第665話 娯楽文化大革命
ジブラルタル城に戻ると、お初が目をつり上げ腕を組み、なんとも不機嫌な顔で出迎えた。
「もっと手紙くらい書きなさいよね。馬鹿、心配だったんだからね」
と、一発の蹴りが尻に飛んできたと思っていたら抱きついてきた。
「ごめんごめん、いろいろ忙しくて」
と、お初の頭を撫でてあげると、にんまりとした笑顔を見せてくれた。
「急に帰ってきてどうしたのですか?」
「うん、学校の生徒達の新しい職の提案と伊達政宗を呼び寄せたくて」
「伊達殿を?」
伊達政宗、俺が知る時間線の伊達政宗は、晩年は巨額な金額を使うほど能にのめり込む人物。
伊達政宗に能を任せれば良いと考える。
そして、伊達の戦力も同時にヨーロッパ戦に投入する事も出来る。
南アメリカ大陸グアヤキル城に手紙を出す。
『能に堪能な者と予備戦力をこちらに送って欲しい』
と、書いて。
「真琴様、なにを始めるというのですか?」
と、お初が聞いてきた。
俺が『能』に興味を示したのは一度もなかったから不思議なのだろう。
「これから娯楽文化大革命侵略を開始する」
「はぁ?萌えですか?萌えですね?萌えなんですね?」
小太刀に手を掛けようとするお初を必死で止める。
「待て待て待て待て、本当に待てよ。お初の腕で刀を抜かれると本当に洒落にならないから。能は萌え化はしないから、だから伊達政宗に任せるんだし」
「そうですか」
と、お初は安堵なのか呆れているのかため息を大きく吐いた。
「それと、学校の生徒で演劇に興味ある者の希望者を募ってくれ。シェイクスピアのような演劇を始める」
「シェイクスピア?噂は聞いております。なんとも素晴らしい劇を見せているとか」
「うちでもそれを始める」
「萌えだったら許しませんよ」
と、お初は睨み付けてきた。
萌えは受け入れる人と拒絶する人がいるのは理解している。
今回は純粋に演劇だ。
「まあ、これを読め」
船内で考えた脚本の骨子を見せる。
貧しい平民出身の娘が商家に売られ奴隷として働き始めると、客で来ていた老人に良くしてあげる。
その老人は、あまり大きな買い物はしない貧しい老人なのにやけに目が肥えており、品物の善し悪しを見抜いてしまう厄介な客で商家としては冷たくあしらうのだが、娘は優しく接する。
ある日、老人は今までとは違う立派な出で立ちで家臣を連れて商家を訪れると、その奴隷を買い取る。
老人は実は引退した前国王で、奴隷の娘の良い性格に惚れ込み国王である息子の嫁とする。
奴隷だった娘が王妃になって幸せに暮らすと言う、成上がり物語で幸せな結末を迎える王道的な物を見せた。
「あら、まともなの書けるのですね」
と、お初は驚いていた。
「はははははっ、萌えバージョンも考えてはいるが最初は良い物語からかな。他には、元国王が身分を隠して旅をして、悪事を働く役人を懲らしめていく物語とかも書いたが」
と、言うと
「領主に虐げられた者が集まる学校としては良いかもしれませんね。真琴様、一度萌えを忘れてこのような真面目な物語を書き続けてみては?」
と、お初は言う。
俺が書いた物語は平成時代見ていた物を今の時代に合うようにアレンジしたものだが、この時間線上では俺が書く物語が元祖になるわけだ。
「マコ~つまんない」
・・・・・・。




