表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1234/1334

茶々視点外伝 茶々視点・⑦⑧話・寝屋

湯殿からの湯気がまだほの温かい廊に、桃子がそっと顔を覗かせた。


「御方様、湯の支度、できております」


「真琴様はもうお浸かりに?」


「御主人様は『酔っているから軽く流すだけでよい』と仰せで、すでに寝所へ」


「もうお休みになったのね」


私は身を清め、髪を拭い、薄衣に着替えて寝所へ向かった。


障子越しの灯が揺れ、墨の香りが微かに漂う。――“お休みになった”はずの真琴様は、文机に向かい筆を走らせていた。


「……あぁ、茶々か」


「お休みと聞いておりましたが」


「少し横になったけど、目が冴えてね」


酔いはすでに引いているらしく、顔色はいつもの穏やかさに戻っている。


私は畳に手をつき、三つ指を揃えた。


「本日より、寝屋を共にいたしたく存じます」


真琴様は筆先を上げ、言いよどむ。


「そのことなんだけど……一緒の部屋で眠るのは構わない。けれど――」


「けれど?」


「茶々が十六歳になるまでは、抱かない。……いや、本当は抱きたいけれど、抱けない」


胸の奥がきゅ、と鳴る。私は静かに問い返した。


「なぜにございます? 夫婦は契りを結ぶものだと」


「茶々は十四歳だ。若い身体で子ができると、母子ともに危ないんだ。これは未来の知識であり、未来の価値観――未来の日本の“法律”でも、十六歳までは婚姻を禁じている。身体を守るために、ね」


「……『郷に入っては郷に従え』と申しますけれど、こればかりは従うわけにはいかぬ理でございますね」


「わかってくれる?」


「真琴様が未来の知をお持ちなのは承知しております。納得……いえ、従います。――もしかして、そのお考えを今したためておられたのですか?」


「うん。次に信長様に拝謁するとき、女性の身体を守るため“初夜の年齢”を定めるよう提案しようと思って。今は戦が多く、皆が早く子を望むのは理解している。だから強制は難しいかもしれない。でも、戦のない世をつくるために動いている以上、その世が来たら正式な法度にできるはずだ」


「……なるほど」


「茶々、不満だろうけど我慢して。俺だって欲を抑えて我慢してるんだから。こんな美少女と同じ寝屋で、ね」


思わず笑いがこぼれる。


「ふふ……ほんとうに、おもしろいお方。大丈夫、わかっております」


「今日は疲れた。寝よう」


真琴様は筆を収め、灯を落として自らの布団へ。


私はその気配を確かめ、隣の布団に身を横たえた。


夜気が襖の隙を抜け、湯上がりの肌にひやりと触れる。闇に目が慣れると、隣で静かな寝息が始まる。


――十六歳になる日まで、待つ。

その約束が、胸の奥で静かな灯のように明るくともった。


私はそっと横向きになり、真琴様の横顔を見つめる。


墨の香と、湯の名残の温もり。まぶたが重くなり、微睡みが私をさらっていった。

原作13巻2026年2月25日発売

オーバーラップ文庫

挿絵(By みてみん)


電撃大王連載中

挿絵(By みてみん)

電撃コミックスNEXT⑦巻発売中

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版案内】 13巻2026年2月25日発売 i1090839 i928698 i533211 533215 i533212 i533203 i533574 i570008 i610851 i658737 i712963 i621522 本能寺から始める信長との天下統一コミカライズ版☆最新情報☆電撃大王公式サイト i533528 i533539 i534334 i541473 コミカライズ版無料サイトニコニコ漫画
― 新着の感想 ―
16歳からの婚姻は平成を感じれる。小説版ではそこまでこだわってないように見えるが、こちらのほうが納得できる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ