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茶々視点外伝 茶々視点・①②⑤話・大津城に尊朝①

大津城で政務に励む真琴様の補佐をし続ける日々。

真琴様は火鉢に囲まれ、巻物や書付、帳面の山に目を通し続ける。


火鉢の炭がぱちりと爆ぜ、湯釜がかすかに鳴る。

墨の匂いと紙の乾いた匂いが、部屋の空気を占めていた。

外は冬の気配が濃いのに、室内だけは湯気と火の温もりで霞んで見える。

――けれど、その温もりの中で、真琴様は一日じゅう動かず、座ったままの時もあった。


「……腰が痛い……」


ついにそんなことを言い始めた。

私としては、その“痛い”が大事の前触れにならぬかと、胸の奥がざわつく。

真琴様は病に関してだけは妙に厳しい。

自分のこととなると、つい後回しにする癖があるのに。


「真琴様。細かなことは私と力丸でいたしますから、領内見回りなどしてはいかがですか? 黒坂の軍も、いざと言うとき動けるよう訓練もいたさねば」


書付から顔を上げた真琴様は、ぽかんとした顔で一言。


「……あ~、鷹狩りかぁ~」


「鷹狩りとまでは行かずとも。馬周り衆を連れて遠乗りなどなされたらいかがです? 幸い今日は日差し温かく、風も穏やかです」


私がそう促すと、真琴様は渋々というより、案外あっさりと頷いた。


「ん~、確かに戦場で護衛となる者の力量を見ておかないとだね。ちょっと軽く、領内巡察を兼ねた遠乗りしてくるわ」


その日、真琴様は柳生宗矩と真田幸村、そして配下を連れ、三十騎ほどで城を出て行った。


毛皮を纏ったまま馬に跨る姿は、相変わらず“熊”に見えなくもない。

見送りに並んだ足軽が一瞬だけ目を丸くしたのを、私は見逃さなかった。


真琴様が出立すると、城内は静かになる。

私は城に残り、足軽屋敷の割り振りや台所方の人足の帳面を見直していた。

筆を置いた瞬間だった。


「姉上様、一大事。比叡山座主が――」


慌てた声で入ってきたのはお初。息が切れている。

胸の内がすっと冷える。あの夜のことが、否応なく脳裏をよぎった。


「……まぁ。また来なさったのですか?」


「はい。ご機嫌伺いだとおっしゃっておりまして……母上様がたまたま目にしたので、仏間に」


母上様の仏間――父上様と御祖父様の位牌がある、あの場所。

胸の奥に針を刺されたような痛みが走る。けれど、顔には出さない。


「そうですか。わかりました。私も行きます」


私は衣の裾を整え、足早に母上様の御殿へ向かった。

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