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茶々視点外伝 茶々視点・⑥④話・大津城視察準備

いつものように黒坂家の屋敷へ向かうと、広間では蒲生氏郷殿の使者が控えており、真琴様が文を読んでおられた。


紙から立つ墨の香りが、朝の涼気にまじって鼻をくすぐる。


「そろそろ城主として視察に出向くか……。これって、陸路で兵をそろえて行くことになるの?」


真琴様が眉を寄せられると、森力丸が一歩進み出て、


「ふつうはそうでございます。五十騎ほどは最低でも引き連れます。が、茶々姫様方もご一緒とのことで、上様の格別のお計らいにて安宅船あたけぶねをご用意くださる由」


と答えた。


「それは助かる。じゃあ、安宅船を出せる日を確認して。――茶々、それに合わせて行くからね。風向きやら天気やら船頭が良いとする日にするから突然でも行けるように」


「はい、承知しました。えっと……真琴様、護衛のことでお願いがございます。お江たちに必ず付くよう、くノ一を数名、手配いただけますか」


「うん。ああ――厠とかもあるし、それはそうか」


「あなたねぇ、少しは言い方ってものがあるでしょ、ったく。ま、私は自分で自分の身を守れるけどね」


お初が自信げに言う。脇で控える柳生宗矩は、苦笑しつつも小さく首を振った。


「宗矩、くノ一の手配、頼める?」


「はっ。当家裏柳生と真田戸隠衆を合わせれば、軽く十名ほどは揃えられます」


「なら、よろしく。他の護衛も」


「殿の側には、この柳生宗矩が」


「それなら安心だ」


 ――黒坂家は、くノ一がすぐ十名も整うのか。

 少し戸惑っていると、縁側の外で衣擦れの音。いつもお江の遊び相手をしている桜子たちの下で働く侍女が勢ぞろいし、片膝をついて一斉に頭を下げた。桜子姉妹以外は皆、忍びであったらしい。


「桜子姉妹以外、みんな忍びなのですか?」


私が思わず問うと、真琴様は頭をかきながら笑う。


「ははは……なんか、そうみたい。俺には人を雇う伝手がないし、いろいろあるから慶次と宗矩に任せてる。――今日は前田の家臣は休日番だよね?」


「はっ、休日番にて待機と相成っております」


森力丸が即答する。


「うちは家臣は交代制にしてるから」


「そのように。黒坂家当主である真琴様がお決めになっていることなら、それでよろしいかと」


私は勢ぞろいしたくノ一たちに「もう良いわ」とだけ告げる。


影がさっと散るように、彼女らはそれぞれの持ち場へ消えていった。


庭を渡る風が一陣、白砂を揺らし、安宅船の船板の匂いまで運んでくるように思えた。

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