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茶々視点外伝 茶々視点・⑦⑥話・仮祝言の儀

大手門を出て、いつも通っている道を輿で進む。


僅かな工程、見慣れた道――それなのに、今日はまるで別の道だ。


まだ完全な夕暮れには早いというのに、道脇には昼の明るさと言わんばかりに行灯がずらりと置かれている。


油煙の匂いと、芯がぱちりとはじける小さな音。


行灯の家紋は織田木瓜と抱き沢瀉、織田と黒坂の紋が交互に並び、私の行列を柔らかく照らしていた。


安土城内ゆえ、道の両側で見守るのは織田家家臣団に属する者たち。


お行儀よく整列し、静寂で身守っていた。


そこに一人の声が響く。


「よっ! 日の本一の花嫁!」


張りのある声を投げたのは前田松。


あまりに整い過ぎた静けさに、ふっと笑いが走り、拍手が波のように広がる。


私はその音に包まれながら、黒坂家屋敷の大広間前、白州にて輿を降ろされた。


輿から大広間までは、砂利の上に簀の子が渡され、その上に赤の敷物がきちんと敷かれている。


侍女に手を添えられ上がると、金屏風に囲まれた上座に、束帯姿の黒坂常陸守真琴様が静かに腰を下ろして待っていた。


私は促されるまま用意の座へ進む。


「これより固めの杯を執り行います」


侍女の澄んだ声。


厳かに、淡々と、三三九度の儀が進む。


真琴様が盃を取り、静かに口へ運ぶ。


その盃が私の手に渡り、御酒みきをいただく。


三、三、九――。


盃の縁が唇に触れるたび、胸の奥の鼓動が一つずつ数を刻む。


これを済ませれば、私は黒坂家の者となる。


やがて盃が収められ、真琴様がようやく口を開いた。


「茶々、武将としてはいささか頼りないだろうけど、よろしくお願いするよ。俺の補佐――そして黒坂家の“かかさま”としてね」


「はい。真琴様が大変とお感じのことは、すべて私にお任せください」


侍女が盃を片づけ、恭しく告げる。


「これにてご縁は結ばれました。――茶々の方様、これより黒坂家家臣衆の宴席へ」


「そうそう、前田慶次がね、良い酒を取り寄せて“みんなで祝うぞ~”って。にぎやかになるよ」


真琴様は苦笑を洩らし、束帯から裃へ改めるべく一旦退室なさる。


私も衣装を着替えるため、新しく設えられた私の居室へ向かおうとした、その時――


庭に帯刀の女たちが音もなく現れ、片膝をついて深々と頭を垂れた。


その数、およそ三十。灯に照らされた刀の鞘が、鱗のように淡く揺れる。


「これより、ここにいる者は茶々様の御身近くに仕える一同にございます。お見知りおきください」


以前から侍女に紛れて屋敷警護に就いていた裏柳生、前田慶次配下の面々――くノ一の精鋭である。


「――互いに、黒坂常陸を盛り立てようぞ」


私がそう号令すると、女たちは一斉に、さらに深く頭を垂れて応じた。


胸の内で、ひとつ静かに覚悟が固まる音がした。

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