茶々視点外伝 茶々視点・⑥⑥話・大津城視察・蒲生氏郷
しばらく安宅船に揺られていると、大津城に仮設された桟橋へ船が横付けされた。
「失礼いたします。ご到着にございます」
森力丸が呼びに来たので、膝で寝かせていた真琴様をそっと起こす。
「お、おお……着いたか。茶々、足しびれてない? 大丈夫?」
「私のことはお気遣いなく。真琴様こそ、だいじょうぶですか?」
「うん、大丈夫。ありがとうね」
身を起こした真琴様は、着崩れた羽織を直し、柳生宗矩から太刀を受け取って腰に差す。
お江たちが先へ飛び出していくのを見て、真琴様が短く命じた。
「幸村、お江たちの護衛、先に」
「はっ」
的確な合図が飛ぶ。
外へ出ると、桟橋には黒坂家の抱き沢瀉の旗が湖風に鳴り、蒲生氏郷の家臣と思しき者たちが整列していた。
「大殿様のご到着!」
声が上がるや、一斉に片膝をつき、皆、頭を垂れる。私たちは渡し板を渡って下船した。湖面のきらめきと、湿った板の匂いが鼻に残る。
「蒲生殿、出迎えご苦労にございます」
森力丸が一人の武将へ挨拶し、続けて私たちへ向き直る。
「御大将、こちらが蒲生氏郷殿にございます」
「蒲生氏郷きたーーー!」
「ごほん。――蒲生殿、こちらが黒坂常陸様」
紹介に被せるように、真琴様が一歩進み出る。
「黒坂常陸守真琴です。よろしくお願いします」
「真琴様。仮にも蒲生殿は与力なのでもっと大将としての振る舞いを」
私が小声でたしなめると、
「だって年上だし……」
「それでもです」
「……はい」
やり取りがおかしかったのか、蒲生氏郷は口元だけで小さく笑い、
「蒲生氏郷と申します。以前、大評定の端よりお顔は拝しておりました。上様の仰せにて、与力というより家臣のつもりでこの大津の整備を進めております。勝手ながら、縄張りを描いた図を陣幕の内に用意いたしました。ご覧いただけますか」
と、丁寧に頭を下げた。
私たちは陣へと案内される。踏み締める土はまだ新しく、灰の匂いがかすかに漂っている。
歩を進めたところで――
真琴様のお腹が、盛大に「ぐうぅ」と鳴った。
「私もお腹すいた~」
「お行儀が悪いわよ」
お江はお初に一喝される。
「真琴様は船酔いで吐き戻されたのです。――氏郷殿、湯漬けなど用意できますか?」
「はっ。米を炊かせ、鮎を焼かせております。それでいかがでしょう」
「なら、それで湯漬けを」
「承知」
まずは湯漬けで腹ごしらえ――湯気の立つ丼から、米と出汁のやさしい香りが立ちのぼる。
焼き鮎の香ばしさが重なり、凍えた身に、じわりと熱が戻ってきた。




