茶々視点外伝 茶々視点・⑥⑧話・築城指示
真琴様は言葉を選びながら、建築と改造の提案を次々と口にされた。
壁内に“筋交い”と呼ぶ斜材を追加すること、御殿の屋根材を改めること。
檜皮葺ではなく銅板葺きに――と。
銅板は費えが嵩む。私が思わず息をのむと、森力丸がすぐさま氏郷殿へ告げる。
「黒坂家の蔵には十分な貯えがございます。金子の心配は無用に」
氏郷殿は頷き、たちまち大工衆へ指示を飛ばした。打槌の音が、まだ乾ききらぬ木の香とともに天守の骨組みを震わせる。
「もし金が足りないなら、曜変天目茶碗を売ればなんとかなるでしょ? 俺、茶器には特段の興味ないし。信長様にも『好きにして良い』と言われて受け取った物だし、城にも匹敵する価値があるって言う人もいるんでしょ?」
私が止めかけたところ、森力丸が先に口を挟んだ。
「あの茶器は黒坂家の家宝とすべき品。御大将、売らずに蔵の金で」
真琴様は「わかった」と肩をすくめ、それ以上は茶碗に触れられなかった。
私はほっと胸を撫で下ろし、耳と目をふたたび提案へ向ける。
「兎に角、耐震性・耐火性を極限まで高めたい。屋根は、火が移りやすい材はなしで」
「はっ」
氏郷殿の返答は短く、速い。槍のように迷いがない。
続けて真琴様は、義父上がお越しの折に用いる御成御殿、そして城下を水堀で囲む“総構え”の採用を提案なさった。
氏郷殿が人足の数で難色を示したので、私はそっと添える。
「真琴様は、まずは提案できることをすべて。あとは義父上の御裁可にお任せなさいませ。すでに琵琶湖を水運で結ぶ案はお受け入れ済み、城下の水路も道理が立つはず。人足の手配も、きっと」
森力丸が言葉を継ぎ、琵琶湖を六つの城で東西南北につなぐ計画を手際よく解き明かすと、氏郷殿は「凄い構想」と唸った。
ふと、私は思い出して口にする。
「そういえば、豚や鶏を早く移すよう仰っていませんでしたか?」
「あ、そうだった。安土の屋敷で増やしすぎて、鳴き声の苦情が来てるんだよ。氏郷、豚と鶏を城内で飼いたい。割り振りを――馬小屋の近くとかで」
「噂の“もてなす料理”で使われた鶏・豚にございますな。では三の丸の馬小屋近くに飼場を拵え、百姓を雇い専属で世話をさせましょう」
「それで頼む。……それと、生け垣で庭の区画と目隠しを。梅・桃・柿など果樹、五加木のように食えるものを混ぜて。畳の下地にも――ほら、芋づるを仕込んでおく」
「籠城の蓄えに、でございますか。籠城は負け戦とも申しますが、水運で他城と結ばれるなら援軍の望みが高まる。良案にございます」
氏郷殿が素直に賞めると、真琴様は悪戯っぽく口の端を上げた。
気が緩んだのか、ぽろりと本音がこぼれる。
「俺が何も言わなくても、縄張りは中々に攻めにくい。さすが――奥州に名城を築くだけはある」
「奥州には参ったこと、ございませんが?」
「真琴様、もう……っとに」
私は背で小さく合図し、言葉を引かせる。氏郷殿へ向き直って微笑み、静かに釘を刺した。
「真琴様は陰陽道に長けておられる――とだけ。これ以上の詮索はご無用に」
「はっ」
私は話題を台所へと移す。水場の位置、煙の逃げ、薪の乾き場――生活の匂いのする場所を先に整えさせれば、工事の手も乱れぬ。
金槌の音、木の匂い、風のすきま鳴り。
私はそのひとつひとつを胸に刻みながら、提案を書き留める宗矩の筆音を頼もしく聞いた。




