第983話 1631年元日『熱田彦常琴』『神之助琴時』
静寂の元旦、底冷えのする袋田大子城では、津々と雪が降る珍しい年越しとなっていた。
初日の出も拝めず静かな朝は、昨年のミライア逝去の痛みで新年の喜びを素直に迎えられない俺たちには、合っていたのかもしれない。
その雪は、まるでミライアの白肌を思い出すかのようだった。
元来喪中には神社参拝を控えるという文化があるため、今日は城内三ノ丸に造られた常磐寺で不動明王に参拝した。
家族達もそれに付いてきて、住職が唱えるお経を静かに聞き拝んでいた。
それが終わると、料理だけは正月らしく、おせち料理を食べ静かな元日が暮れようとしていた。
自室に呼んだ熱田と神産に
「父上様、なにかごようですか?」
「熱田、神産、元服を行う。このようなときなので盛大には祝えないが、名を与える。熱田、『熱田彦常琴』神産、『神之助琴時』とする」
「「はっ、ありがたき幸せ」」
「二人は、陰陽師を目指しているのか?」
「はい」
「はっ、力を付けまして、兄上様のお役にたちとうございます」
二人は胸を張りしっかりと真剣なまなざしで訴えてきた。
「良いことだ。時が来たら、鹿島神宮千日業を受けると良いだろう。それに出羽三山で修験道を学ぶと良い」
アドバイスをすると、
「父上様から教えをいただけないでしょうか?」
常琴が言うと続いて琴時が、
「父上様は誰から教えていただいたのですか?」
「御祖父様だが、おられぬからな、父が常陸の国にいる間には教えられるが、地味だぞ」
「「え?」」
俺の修行は寺社仏閣でお籠もりが多かった。
そして、基礎的体力を神域で高める体力トレーニングと言う修験道に近い物だった。
「取り敢えずは、城内の寺社仏閣でお籠もりを繰り返し、自己の奥にある物を引き出させるのだ。そして、その先にいる高天原の八百万の神を見るのだ」
「・・・・・・己との戦いですか?」
「常琴、その通りだ。神の御力をお借りするためには神を近くに感じないとならない。お前達二人はその域に達していないから結界も弱々しいのだ」
「なら、なぜに父上様は結界を張り直さないのですか?」
そう二人は疑問の目で見ていたが、
「それでは敵が入れなくなる。入れなくなればどこで災いを起こすかわからぬからな、今は迎入れるのだ」
「・・・・・・父上様」
「まぁ、準備は済ましている」
「なんの準備ですか?」
「いずれわかること。二人は兎に角、今は城内での修行を命じる。勝手に御岩の山や神峰の山、筑波の山などへ行くことは許さぬ」
「ですが、それでは修行が」
「琴時、己を見つめる静の修行はいつでも出来る。どこででもな」
「はっ、父上様」
二人は城内の五つの神社を巡っては祝詞をあげ瞑想を始めた。




