹だよねー」
「さっき甘いタルトタタン食べたじゃない」
「砂糖の甘味と野菜の甘味は違うんですー」
「うふふっ、一本を皆で分けましょうよ」
セリスって結構甘党なんだね。
「飲み物は紅茶と牛乳とどっちがいい? 牛乳もうちの牧場ので美味しいよ」
「「牛乳で」」
「やっぱり、焼き芋には牛乳よね!」
皆に毎朝牧場で貰ってる牛乳を用意する。無加熱生乳を飲める贅沢さ! ブルーベル・フォレスト最高!
「っ! 美味しい!」
「お、美味しいですね、この牛乳!」
すごい濃厚で美味しいよね。こんなの自分で作り出せる牛さん凄い。
「焼き芋、うまっ!」
「アツアツでトロトロなのー!」
「蕩けちゃいますー!」
ココは私の膝の上で、ポロポロ食べかすをこぼしながら焼き芋を頬張っている。たまらん、可愛い! 母性本能がビシバシ刺激されてしまう。お母さん、孫の顔を見せられなくてごめんなさい…
ちょっとセンチになってしまった私を見上げて、ココが首を傾げる。その後ろでシロも真似して首を傾げている。
「どうしたの? お腹痛いなの?」
「大丈夫だよ! 焼き芋、美味しいね」
「うんなの!」
ホッコリしていると、茂みがガサガサと揺れ、大きなキツネが現れた。甘い匂いに誘われてきたのかな。
「あ、あれシルバーフォックスですね。結構珍しいですよ」
「あれは狩ってもいいの?」
あれ、また妖精じゃないよね? あっ、唸って威嚇してるから違うみたい。結構大きいけど、スリングで大丈夫かな。
「良いですけど、すぐ逃げちゃいますよ」
「私、シルバーフォックスって初めて見た! でもクロスボウ置いて来ちゃった。ナイフじゃ無理だろうなー」
「じゃあ、私がやってみるね!」
狐って食べられるのかな? 日本じゃエキノコッカスに感染しちゃうから、近寄るのもダメって言われてるけど。
スリングを強く引く。弾は自動装填。ブルーベル・フォレストは戦闘に関してはとても甘いのだ。辛いのは課金ガチャ。
魔法の弾なのか、綺麗な光の軌跡を残して飛び、シルバーフォックスの頭部に着弾した。着弾するとキラキラ星が飛んでメルヘンというかゲーム的。
脳震盪を起こしてシルバーフォックスが倒れる。致命傷にはならなかったみたい。露わになった胸部、心臓目掛けてもう一発撃ち込む。
「ギャフッ」
しばらくのた打っていたけど、やがてシルバーフォックスは力尽きた。ディールコインが散らばるから、死んだフリも心配しなくて大丈夫。
「お見事です。毛皮が綺麗に取れますから、高価買取可能ですよ」
「やった! でもやっぱり生き物を殺すのって、ちょっと抵抗があるなぁ。やっぱりクルミは農家だね! もしくはレストラン? ハンターは無理みたい」
レベルは上げて、さらなる食材を手に入れたいけど。内職でもレベルは上がらないものかな?
「生き物って言っても魔物ですからね。魔物が増えると、森自体が汚染されて死んでしまいますよ。それにミケミケの毒を作るんでしょう?」
「あっ、ミケミケあったの? 私も使ってるよ! でもどれがそうか分かるように分けておかないとダメだよ」
私の弓矢って矢が自動補充されるんだけど、矢に毒を塗って戻しても大丈夫かな。やっぱり別にしておくか。インベントリから直接装填した方が楽だし。スリングの弾にも付けてみよう。
「これ、鍋でコトコト煮込んだら良いんだよね?」
ミケミケを出して専門家のセリス師匠に見せる。
「うん。刻んで煮込んで、煮詰めるの。ドロドロになるまで。それを矢に塗って乾かして、また塗って乾かす。何度かやったら完成」
家の中で作るのも何となく嫌なので、ついでにここで作ろう。もう一度焚き火しても良いんだけど、ポータブルコンロを使ってみる。コインを入れて鍋を乗せて少しの川の水で煮込む。
「あ、今からやるの? 結構時間掛かるよ?」
「じゃあ、今度にしようかな」
片付けようとすると、鍋の中がグツグツ煮詰まって黒いタールのようになっていた。
「あれ、真っ黒になってる」
「真っ黒なの!」
「えっ、ほんとだ。もうできてるよ、それ」
「えっ、そうなの?」
『クラーレ:ミケミケ由来の毒。神経麻痺、筋弛緩効果が強い。経口では無害』
素晴らしい! 狩りに使えて食べても無害な毒が三分クッキングでできてしまった。
ん? 三分クッキング?
クルミ・マーガレット・ミルク
LV:10
スキル:料理、手芸、農業
魔法:火魔法
装備効果:射撃、毒精製new
あっ、毒精製だって! これのせいか。newってことは、レベルアップで生えてきたのかな? レベル結構上がってるし。名前も戻ってる。良かった良かった。
今気付いたけど、スリングタイプは鷹の目が無いみたい。鷹の目使うほど遠くまで飛ばないもんね。
「普通は半日くらい掛かるんだよ? 何かスキルでももってるの?」
「なんか毒精製とかいうのが付いたみたい。内緒だよ?」
「えー、いいなぁ。公表した方が依頼がいっぱいくるのに」
「クルミさんはハンターじゃありませんからね」
「狩人としても一目置かれるのになー」
「いいよ、そんなの。毒作りの依頼とか嫌だし、大物穫ってくる依頼も恐いもん。美味しい野菜とか、美味しいお菓子の依頼なら受け付けなくもないよ」
ゲームではやらなかったけど、可愛いカフェも憧れる。でも実際は接客業は大変なんだよね。飲食は特に流行り廃りが凄いしね。
「はいはい! 私、クッキーが良いです!」
「あ、私も私も!」
意外にセリスよりシャーリーさんの食いつきが早かった。シャーリーさんも女の子だから、甘いものには目がないんだね。
「良いよー。カボチャのタネを入れたパンプキンクッキーとか作ろうかな。タネが結構残ってるんだ」
「私、チョコクッキーが良い!」
「えっ、チョコ手に入るの!?」
何ー!? レベルを上げてカカオも作ろうと思ってたのに、必要なかったのか。
私はチョコにはうるさいぞ!
カカオって、物によって結構味が違うから、厳選するとフルーティーなチョコができるんだけど、それが滅茶苦茶美味しいの!
あれ食べると有名ショコラティエのチョコが脂っこくて美味しく感じなくなるくらい美味しい。あれがもう食べられないのは悲しいから、やっぱりいつかカカオも自作しよう。
チョコ作りはもちろんスキル頼り。だってテンパリングの温度が分からないし。
純粋なチョコの口当たりや口どけの良さは、カカオバターの結晶構造に依存してて、結晶構造はテンパリングで決まるんだ。テンパリングはカカオバターの結晶構造を変えて、均一にするための手法。
元になるクーベルチュールを定温まで温度を上げて全ての結晶を溶かし、混ぜ混ぜしながらさらにまた違う定温まで下げて、もう一度また違う調整温度まで上げる。ちょっと温度がずれるともう台無し。手作りチョコが美味しくないのはこのテンパリングがちゃんと出来ていないから。
1℃ずれるだけで最初からやり直しになるくらいなのに、温度計がないからまず無理。ショコラティエでも温度計使うからね。チョコレートも物によって温度も違うし。
ショコラティエだと混ぜるときには大理石の台の上で擦り付けながら混ぜていく。このズリ応力がⅤ型ココアバター結晶を効率良く作るのに有効らしい。
Ⅴ型以外は融けちゃって商品にならないか、食べたときに口の中で融けなくてザラザラ、モソモソして不味くなる。
この美味しくないモソモソしてるⅥ型が一番安定してるとも言えるので、古くなったチョコはⅥ型のココアバターが分離して浮き出てたりする。まあ、もう一度テンパリングしたら良いんだけどね。
テンパリングしなくても溶かした状態で何日も混ぜ続ければⅤ型になるらしいんだけど、そんなの無理だし。
テレビでショコラティエドキュメンタリー観てから、チョコ作る人マジリスペクト。あれは大変。
ココアドリンクは昔から現地人が飲んでたくらい、すぐできるんだけどね。
もしチョコがあるなら、どんなチョコか食べてみないと。クーベルチュールなのかミルクチョコみたいなのか。
いやあ、食べ物に関しては熱くなってしまうね。魔物に関しては冷めてますけど。シルバーフォックス回収しとこっと。
「チョコレートって美味しいんでしょ? 私食べたこと無いんだ」
「帝国のお抱え菓子職人だけが作れるそうですね」
「そんなレベルじゃ手に入らないじゃない!」
どうやってチョコクッキーを作れと? まあ、チョコ持ってるけど、在庫に限りがありますよ? ココアクッキーじゃダメ?
「食べてみたいなー。甘くてほろ苦らしいよ」
セリス、ココ、涎出てるよ。
「チョコレート自体は食べると溶けちゃうそうですよ」
「じゃあ、カカオは手に入る?」
「カカオですか? 聞いたことありませんね。ユーリスのギルドに問い合わせましょうか?」
「うん、聞いてみて。チョコレートの材料なんだ」
手に入ったら一度コックさんでやってみよう。
「チョコ食べたいの!」
「あなた今日食べてばっかりよ?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけなの!」
だから耳たぶを引っ張るんじゃないと言ってるでしょ。仕方ないので板チョコを一枚出す。
「もう! チョコはもう手に入らないかも知れないんだから、ちょっとだけだよ」
「えっ、チョコ!」
「えっ、それがチョコレートですか!?」
「そ、そうだよ? 皆で分けて食べてね」
パキッと割って三人とシロにあげる。私は晩ご飯が食べられなくなるから止めておく。
「あああ、あまーい! とろけちゃーう!」
なんか懐かしいギャグを見た気がする。ハンバーグ師匠も嫌いじゃないよ。
「美味しいですね! これは帝室御用達なだけあります」
「タルトタタン、頑張って作ったのに出来合いのチョコでそんなに喜ばれると複雑」
喜んでくれるのは嬉しいんだけどさ。ちょっと悔しいよね。
「も、もちろんクルミさんのタルトタタンの方が大好きです! というか、クルミさん、大好きです!」
「ありがと。私もシャーリーさん、大好き!」
「私、カレーの方が好き! 焼き芋も好き! タルトタタンも好き! クルミも大好き!」
なんかモテ期到来ですね。ちょっと拗ねただけなのに、気を使わせちゃったみたい。反省反省。
「ありがと。セリスも大好きだよ。またいつでもご飯食べに来てね」
「やったー! 私、クルミの家の子になる!」
「ず、ズルいです! 私もなります!」
「あははっ、ありがとう。そんな気を使ってくれなくても大丈夫だよ。二人とも成人してるのに何言ってるの」
「ココとシロは、クルミのうちの子なの!」
「わん!」
「「ぐぬぬっ!」」
見知らぬ異世界にやってきたけど、こんな優しくてお茶目な二人に出会えて、本当によかった。ココやシロ達、可愛い妖精さんもたくさん居るしね。
独りだったら流石に泣いてたもん。
皆、ありがとね!




