第985話 織田信長と袋田大子城
「なんだ、騒がしいな?」
1631年2月末、冷え込みが厳しい袋田大子城に織田信長はわずかな手勢、森力丸、弥助、そして、隠居した森蘭丸もつれて遊びに来た。
「はい、手紙にも書いたようにまた妖魔が現れましたから」
「ミライアだったな。何度か異国で護衛になってくれた事もあった者だな。悔やみを申す。あとで墓に案内せい」
織田信長は常識人で、ごくごく普通に世話になった者への弔いは普通にする。
袋田大子城の一角に作らせた墓に手を合わせていた。
「・・・・・・若いのに残念だな」
「・・・・・・はい、女子を泣かす世を終わらせるために働いてきたのに、まさか自分の家族が巻き込まれて俺自身が泣くことになるとは・・・・・・」
「常陸様、気落ちなさいませんように」
そう森蘭丸も手を合わせた後言って来た。
「御大将、仇討ちは?軍勢が必要なら息子に申しつけて、下野から出させます。それに、磐城の伊達、上野の真田にも・・・・・・」
「力丸、相手は一人だから。それに狙っているのは俺、そして、信長様、・・・・・・いや、ここにいるみんなかな」
「それはどういうことで?」
「うむ、本能寺の生き残りの我らか?」
織田信長が察したようで一人一人の顔を見ていた。
欠いたと言えば森坊丸だ。
「はい、本能寺の生き残り、それに蘭丸はあの時、一体、いや・・・・・・明智光秀の首を切り落とした張本人ですからね。揃ったなら近々狙ってくるかと」
「いつまでもいつまでもしつこい者よな。儂は面白い物を見たくてうずうずしていると言うのに良い迷惑だ」
「あ~、それなら、明日の朝、うちの城の外堀にしている久慈川を見ていてください。きっと面白い物を・・・・・・ん~綺麗な物は見られると思いますよ。ここ最近冷え込み厳しかったから」
「ん?凍った滝か?」
「あ~そっちもあとで案内しますけど、取り敢えずは城内で過ごして欲しいです。迎え撃つ準備は整っていますから」
「仕方あるまい。面白き物が見られるなら我慢してやる。それと常陸自慢の袋田の温泉を堪能してやる」
墓参りを済ませると、冷えた体を温めようと城の大浴場に向かった。
「なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
普段無口な弥助が、美少女のお股から湯が出てくる湯口を見て絶叫していた。
バードリーを知る織田信長にとっては驚くべき物ではなく、
「これを許した者の顔を見てみたい」
と言いながら風呂を出てきた。
弥助はバードリーの風呂体験していなかったのね。
「ん?安土で会いませんでした?信琴ですよ。この城の差配は、信琴と高琴ですから」
城その物を建てたのは藤堂高虎、装飾は勿論、左甚五郎だが、その装飾を許したのはうちの息子二人だった。
だから所々おかしい。
「・・・・・・信琴か・・・・・・異国文化を誤解しているようでな、安土の町に来たスロベキア王国の職人どもが作りたいように作らせた民衆のための大浴場が酷いことになっていたぞ、誰も入りにこん」
「ん?」
「トマト風呂なんか誰が好き好んで入るか!」
「あ~・・・・・・確かに」
小規模ではあるがガラス温室も各地に作られているため、トマトは一年中収穫されている。
医食同源奨励植物
バードリーはトマトを潰して真っ赤な風呂を楽しむ。
まるで血の池地獄に入っているかのような風呂。
色だけでなくむせかえる酸っぱさの湯気があり、俺も苦手だ。
「それはやめさせましょう。あとで手紙書くか電信しときますから」
「次の旅には子も少しは連れて行け」
「そうなんですよね。約束していたし」
「高琴と交代でもすれば良いであろう?信海も近江大津城にいることだしな。そう言えば、お市と松も来たいと申していたぞ。春になれば来るのではないか?」
「おっ、二人ともまだ元気なのですね?」
「あぁ、雄琴の湯で湯治を楽しんでおるぞ」
「そうですか、なら、こちらでは袋田の温泉を楽しんでいただきましょう」
そう言うと、後ろで黙って織田信長の太刀持ちをしていた弥助が渋い顔をしていた。
まるで渋柿を口いっぱいになるほど囓ってしまったかのような顔だ。
うん、多分お市様と松様なら大笑いして受けると思うけどね。




