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第四話 対立

 第四話 対立


「なんじゃお主ら。喧嘩でもしたのかのう」


  食事中、エミリアの機嫌は明らかに悪かった。

  ホフレたちに対しては愛想よく振る舞うが、マルコとは目も合わせようとしない。


「……原因はマルコに聞いてちょうだい。わたし、お祖父ちゃんにご飯を持って行くから」


  傷は快癒したものの、まだ本調子とはいかないダンへ食事を運ぶために、エミリアは席を外した。


「あー。俺が怒らせただけだから、ジジイは気にしなくていいぜ」


  マルコは説明が面倒くさい、と言わんばかりの態度で、右手を左右に振る。


「──マルコ、あなた、まさか……!」


  コラードは切れ長の細い瞳をカッと開いて、拳を握りしめた。


「あ?」


「ダンの娘に手を出したのではないでしょうね。そうだとしたら、ダンの代わりに私が──」


「んなわけねえだろうがよ! ちょっと飲みすぎて、もよおしたから外に行ってきたんだっての」


「敷地内に厠があるのに、どうして村の外まで行く必要があるのですか」


「広い方が開放感があっていいだろうがよ」


「……わざわざ外でしたがるなんて、あなたは変態ですか」


「うるせぇ」


  マルコはこれ以上話すつもりはない、と言わんばかりに、テーブルに肘をついてそっぽを向いた。

  タバコが湿気ってなかったら、一服入れていただろう、そんな態度である。


「ふむ。ではその帰りに、魔物と遭遇したということかのう」


  ホフレの視線を受け、マルコは口をへの字型に曲げて黙り込んだ。


「ふぉっふぉ、あいかわらず、素直じゃないやつじゃて。魔物を狩るなとは言わんが、この地の場合はもっと根本的なところからどうにかせねばならん」


「うっせえ、ジジイ。んなこたァ俺も分かってる。けどよ、このまま見過ごすわけにはいかねぇだろうが」


  マルコにとってはダンは弟分のようなものだ。

  困っているのなら、彼なりのやり方で手を差し伸べるのは、当然のことだった。

  聞き分けのない子供のような態度をとるマルコを見て、ホフレは白く長い顎髭をゆっくりと撫でる。


「マルコ、おぬしはこの地へ何をしにきたのか、忘れたわけではなかろうな」


「忘れてねぇよ。忘れちゃいねぇけど、俺はここに残る。今回の件はジジイ一人でも十分だろ」


  丸太のように太い両腕を組み、大きく股を開いてどっしりとイスに腰掛けるマルコ。

  彼は是が非でもこの場を動くつもりはないと、態度で示していた。


「まあ、マルコ一人抜けたとてどうと言うことはないのじゃが──」


「おいジジイ! 当然のように俺を見下すんじゃねぇよ!」


「七日じゃ」


「あ?」


「村の様子を見るためにも、七日だけ滞在するとするかのう。──そうしたらおぬしにも分かるじゃろうて」


  ふぉっふぉ、と独特の笑い声を上げながら、ホフレはマルコへ頷いた。


「おっしゃ! ジジイ! 珍しく話がわかるじゃねぇか! 腕がなるぜ!!」


  こうしてホフレたちは家主であるダンの了承を得て、七日間だけ村に滞在する事になったのだった。


 ◆ ◆ ◆


「──確かに、あなたたちは、お祖父ちゃんの恩人なんだけど……一体、いつまでいる気なのよッ!」


  おじいちゃん三人組が居座って四日目の朝、ついにエミリアが叫んだ。


「姉ちゃん、じいちゃんの命の恩人に対して、そんなことを言わないで。マルコじいちゃんは、僕に喧嘩の仕方を教えてくれたし、ずっといて欲しいくらいだよ」


  叫ぶ姉に驚きつつも、ジョンはマルコの支持へ回った。


「だから、ここ最近服が余計に泥んこなのね!」


「僕が頼んだんだから、マルコじいちゃんを怒らないでね。自分の服は自分で洗うから」


「……はあ。分かった。怪我に気をつけるのよ」


「おい! エミリア! 俺の下履きを知らねぇか?」


  空気を読まないマルコは、着替えの下履きを探して右往左往していた。


「あー、もう! ここは老人のための集合住宅じゃないのよ!」


  そこまで手はかからない老人達とはいっても、全員合わせて六人分である。

 食事を用意したり、洗濯をしたりと、これまで一人で家事をしていたエミリアの負担は大きくなった。

 ジョンはそんな姉を見て、家事を手伝うようになり、祖父であるダンもまたリハビリがてら家の掃除をするようになった。


「おっと、もよおしたようだ。俺ァちっとションベンに行ってくるぜ」


  マルコは相変わらずのようで、用を足すためにと言って外へ向かう。


「マルコじいちゃん! 僕も一緒に行ってもいい?」


「ジョン!?」


「あー。まあ、ついてくるだけなら構わねぇが」


「仕方ないですね。では、私も連れションと洒落込みましょうか」


「コラードさんまで!?」


  いつの間にか三人で大自然の厠へと向かうようになってしまっていた。


 ◆◆◆


「マルコじいちゃん」


「あ?」


「このこと、お姉ちゃんに言えばいいのに。お姉ちゃん絶対、マルコじいちゃんのことを誤解しているよ」


「あのなあ。いくら勇敢でもお前のねーちゃんは女だ。わざわざ血生臭ぇことを教えてやる必要はねーよ」


「もし万が一、血の匂いがすると言われたら、マルコが血尿だったと言えば、なんとかごまかせるかもしれません」


  コラードがしれっとした表情で、そんなことを言った。


「俺の扱いがひどすぎねぇか!? ……いや、まあ、それはいいけどよ」


  マルコは村の丘を越えた先にある、雑木林の中を見回した。

  あたりには、十を優に超えるであろう魔物の死体が転がっていた。

 

「倒しても倒してもわいて来やがる。認めるのは癪だが、ジジイの言う通りだぜ。こりゃこの辺りの警備をどうにかするしかねぇなあ。せめて定期的に討伐隊を派遣するべきだろうな」


「マルコにしてはまともな意見ですね。いえ、気づくのが遅すぎると言うべきかもしれませんが、気づかないよりはマシでしょうし」


「おい、ちょっと待て。お前も素で俺を見下してくるのかよ」


「当然でしょう。我々がいる間は良いとしても、ずっとこの地に止まると言うわけにはいかないのですよ。ならば本来あるべき姿に戻さねば」


「へいへい。頭が悪くて、悪かったよ!」


「その返しが既に賢いとは……いえ、キリがないのでやめましょう」


「うっせえ! 頭が悪くてもな、強けりゃなんとかなんだよ! そんじゃ、コラード、ジョン! ジジイのところへ戻るぞ!」


  マルコは手にした酒瓶を煽って、村へと向かった。




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