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栗拾い

 ジモティのレンジャー、セリスは森の中を良く知っている。栗の木がある場所もちゃんと把握しており、迷うことなく連れて行ってくれた。


 毬栗いがぐりのトゲトゲは踏んづけて割る。中身の栗は野生にしては大きくて美味しそう。


 ココは割れたいがを見つけては中の栗をほじくり出している。


「ところで、今日はドレスじゃないんだね。弓まで持って」


 そうなんです。狩人スタイルなのでパンツルックなんですよ。


「だってまたビッグボアが出たら恐いもん」


 私は張り切って弓を見せた。


「それ、玩具みたいだけど、使えるの?」


 まあ、小さいもんね。


「一応魔法の弓のはずなんだよ。初めてだから、助っ人が居てるときに試射しようと思って」


「そうなの、今やる?」


「ううん、何か獲物を狩るときで良いよ。後でシロに追い込んできてもらうから」


「へぇ! シロって狩猟犬なんだ!?」


「うん、牧羊犬兼狩猟犬、今は番犬も兼ねてるけど」


「ホーンラビットでも狩る? またビッグボア探す? この森でビッグボアなんて見たことなかったんだけど、普通のイノシシはいるよ」


「そうなんだ? 何か恐い生き物とかいないの?」


「うーん、ここはゴブリンも見たこと無いよ。

 魔物はいるけどホーンラビットみたいな小動物くらいのヤツしか居ないと思うんだけど、この前のビッグボアの件があるからねぇ」


 じゃあ、安心だけどレベリングできないね。


「ビッグボアが迷い込んだだけなら良いのですが、各地で魔物が増えているみたいなんです。ヴァルシュタット帝国が魔王発生の可能性があると各国に通達しましたし」


「ええっ、こここ、恐いんですけど!」


「でも今のところ、ローゼリア王国では平和ですよ。魔物自体多くありませんしね」


「ヴァルシュタットで魔物のスタンピードが起きたんでしょ? 魔王がいたら、逆にスタンピードなんて起きないと思うんだけど」


「そうですねぇ」


 魔王がいた方がスタンピード起きそうなんですけど、どういうこと?


「なんで魔王がいたら起きないの?」


「ああ、クルミは魔物がいないところに住んでたんだったね」


「ええっ、そんなところあるんですか?」


「あ、私、迷い人?らしいの」


「ああ、それなら納得です。ココちゃんに連れてこられたんですか?」


「ううん、ココもシロも一緒に連れてこられたの。ま、一人じゃなくて良かったよ」


 本当、独りで転移させられるラノベ主人公って大変よね。私なら淋しくて泣いちゃうね。


「困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」


「私にも言ってよね」


「二人ともありがとう。知り合ったばかりなのに優しいね」


 ちょっと嬉しすぎて泣きそう。こっちから日本に転移してたら、無視されるか精神病院に入院させられるかだよ。


「それで、魔王とスタンピードだけど、スタンピードって言うのは普通に家畜とか動物でも起きる集団暴走のことなんだけど、動物と一緒でボスがしっかりしてたら暴走なんておきないのよ。

 魔王なんて、しっかりし過ぎたボスの中のボスだからね、戦争ならまだしもスタンピードなんてちょっとおかしいのよね」


「そうなんです。単一種族を統べるのがキング、ゴブリンキングとかオークキングなどですね。そしてそのキング達を統べるのがキング・オブ・キングス、魔王なんです。

 人間で言うと世界統一を成し遂げた覇王というポジションなんです。

 人間なら反乱とか暴動とかありますけど、

魔物は基本的に強い者に従う生き物なので、そういうのは起きないんです。

 もし魔王がいたら、余程馬鹿な魔王でない限り、隊列を組んで攻めつつ、各地の魔物にゲリラ戦を仕掛けてきます。スタンピードなんて戦力を消耗させるだけの無駄なんですよ」


 ガ、ガチだ! ガチ魔王恐っ!


「どうもヴァルシュタットはこじつけで勇者召喚をしたかったみたいですね」


「えー! そうなんだ!」


 えっ、セリスが驚くの?


「魔王が居ないのに勇者召喚して何か良いことあるの?」


「さあ? 単純に戦力にしたいのか、本当に魔王がいると思っているのか、はたまた異界の技術を求めているのかもしれませんね。

 それに勇者召喚もあくまで噂ですよ」


 その勇者って私じゃないよね? 私って召喚されて来たの? ビッグボアでオシッコちびりそうになった私だよ? ゴブリン相手でも逃げ出しますよ? せめて勇者じゃなくて聖女にしてください。


「まあ、勇者も魔王も眉唾なんですけど、魔物が増えてきているのは確かなので、注意した方が良いという事です」


「私も一応前回の反省でクロスボウを持ってきたもんね。前回はホーンラビットくらいしか居ないと思ってたから、これ持ってきてなかったんだ。重いの、これ」


 セリスが厳ついクロスボウを見せてくれた。確かに重そうで、私だと狙いがつけられそうにない。


「セリスさん、油断は禁物ですよ? ちゃんと装備を整えておかないと、死んでしまうことだってあるんですから」


「はい、了解であります!」


「ほんと、危なかったもんね! ビッグボア恐かったー」


「あらあら、そんなことでは森に住めませんよ?」


「そうなんだけど、恐いんだもん。シロ、ちゃんと守ってね」


「わん!」


 シロに抱き付いてスリスリしておく。しっぽがパタパタして嬉しそう。


「シャーリーさんって、今は商業ギルドで働いてるけど、元A級ハンターなんだよ。私の憧れの先輩なんだ!」


「えっ、そうなの! すごいね! でもなんで商業ギルドなの?」


「パーティーメンバーが結婚・出産で辞めてしまって、幼なじみだったから新しいメンバーを探す気が起きなくて引退したんです。

 商業ギルドなのは、ハンターギルドだと焦げ付き案件を回されて、結局ハンターすることになるからです」


「そもそも焦げ付き案件ばっかりより、普通に現役で依頼を選べる方が良いもんね」


「パーティーメンバーと言えば、相方さんはまだ帰ってこられないのですか?」


 あ、セリスってソロじゃなかったんだ。


「ああ、アカネね。そろそろ帰ってくると思うんだけどね。

 あ、アカネっていう同い年の女の子とパーティー組んでるんだ。その子シスターなんだけど、今は王都の大聖堂に行ってるの」


「へぇ、シスターとレンジャー? なんかバランス悪くない?」


「そう? アカネ強いよ? それに面白い子だから、帰ってきたら紹介するよ」


 紹介してくれるのは良いんだけど、シスター強いの?


「シスターって後衛だよね? 回復職だよね?」


「ああ、違うんですよ、クルミさん。アカネさんの宗教はかなり武闘派なんです。回復もしますけど、どちらかというと真っ先に先陣を切ってダメージを受けようが回復しながら敵をなぎ倒すんです」


「こ、恐いシスターだね…」


「そうかなぁ。優しくて良い子だよ?」


「クルミさんの地元では、そういうタイプのシスターは居ないのですか?」


「うん、というか魔物が居ないから、そんな武闘派シスターなんていないよ」


「そんなんですか。まあアカネさんの宗派はこの国の宗教の中でも過激な方ですからね。

 でもアカネさんは、明るくて楽しい良い子ですよ」


「高笑いしながら魔物に突っ込んでいくんだ。格好いいよー?」


 戦国武将か! しかしアカネって日本人みたいな名前だ。アカネさんも迷い人なのかな?


「アカネさんも迷い人なの? 私の故郷の人の名前みたいなんだけど」


「違うよ? 昔は迷い人もそんなに珍しくなかったらしいし、この国の建国者だって迷い人だったって言う逸話があるから、似たような名前が残ってるんじゃない?  

 そんな建国経緯があるから、国旗や紋章にも妖精があしらわれてるんだよ」


「へぇ、妖精と近い国なんだね」


「うん、だから皆、迷い人にも優しいと思うよ」


「そうなんだ。じゃあ、隠さなくても良かったの? ココも連れてても大丈夫?」


「迷い人って言うのは隠さなくても良いとおもうよ。自称迷い人なんていっぱい居るし。妖精は見たことないから、ココちゃんは何とも言えないけど」


 自称迷い人が、いっぱい居るの… もしかして、私も自称迷い人のイタイ人だと思われてるのかな…


「わ、私は詐称じゃないよ! ほんとだよ!」


「ごめんごめん、嘘って言ってるんじゃないの。っていうか、銀髪に金眼なんて居ないもの。隠す気なんかあったの?」


 あわわ、バレバレでやんす! 迷い人に好意的な国で良かった!


「そうですね、銀髪金眼は見たことがありませんね。髪の色も染められますけど、銀髪にする染料なんて聞いたことありませんし、金眼はもっとどうしようもないですからね」


「ヴァルシュタットだったら、魔人扱いされて捕まっちゃったりして!」


 あわわわわ! 絶対ヴァルシュタットには行かぬ! そもそも紛争地帯になんてわざわざ行くわけがない!


「私、絶対ヴァルシュタットには行かない。すごく美味しそうな物があっても、行かないからね!」


「私はアカネが帰ってきたら行くかもなぁ。この辺りは魔物が少ないから収入が増えないんだよね」


「だだだ、ダメだよ! ビッグボアに苦戦してたのに、そんなとこ行ったら死んじゃうから!」


「えー? ちゃんと装備があって、アカネがいたらビッグボアなんて余裕だよ? ホーンラビット用の軽い弓じゃビッグボアに効果がなかっただけだよ」


「ダメダメ! そういう油断しちゃう人は行ったらダメ! お姉ちゃんが許しません!」


 セリスったら、子供だからちょっと無謀よね。


「あははっ、お姉ちゃんって、クルミちびっ子じゃん」


「むむむっ、怒ったぞ! じゃあハンティング勝負だ! 私が勝ったらヴァルシュタット行きは無しね! 私が負けたら…な、何もないけど…お、お菓子くらいなら!」


「はぁぁんっ! か、可愛すぎます! 小さな女の子が大人ぶっちゃうとか、友人を心配して勝負を仕掛けるのに、賭けるのはお菓子とか! たまりませんわっ!」


 ずっと黙っていたシャーリーさんが、赤い顔で飛びかかってきて、頬摺りされたり抱き締められたり。


 そ、そんなキャラでしたっけ?


「ほんと、可愛いですよねぇ。こんな妹欲しかったなぁ」


 セリスもホッコリしてないで助けなさいよ! タルトタタンあげないよ!?


 やっと落ち着いてきても、シャーリーさんは私を離さず、ずっと後ろから抱きついている。とても軟らかい物が後ろに当たっております。あなた、ブラしてないでしょ。


「も、もう! シャーリーさん、離れてくれないと栗も拾えないし、狩りもできないよ!」


「あら、本当に狩りをするんですか? じゃあ、栗とクランベリーは私が採っておきますよ。フェアリーベリーはまた今度で。危なくなったら大声をあげてくれたら駆けつけますので」


「仕方ないなー、ハンデいる?」


「い、要らないもん! セリスこそ、私に助けられたのに、そんな余裕ぶってて良いのかな!?」


「んー、このクロスボウならビッグボアも狩れるよ? ヘッドショットすれば一発だよ」


「ぐぬぬっ、わ、私だってシロがいればイノシシくらい狩ったことあるんだから!」


「イノシシは動物、ビッグボアは魔物」


「きーっ! やる、やるったらやるの! ほらっ同時にスタートだよ? 一時間後に此処に戻ってくるのよ!?」


 一時間で何か狩れるのか分からないけど、シャーリーさんを待たせすぎるのも申し訳ない。


「いいよー?」


「よ、余裕ぶっちゃって! シャーリーさんも頭撫で撫では後にして!」


「あらぁ、残念です」


 シャーリーさんの合図でスタートを切ると、あっという間にセリスの姿を見失った。レンジャーのスキルなのかな?


「あら、行かないのですか?」


「私はシロに追い込んでもらうから。シロ、頼んだよ!」


「ばうっ!」


 シロが飛ぶように駈けていく。私が獲物を探しに行っても見つけられる気がしない。待ってる間に栗を拾おう。あの、シャーリーさん、手を繋いでたら拾えませんよ?

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