茶々視点外伝 茶々視点・⑦⓪話・彫刻師
蒲生氏郷と森力丸、そして大工衆が図面を囲んで話していると、
「――あっ、そうそう。城の飾りを頼むのに、人を雇いたいんだけど……大丈夫かな?」
真琴様が遠慮がちに小さく手を上げられた。私は思わず口を挟む。
「ここは真琴様の城にございます。もっと偉そうにお命じなさいませ」
「茶々みたいに慣れてないんだから、仕方ないだろ……」
氏郷殿が一歩進み出て、恭しく問い直す。
「殿、どなたか心当たりが? なければ京より呼び寄せましょう」
「左甚五郎って人物を探してほしいんだけど」
氏郷殿は首を傾げる。
「幾人か名の立つ彫工は存じますが、その名は聞き及びませぬ。有名な方にござりますか?」
「俺が知っている名と、少し違うのかもしれないかな」
森力丸も続ける。
「御大将、名が違うやもしれませぬ。特徴は?」
「左利きの彫刻師だって聞いたことがある」
「左利き……それは珍しい。噂の一つも立ちましょうが。――殿、いかなる物をお望みで?」
「信長様用の御成御殿に、絢爛豪華な椅子を置きたい。龍や鳳凰を彫った、王が座るにふさわしい椅子」
「なるほど、特別の座に。上様もお喜びになりましょう」
「左甚五郎がわからないなら、高札を出して腕自慢に彫らせて選べばいい」
「はっ。完成まで時がございます。探し、募りましょう」
吹き抜ける木の匂いの中で、私は真琴様の横顔を盗み見る。
梁を渡る光が頬を撫で、指先はもう次の城の姿を描いている。
「しかし――和洋折衷で、あれこれごちゃごちゃと注文しているけど……この城、大丈夫かな」
「義父・織田信長公が真琴様を城主と定められた以上、何ら問題ございません。それに今のご指示は、いずれの備えも役目を果たすための要。比叡山の監視、そして義父上様の休息所として――」
私が言い添えると、氏郷殿も森力丸も黙ってうなずいた。
台所から陣幕へ戻る途上、廊の隙間風がひやりと頬を撫でる。
その時、真琴様が、私と柳生宗矩にしか届かぬほどの細さでつぶやかれた。
「……大津かぁ。大津、なぁ……。ああ、でも“未来”でも大津だし、仕方ないのか……」
その声は、覚悟と未練のはざまに置かれた小石のように、私の胸の底で、いつまでも小さく転がり続けた。




