第292話 アイヌ
樺太城に滞在して一週間、何やら門で騒ぎになっている。
板部岡江雪斎が対応しているのを覗くと20人くらいの集団、異国の言葉なのだろうか上手く聞き取れない。
その言葉は、アイヌ語だとお江が左腕にくっ付けば、対抗して右腕にくっ付いてくる鶴美が教えてくれる。
甘えん坊が増殖した。
不思議な紋様が描かれた民族衣装を着た者達。
板部岡江雪斎はある程度、言葉を習得してるのか話しているが、城に入ってこようとする集団に兵達が弓矢を向け始め、アイヌ民も弓矢を構えた。
一触即発。
そこに割ってはいる。
「えぇい、やめよ、やめよ、なにをしているというのだ」
と、俺が言いながら行くと北条の兵はすぐに矢を下に向ける。
それを見てアイヌ民も弓矢を納める。
「板部岡江雪斎、これはどうしたことだ?」
「はい、人喰い熊ジダンが冬眠を前に小さな村が一つやられまして、これも当家が開拓を始めたからだ、と抗議に来たのです」
と、アイヌ民に目をやると
狼の毛皮を被った一人の若い女性が
「アナタ ホウジョウよりエラい?」
と、片言で言ってきた。
少しアイヌ民としては違和感があったが、どうやら一番のまとめ役らしい。
「これ、我が殿よりも格段に偉いお方、直接話しかけるな」
と、板部岡江雪斎が止めるが、
「構わぬ。北条に命じる事が出来るくらい偉いのは間違いない、黒坂真琴と言う」
「ワタシはムラオサのムスメ、トゥルック アナタ エラい?そう ナラ モリをキリヒラクの ヤメサセテ」
「とにかく座って話そう。板部岡江雪斎、広間に通せ、危害を加えるつもりはない」
しかし、周りの者が止めようとしている。
「わかった、小糸、小滝、ここですまぬが座って待っていてはくれぬか?」
「はい、御主人様が人質になれと申すならなります」
「御主人様が望むことなら」
と、小滝、と小糸は二つ返事で了承してくれる。
「トゥルック、この二人は俺の妻だ、人質としてこの両者の間に座らすから良いな」
「ワカッタ ミナに ツタエル」
と、押し掛けてきた集団にアイヌ語で伝える。
板部岡江雪斎は板部岡江雪斎で急いで俺の側室が座るのに失礼がないほどの支度、野点をする感じに準備をした。
アイヌ民のトゥルックは二人の側近なのかだけを連れ広間に通された。
ちなみに北条氏規は港開発に出かけているらしく不在だ。
伊達政宗も近くを見て回りたいと馬で鬼庭綱元と家臣を連れ狩りに出て不在だ。




