第555話 インカ帝国とマチュピチュ・その2
空中都市マチュピチュ。
山の急斜面に石垣で幾重にも畑が作られている。
その中心の道を案内されてひたすら登ると、空中都市マチュピチュの中心部の入り口だ。
両脇は石の壁、狭い入り口を潜ってはいる。
まるで山城のお手本となるような造りに唯々驚く。
道脇の細い側溝には水がチョロチョロと流れ灌漑用水路の役目を果たしている。
「このような都市を破却しようなどもったいない。もし、維持費が必要なら私費から出そう。お初、その位は捻出出来るよな?」
「えぇ、100万人都市でも作れるほどの収入がございますから」
「えっ?そんなに収入あったっけ?」
「真琴様は、収入を気にしなさすぎです。オーストラリアなどの交易で巨万の富を得ているというのに」
最早、領地の石高の概念を超えていることすら気にしていなかった。
「マコ~、茨城の城の蔵見なかったの?黄金の城でも作れそうな位に入っているのに~」
と、お江も呆れていた。
「ここのシャーマンを務めます。テルへペと言う者が挨拶したいと申しております。父上様」
そう言って近づいてきたのは、黄金の糸で織られた衣装を身にまとった50代くらいのおじさんで、頭を下げて待っていた。
「シャーマンか、許す。会おう」
↓須佐通訳
「ここの首長を務めますテルへペでございます」
「黒坂常陸だ。突然な訪問許せ」
↓須佐通訳
「突然ではございません。星が英雄の来訪を教えてくれていました」
と、まだ青い星空を指さしていた。
マチュピチュの最重要神殿は天体観測をしていたとされている。
風の噂を星で占ったと表現したところだろうか?
「マチュピチュをこの目で一度見ておきたかった。この都市の役目は薄くなってはしまったが、このような素晴らしい都市は残したい。須佐にも申したが、維持費は俺が出す。この都市を残せる道を模索してはくれぬか」
↓須佐通訳
「これぞインティワタナ、太陽と我らをつなぐ思し召し。この聖地の残る道を与えてくださるとは」
「須佐、ここはどうやらインカとしても宗教的にも聖地のようだぞ」
「はい、父上様、そのようにございますね。だから、母上様も、一度自分の目で確かめてこいと仰られたのですね」
「須佐、いずれインカ帝国を継ぐのであれば文化は大事にせよ。新しき物を取り入れながらも古き物を忘れることがない国作りが必要だ。将来この地は、観光客が押し寄せる地、大切にせよ」
「父上様?」
「気にするな。兎に角、インカ帝国は復興半ば、金が必要なら援助する。ここは残せ」
「はい。わかりました」
マチュピチュの都市を二日かけて案内された。
英雄と崇め立てられる俺は入れない場所はなく、太陽の神殿や、花崗岩の一枚岩を削り出して作られた日時計なんかも案内付きで見学出来た。
お初は黙って付いてきていたが、お江は飽きたらしく、紫色をしたジャガ芋や、それこそ黄金色と表現したくなるような濃い黄色のジャガ芋を喜んで食べていた。
「あっ、それインカの目覚めだろ。お江、俺の分は?」
「マコの分も食べちゃったもん。マコは石と仲良くしてれば良いんだもん」
と、お江は少しすねていた。




