第603話 マドリード城
イスパニア国中央部にあるマドリードは古くからの首都、平成時代にも残るマドリード宮殿があるのだが、それを見下ろすように安土城型の日本式望楼型天主が築かれ、堀を星形にした城と言う和洋折衷の城が蒲生氏郷の手で作られていた。
もちろん天主は織田信長の住居で、マドリード宮殿は蒲生氏郷の住居になっていた。
俺はマドリード宮殿に入りたかったが、天主に呼ばれてしまう。
「宮殿の中見たかったのに」
「ふっ、あとからじっくり見れば良かろう」
と、天主最上階からマドリード宮殿を見下ろして言う織田信長。
「わざわざ来たからには戦車の事だな」
「そうです。あれは陸を走る小型戦艦、大量につくればヨーロッパの国々を征服できてしまう。しかし、それは俺は・・・・・・」
「だろうな、わかっているわそのようなこと。しかしだ、この大陸はきな臭い。今も同じ神を信じていながら解釈の違いで戦争が起きようとしている」
「・・・・・・カトリックとプロテスタントの戦いですね。確か今は一旦収まっていて次の30年戦争までは時間があるはず、そのくらいのテストで出た事は辛うじて知っていますが」
「だが、それは常陸が知っている時間線のこと。この世界では、また起きようとしている。フランス王アンリは、また戦で国が疲弊するのを恐れている」
フランス王アンリⅣ世、ナントの勅令でプロテスタント信徒に対してカトリック信徒とほぼ同じ権利を与え、近世のヨーロッパでは初めて個人の信仰の自由を認めた人物。
カトリック一強支配から政治権限を薄めてしまう政策、それはうちのやり方としても共感できる勅命。
しかし、プロテスタントに軍事・政治の特権も与えてしまい、根強い宗教対立とともに国内の不安定要因を作ってしまう。
「また宗教対立戦争ですか・・・・・・くだらない・・・・・・くだらなすぎる」
「そうだ、だから、フランス王アンリは同盟を求めてきた。日本国の軍事力の後ろ盾で争いの目を断ち切りたいと。だから大量の戦車でこのイスパニアだけでなく、フランスに出向き馬揃えを行う」
「戦いが起きる前に圧倒的軍事力を見せつけてしまう。という、わけですね」
「ああ、そう言うことだ。今ならまだ、鬼才の将軍黒坂真琴の名が効くからな」
フィリッペⅢ世の処刑台、『地獄の業火の塔』またの名を『インフェルノ・フレイム・タワー』の事はヨーロッパの国々には知れ渡っている。
ヨーロッパだけではない、イスラム圏からアジアまで。
日本では、朝鮮から来ている商人からその噂が届いたくらいだ。
世界一周している。
圧倒的火力でイスパニア帝国を滅ぼし、国王を油で揚げたと言う噂というより真実が。
「戦争を起こさないための軍事力誇示、これになら協力します」
「儂が世界征服を企んでいると思ったか?ぬはははははははっ、いつ終わるやも知れる歳、人生の最終幕、いつ終わるかわからぬ野望だけの戦いで終わらすなど滑稽。常陸、次の時代に続く平和を、民人が笑える世を、作るために何をすべきかをしていくのみ」
「それを聞けて本望です」
「氏郷もしかと心せよ。侵略など最早必要なし」
と、襖の陰にいる蒲生氏郷に信長は命じた。
「なら、俺は戻って戦車大量生産を開始します」
「ん、頼んだ。あっ、そうだ。常陸がしている貧しい平民に教育をする学校だがな、各地に作り始めている。これ以上常陸の所に若い娘は行かんぞ、残念だったな」
「いや、二人側室増えたからそれで良いんです。もうそろそろ自重しますよ」
「そうか、ぬははははははっ」
俺はすぐにジブラルタル城に帰り、戦車製造工場建設に取りかかった。




